04
ゼロさんが問答無用で連れてきたのは、エデンの入り口近くにあるお店だった。
意外にも大きくなく、おしゃれなお店というわけでもない。なんというか、どこにでもありそうなお店だ。
店の名前は……「Master Master」?
「マナーとかそんな気にしなくていいからな」
ゼロさんはそういって扉を開ける。
内装も特に珍しくもないお店。普通にテーブルと椅子があるだけ。絵があるなーってくらいの控えめさだ。
店員さんのいらっしゃいませ、があって、ゼロさんの顔を見て驚愕する。
うん。まぁ闇の帝王様だしね。
「店主の最上の料理を2人前。内容は任せる」
「かしこまりました」
店員さんはぷるぷる震えながら、急いで厨房に戻っていった。
「……ゼロさん。正直、そんないいお店に見えません」
「だろうな」
確かにお客さんは多い。席いっぱいだ。
でも、そんなのルナティクスにはいくらでもある。道端の串焼き屋さんなんて行列だったし。
「まぁ楽しみにしてなって」
時間にして10分程度。
店主らしき人が現れた。両手に器用にお皿を持って、ゆっくりと並べていく。
「おおー!」
綺麗だ!色とりどりで綺麗でいい臭いがする。
飲み物も、こちらの要望を聞かずにトクトクと注いでいく。シュワシュワとしたその飲み物は甘い臭いがした。
「た、食べていいですか?」
「どうぞ。ごゆっくり」
店主の声を待って、一口。
「……………」
あ、まずい。これ全然違う。
自分の作っていた料理が情けなくなるくらい違う。しかも只のサラダ?肉や魚ですらない。
えー……。うっそだぁ……。
「んー…。まだ、大丈夫そうだな。店主」
「まだ、じゃなくて永劫ですよ」
ゼロさんと店主さんとのそんなやり取り。なんだ、二人は知り合いか。
「知り合いっていうか、この店はルナティクス屈指の店なんだよ。この街の連中なら誰でも知ってる。
金持ちでも、泥水すするような奴でも、平等に唸らせる飯を出すって有名でな。俺の知る限りで、一番安くて時間をかけない美味い店」
「時間をいくらでもかけて、素材にどこまでもこだわっていいのなら、どんな馬鹿でも美味い料理は出せます」
「はぁー…」
なるほど。確かにそうだ。
裏のルナティクスでは、素材が上級品だから、わたしみたいなのが手を加えたっておいしい。それは当たり前…。
くそぅ、なんか悔しいな。
「よし。店主。調理場見せろ」
「………あぁん?」
ちょっとゼロさん!?
マスター変な声出してるよ!?
「このガキが料理勉強したいんだってよ」
「ちょっとぉ!??」
「………」
店主さんは、それはそれはもう、ばっちりと青筋を立てていた。
「そんなガキに?この技術を?見せる?馬鹿か、てめぇ」
明らかにゼロさんに向ける言葉遣いではないけど、なにせゼロさんだ。そんなことにおびえるわけもない。
「へぇ?見られるだけで盗まれるほど安い技術なのかよ」
「あああああああん!????」
「こんなガキの社会見学を怖がるなんてなぁ。大口叩いといて、実は違う誰かが料理してんのか?なぁ、MasterMasterの店主さん?」
ブチブチブチブチ
血管が数本切れるような音がした。ような気がする。
「そこまで言うなら勝負だ!ゼロ!!お前が勝ったらガキにでもお前にでも見せてやるよ!!」
「ほう?内容は?」
「頭や腕っぷしで敵うわけねぇしな!次に来る客の性別だ!運のみでやらせてもらう!これならおあいこだ!!」
「毎日店にいる奴とほぼいない俺とがあいこだとは思わねぇけど。まぁ、いいよ。女」
「じゃオレは男だ」
その言葉のすぐ後だった。扉が開いたのは。
「ちょっとゼロ。こっちでご飯食べるなら声かけてよ。二人でMasterMasterとかずる……ってどうしたの?」
そこに来たのはリオ。店主さんが崩れ落ちたのは間もなくのこと。
それから残りの料理を食べて、特別に調理室を見せてもらって、手伝いまでさせてもらった。ゼロさんとリオが次々と食べてくれて、目を見張る働きだ!!とかなんとか言って、マスターさんには働かないかと言ってもらった。
光栄だけど、いったん保留で。
「なんであたしがくるってわかったの?」
「あれだけガキがカジノで馬鹿稼ぎしたら、お前の耳にも届くだろ。で、あとは魔力反応を見たら、お前が比較的近くにいたし、飯時でお前の休憩時間ともかぶる。店に入る前から予定済み」
マスターさん残念だったね。運じゃなくて計算づくだったようです。




