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悪役令嬢が魔法少女?  作者: まきえ
悪役令嬢が魔法少女?今度はバトルアリーナでロワイアル?

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35.スーパーヒーローランディング


「――待たせたなお嬢ちゃんたち! スーパーヒーローの登場だ!」


 意気揚々と現れた男こそ、――『白』の位に君臨する黒色の大賢人、そして騎士の称号も受けた特異の大豪傑。橋の下からでも十分に聞こえる声にセルが欄干から身を乗り出す。


「ウィリアム様!?」


「お、この声はセルちゃんか? オレが来たからにはもう安心、ドゥわ!?」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」


 ウィリアム=ブラックスミスに上顎部分を踏みつけにされたファブニールの咆哮が響く。震わす空気が感情を伝播させた。明らかに憤怒している。彗星のように墜落した衝撃で牙は折れ、熱を持った血が口から垂れていた。地面に落ちれば蒸気が上がる。


「ゆれ、ゆれ~!?」

「お前! いつまでそこにいる!」


 ホーリーホックの握る剣の刀身が黒く変色し、ウィリアムの首を狙って横薙ぎにした。怒りに任せた一閃。だが、ファブニールが動いたことで体制を崩した隙なら、防ぎようがない。


「な、にっ!?」


 剣を振るった本人が驚愕する。黒色になった刀剣は魔力圧縮の証であり、切れ味ならば鋼鉄すら紙のように断つ。圧縮を伴う斬撃は、飛翔する刃と化す。それを、事もあろうに『白』の騎士は左腕一本で弾いた。


 軌道がずれた斬撃は石橋の躯体を両断する。それだけの威力を孕んだものを無傷で弾く膂力(りょりょく)と胆力。想像を超える出来事に、魔女の思考に空白ができた。


「おたくは誰ちゃんかな! 人んちに来たならノックしな!」


 瞬きの間に、ホーリーホックの視界から白い影が消える。消えたと認識した刹那、彼女の臍部に強い衝撃がはしった。


 ウィリアムの拳が低い体勢から突き上げるように放たれる。肉体強化をしていたホーリーホックの身体が浮き、体内を蝕む鈍痛に表情が歪む。ファブニールの背から殴り飛ばされた魔女は数十メートル先の渓流に落ち、大きな水しぶきが上がった。


「やべ! 飛ばしすぎた! だけど何だ!? バカでかい大木を殴ったみたいだ!」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」


「うおっ!?」


 主を傷つけられたからか、ファブニールが再度咆哮する。瞳孔が開き、大きくなった鼻腔から荒くなった息を吐く。


 大きく動いたことでウィリアムは体勢を崩して上顎から落ち、振り抜かれた尾で身体を殴り飛ばされた。石橋の躯体に打ち付けられたことで大きな亀裂が入り、支えが弱くなったことで崩壊する。


 頭上からも大きな石が落ちてくる。轟音とこみ上げる土煙が辺り一面を覆い尽くす中、――




「――『サンダーボルト・バルカーノ』――!!」


「――『竜槍(りゅうそう)(つめ)』――!!」




 雷の砲弾と風の斬撃がファブニールに強襲した。竜の鱗に直撃するも、ダメージがある様子はない。




 魔法の余波で土煙が飛散する。その隙間から、ドレスアップを経たマグライトとセルが現れた。そして、その後方から、より濃い魔力がうねりを上げる。




「――『赫色(かくしょく)一刀(いっとう)灰塵(かいじん)一燈(いっとう)黒狼(こくろう)烏蛇(うだ)(にえ)となれ、大炎剣フレイム・カフ・トロス』――!!」




 マグライトの『サンダーボルト・バルカーノ』でもセルの『竜槍(りゅうそう)(つめ)』でもダメージがなかったが、幾重もの爆炎の衝撃が竜の鱗に傷を付けた。


///


 ――時間はウィリアムが墜落してきた直後に戻る。


「ウィリアム様!?」


 セルが欄干から身を乗り出し、深い渓谷の先にいる白い影を見つめた。人の大きさは米粒ほど小さく見えるが、セルは義眼を通してその姿を鮮明に映していた。


「ムラサキ!? ちっ、これ、硬い・・・・・・」


 レベッカがムラサキを閉じ込めた黒い正三角錐を叩く。硬い金属のようにびくともしないが、中からは人の気配がした。


「形状から見て、空間固定の拘束術式のようですわね。今の状況では、術者本人の解除がないとどうしようもありませんわ」


 マグライトは冷静に状況を確認する。ファブニールの息吹が不発に終わったことで、こちら側の被害はムラサキの行動不能だけとなっていた。


「・・・・・・ようやく来たか。マグライト、その杖を貸せ」


 身体を起こしたホムライトがマグライトの前に立つ。マナがない状態でドレスアップをしているホムライトの種を見抜き、必要な礼装として徴収しようとしていた。


「イヤですわよ。これはワタクシがレベッカにあげたものですわ」

「それを私から奪ったのもあなたよ」

「四の五の言っている場合か! 強情にしている間に・・・・・・ん、まてよ。そうだ。誰か予選の時に配られた小コアはあるか」

「あ。それなら私が」


 レベッカは懐に入れていた【赤】の小コアを取り出してホムライトに渡した。赤く輝く小コアの内部で何かの脈動があった。


「これを使う。魔石と同じ原理が使えるなら、一時的だが魔法が使えるはずだ」

「言ってる意味がわかりませんわよ」

「これはアビゲイル先生が特別に設計して精製したマナの結晶体――擬似的な"()()()()"だ。破壊されなければ、一定の魔力を精製して貯蔵する。予選における制約(ルール)の範囲内で設計されているが、これだけで数人分のマナの代替となるはずだ」


 ホムライトの手のひらに収まる小コアが輝き出す。レベッカでもわかるほどの魔力の流れがあった。手にしていた大剣の刀身も真っ赤に変色する。


「貴様たちも使え。ファブニールの討伐、手伝ってもらうぞ」

「ホムラが言うのなら有事よね。もちろん報酬は期待しているわよ」

「こんな形であなたと共闘するとは思わなかったですわ、ホムライト」


 セルとマグライトも小コアを手にしたことで、全身に流れる魔力の存在を知覚した。セルの全身を光が包み、白い(ドレス)の姿に変化した。


「気をつけろ。魔法は使えるようになっても、おそらく数分しか持たない。マナ切れの閾値は超えるな。こんな状況でマナ切れの意識混濁はカバーできない」


 最後にレベッカに戻された【赤】の小コア。先程とは変わって光量が減り、他の同色の存在が認識できなくなっていた。


「あの・・・・・・私、これからの魔力の摂り方わかんないんだけど・・・・・・」


「なに。おい、マグライト。なぜ教えていない。魔法の杖を提供したのなら教授しておけ」

「こんな特殊な使い方なんてあると思わなかったからですわ。んんんんんんんんんんんベッキーちゃんはマナタンクの護衛! コレで行きましょう!!」

「それただの荷物持ちじゃない!?」


 足場を揺らす衝撃。渓谷からは高い水しぶきが上がり、石橋全体にヒビが入る。轟音とともに足場が崩れだした。


「飛び降りろ! レベッカはワタシがカバーする! 行け!」


 ホムライトの号令により、黒い正三角錐に閉じ込められて空間に固定されたムラサキを置いて4人が渓流にいる竜のもとに飛び降りた。


///


 渓谷の底で鱗を焼かれた痛みで眼が血走っている竜の前に4名の魔女が降り立つ。


 橋が架かっていた場所には、未だ黒い正三角錐が浮いていた。マグライトの推測通り、術者であるホーリーホックによる解除がなければ動かず、壊せない絶対防御の空間固定式の結界であり、本来の用途とは違って拘束する目的で使用されていた。それにより空中にムラサキを置き去りにする形にはなってしまったが、現状とすれば結界内の方が安全領域となっていた。


「どっこいしょ! だぜ!」


 石材の下敷きになっていたウィリアムが姿を現す。全身土埃で汚れており、白いマントだっただけにかなり目立つ。鬱陶しいとばかりマントを脱ぎ捨て、筋骨隆々とした肉体があらわとなった。


「遅いぞ、ウィリアム」

「文句言うなよ、ホムラちゃん! お前のお願いを聞いて遅くなったんだぜ! 今頃、小鳥狩りの最中だろうさ!」

「よし。なら早急にファブニールを討つ。飛ばれたら厄介だ。ん。あの魔女はどこに行った?」

「あ、それならぶっ飛ばしちまった!」

「バ、――」


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」


「うるさい!!」

「うるせぇ!!」


 咆哮するファブニールに負けない声量で、『赤』と『白』が叫ぶ。




 ホムライト=ドグライト=メーガス――『赤』の大魔女の持つ大剣には炎の術式が付与(エンチャント)されていた。


 『大炎剣フレイム・カフ・トロス』――単純な攻撃力を強化し、かつ切り口を延焼させてより大ダメージを与える。肉体には強化(エンハンス)を施し、先程までとは違ってマナを蓄えたファブニールの一撃で弾き飛ばされることはない。




 ウィリアム=ブラックスミス――『白』の騎士の拳に魔力が宿る。


 武装と礼装を一切持たない時に発動される『血拳(けっけん)闘将(とうしょう)(ちぎり)』は、徒手空拳での絶大なアドバンテージを持ち、さらにはウィリアムだけがマナを注入した酒を飲むことで内臓から直接摂取してるため、肉体的な強化はアビゲイルやホムライト以上となっていた。


 酒から摂取した全マナを飛行能力で出力し、攻撃面は契で対処する。体内でアルコールとともにマナを分解するまでの間、機動力を生かしてファブニールを翻弄することとした。




 飛び出したウィリアムが音すら置き去りにし、空気の壁を突き抜けたことで周囲に衝撃波が発生する。目の前の人間を叩き潰そうと前腕を挙げたファブニールに激突し、巨大な身体が浮き上がった。


 下から首元にかけ、巨大な火柱が上がる。振り上げた大剣は、斬撃とともに高圧縮な炎を叩きつけた。全身を強固な鱗で覆っている竜ですら、その炎で身を焼く痛みに身体をよじる。




「・・・・・・あれ、わたしたちいるかな。色持ちだけで十分じゃない?」


 ホムライトとウィリアムの圧倒的な戦闘能力に、鎧姿のセルが固唾を呑んだ。


 色持ちの実力は、いわば未確定で間近で見れるものではない。彼らの実力は1人で1つの兵器と評されるほど、それでありながら、彼らが本気の戦闘をすることは戦争に等しく、その実力が発揮される場面は早々訪れない。


 その2人が全力を出す――大邪竜ファブニールは、3項目において脅威認定されていた。


 1つに――竜災とされる"マナ喰い"。過去に観測されたファブニール討伐記録には、最大半径5キロメートルに及ぶ魔法障害によって災害指定され、討伐に際し複数の国から選出された騎士団の多大な人的損害を伴って終息した。


 1つに――飛行時における圧倒的な"速度"にある。幼体・成体問わず最高速度は亜音速に到達するとも云われる。飛行による逃走を許した場合、騎士にとって対抗処置が取れず、さらなる被害の拡大が懸念されている。


 最後に――圧倒的な"耐久性"が挙げられる。蓄えたマナの量にも左右されるが、脱皮や時間経過により、受けた障害に対する耐性を獲得する。最初にホムライトがファブニールの攻撃を受け止めれなくなった要因であり、短期決戦で()()を破壊して無力化しなければ討伐は不可能である。


 竜における弱点とは、成体化することで肉体のどこかに存在する急所(コア)であり、個体ごとに統一性がないことが竜討伐における難易度の高さであった。




「・・・・・・っ!?」


 ホムライトが突き立てた刃が硬い鱗に阻まれる。刃にまとっていた炎が消え、黒い煙だけが発生している。


「マズい、ガス欠ですわ!」 


「ちっ・・・・・・!!」


 マグライトの声も、ホムライトの舌打ちも、状況を一変させる力はない。大きく薙ぐファブニールの首が魔女の身体を打ち付けた。対岸の絶壁に衝突しても勢いは収まらず、大きな亀裂が入る。


「セルはウィルのカバーに入って! レベッカ、焼付だけど、ワタクシは()()()()()()()()()!」

「ちょっとマグライト、レベッカと何をするつもり? ホムラすら太刀打ちできないのに・・・・・・」

「いいから! ウィルなら合わせきれる! けど、飛ばれたら終わりですわ!」

「ちっ・・・・・・。マグライト、恨むわよ。終わったらあと一回殴らせてもらうから」


 1人ファブニールの相手をしているウィリアムのカバーにセルが駆ける。


 マナの燃費の悪いメーガス家の魔術では、擬似的なマナ供給ではすぐに燃料切れになるが、刀剣を主体とするシシカーダ家の魔術は騎士の上位互換である。


 王立聖家の中では圧倒的にマナ効率が良く、術式は騎士の戦術を元に構築され、大型種である魔獣を相手にすることも珍しくない。以前に"マナ喰い"を伴わない竜種の討伐に参加経験のあるセルならば、【赤】の小コアから抽出された擬似的なマナだけでも活動猶予は幾分か長い。


「気を抜くなよ、セルちゃん! けど、気圧されるな。でけぇトカゲと思え!」

「は、はい!」


 肉体と大業物『テリオン』を強化し、飛び回りながらファブニールの飛翔を妨害し続けるウィリアムをカバーするように刃を構えた。


「よし。じゃあレベッカ。やっつけだけど、手伝ってもらいますわよ」

「な、何をする気よ・・・・・・」


 レベッカは1人だけ小コアからマナの供給ができていない。この場では彼女だけが生身であり、戦闘に参加するだけの実力を持たない。


 右手に装着している特殊篭手も、マナがなければ安全装置が外せずその真価を発揮することはできない。そんな彼女に、マグライトは何をさせようとしているのか。


「ファブニールの耐久性能は数ある竜種の中でも特殊ですわ。一度耐性を持った攻撃はほどんど意味をなさない。ウィリアムの足止めも時間の問題、ホムライトの攻撃の耐性を得たのなら、きっとワタクシの魔法も通用しない」

「なら、打つ手がないじゃない!? この篭手が使えたからって・・・・・・」


()()()()()()!! 現状、ファブニールに一太刀入れることはできませんわ。ワタクシを信じてほしい。うまくいくなら、ワタクシの秘伝の育乳方法を特別に教えてさしあげますわ」


 



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