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「………で?どういうことだ?」
「逃げられた」
「洞窟塞いどいて、なんで逃げられるんだよ」
「何故か地下に潜ったみたいで…」
「あ?」
「あと、こんな書置きが」
狐が示す先には石を掘ったメッセージがあった。読むのも馬鹿らしい内容だが、なるほど、あのクソガキの仕業か。
―
妾は逃げるぞ!人質をさらっていく!邪魔されるのは嫌じゃから空を行くぞ!追いついてみーろやーい!
追伸、もしも捕まったらちゃんと謝るぞ!あとイーリスが助けてと叫んでおる!
ルナより
―
「これ書いたのあいつじゃなくてイーリスでしょ」
「正確には書けって指示したやつがあいつだろうな」
つーか空を行くって言って、最初に地面に潜ったのかよ。ほんと自由だな、あいつら。
「それで…どうする?ゼロ」
「一発ぶん殴りたくなってきた」
主にあのクソガキを。なんだよ、最後の追伸。
「じゃ、こいつ頼んだ」
「うん」
俺は血まみれのクガネを手渡し、空を飛んだ。
血まみれといっても、ほぼヴァンパイアの血だ。自分の血を自由に操れるヴァンパイアは、こいつに血をぶっかけて麻痺させて逃げたらしい。麻痺っつーか寝てるだけだけど。
ヴァンパイアも血まみれだって聞いたが、あいつ…調整ミスったか、止血忘れてんじゃねぇか?
「どうでもいいけど、ほんとふざけてんな」
飛んでみてわかったが、行く道が分かるように、空には赤い軌跡が描かれている。とりあえずはその通りに飛んでみると、赤文字が書いてあった。
― 好きな食べ物を答えろ ―
ちなみに道はここで途絶えている。
「………酒」
道が現れた。なんだよ。食い物じゃなくていいのかよ。
次に進む。
また同じようなお題が出てきた。
― 嫌いな食べ物を答えろ ―
「特にねぇ」
― 好きな色を答えろ ―
「黒」
― 過去一番の危機を答えろ ―
「…俺にとっての最初かな」
― 得意なことを答えろ ―
「戦闘」
― 趣味を答えろ ―
「趣味…なんだろうな。喫煙?」
― 将来の夢を答えろ ―
「俺のことを知る」
― この場所は好きですか? ―
「おい、いい加減にしろ。なんだ、この茶番」
長いんだよ!飛んでは質問、飛んでは質問。あいつらの質問事項がなくなるまで続ける気か?冗談じゃねぇよ。
― イーリスの良いところを答えろ ―
ダメ押しと言わんばかりに続く質問。
めんどくせぇ!!
「…いや、わからん」
少し考え、何も思いつかなかった。正直に答えたのに道は現れない。ほんとなんなんだよ!
「いいところなんかねぇ!」
わからねぇってことは無いってことだろ。そう答えると文字がゆらゆらと揺れる。そしてゆっくりと変わっていき、そこに現れたのは。
― ひどい!!! ―
「知るかよ!!」
つい一人で叫んだ。無視して飛んで行こうとしたら、しつこく文字は追いかけてくる。破壊してやろうかと思ったが、どうせまた現れるだろう。
もうめんどくせぇ。
「ヴァンパイアのいいところなら答えてやるよ。あいつは強い」
道が現れた。
「ちょっとルナ!?それはないでしょ!」
「いや。でもじゃぞ!ルシファが人を褒めるなんて珍しいんじゃぞ!」
「じゃぞじゃぞじゃないよ!ああ、もう、ひっどー」
「す、すまなかったの。イーリス。あだだだだ!髪を引っ張るな!次はそなた関係の質問にしようぞ!な!」
耳を澄ませばそんな声が聞こえる。目を凝らせば、一部の空間が動きで乱れているのがわかった。
「…はぁ」
俺はそれから目を背け、赤いラインに沿って進んだ。




