*騎士寮第二監督生モレル・フレンチ*
広大な学園の、学生たちを管理統率する人間はそれぞれ様々な役職で呼ばれるが、中でも直に学生、下級生に関わる存在であるのは「監督生」である。
モレル・フレンチは騎士科の三年生であり、下級生に対しての懲罰の権利を有した第二監督生の一人だった。
モレルが寮の入口の騒動を聞きつけた時、そこには監督生達に周知された今年入学される「王族」の一人であり、騎士科に入学されたエドヴァルド王子が、顔に薔薇のようなアザのある令嬢に足蹴にされ、石畳の上に這いつくばらせられている、ありえてはいけない光景が存在していた。
あまりの光景に、周囲の学生たちはどうすればいいのか混乱しており、モレルが淡々と近づいて「これはどうしたことか」と静かに問いかけると、聖女科の新入生が早口でまくし立て、要用を得ない言葉の中から推測するに、エドヴァルド王子が同級生を不当に扱い、憤慨した女子生徒がエドヴァルドを叩きのめしたと、そういうことらしい。
モレルは興奮する聖女科の新入生と、そしてやっと我に返ったらしい王子の側近たちに詰め寄られつつ、自分の他にこの場で何か決定を下せる存在はいないのかと周囲を確認した。新入生ばかりであり、2年生はいるがその中に下級生への指導が許可された腕章をつけているものはいない。
どうにかしろと、そのように、モレルの立場を知る者には求められ、そうではない生徒たちは明らかに一般生徒と雰囲気の異なるモレルに対して、この場を上手くコントロールできる力があると期待する目を向けてくる。
モレルはため息を一つ吐き、まず赤い髪の新入生に声をかけた。
「まず、貴方は何者か」
「イザベル・ボルジアと言う」
家名を確認し、モレルは自身も名乗る。裁定者の登場だとボルジア嬢は理解したようだ。足で押さえつけていたエドヴァルドから離れると、モレルを真っ直ぐに見上げた。
顔に薔薇が散ったようなアザがある令嬢だった。本来、顔にアザなど、年頃の娘であれば恥入り隠すものだろうに、前髪を長く伸ばすわけでも、布で覆うわけでもなく、堂々と額を晒していた。そのあり様ですでに、この令嬢が他人の評価を気にすることなく自身の振る舞いに確信を持って行動する者であることがモレルにはわかった。が、だからといって、それはモレルが次に発する言葉を変えるものではない。
「資格証を」
学園の生徒たちには皆、在校生の証であるペンダントが渡される。資格証と呼ばれ、それがこの学園の生徒であるという身分を証明するものだ。
モレルはボルジア嬢から騎士科を示す緑の石のついたペンダントを受け取り、自分に許された権限を使用して、魔力でもってその石を砕いた。
女子生徒の悲鳴が上がる。聖女科の生徒のものだ。他にも、息を呑む音。動揺する生徒たちの気配が広がった。
つまりこれは監督生の権限で許される最大の「処罰」が執行されたのだ。
監督生モレル・フレンチの判断により、騎士が忠誠を誓うべき先、王族へ暴力を振るったボルジア嬢は、入学式の前に退学処分になった。
なんてこった。




