10
宴は続いた。
俺と銀は適当に話し、時々クガネが暴れるから取り押さえて、ガキは挨拶して回っていた。護衛にクロが肩に乗っている。どこに行ったかと思ったら、こいつも治療を受けていたらしい。
「腕をあげたな」
「あ?」
「先ほどのだ。私の力を的確にとらえ、過剰でも過少でもない力で相殺していた。決して防げないように陣を張ったつもりだったんだがな。あげくこちらの目を奪ってくるとはな」
「ティナに人間に魔物と相手してたら自然とな。ここにくるのも3年ぶりくらいか…。かわんねぇな」
「あれほどの変化を求めるのは人間くらいなものだ。ここは平穏であればいい」
さて、と銀が立ち上がる。持っていたグラスはいつの間にか消えていた。
「ルナの元へ戻る。アレを安定させるには時間がかかりそうだ」
「だろうな。頑張れよ」
無感情な返事に無感情な目で返され、銀は消えた。遠くで見る限り静かなのはここくらいで、ガキを中心にして盛り上がっているようだ。
「ほんと、好かれやすいやつ」
人間に恨みがあるとあれほど脅しておいて何だが、実際ここの奴らにはそういった考えはない。
戦争に敗れた。それを十分に理解しているからだ。
だから、ここにはティナ持ちもいるし、クガネみたいなわけわからんやつもいる。
それでもアビスシートという人間がくるのは初めてだった。
何か起きるかとも思ったが…。起こさなかったのはあいつの力だな。俺が初めてここに来たときは殺伐としてたもんだが、まぁしょうがないな。俺も荒れてたし。
「ぜろ!」
目の前に立ち耳が揺れる。主張の激しい尾はばっさばっさと激しい。
ああ、あれだな。遊んでほしいんだな。
「クガネ」
「なんだ!」
「あのガキのこと、頼めるか?」
「う?」
「俺はずっとここにはいられねぇだろ」
「おれはいいけど、めずらしいな!ぜろがおれにたのみごとなんて!」
「お前ら相性いいと思ってな」
馬鹿な感じとか、チビなとことか。
「でもおれはなにをたのまれたんだ?」
「困ってたら助けてやれ。そんくらいでいい」
「ふうん。ならかんたんだ!いいぞ!」
重い腰をあげ、片手に剣を呼ぶ。赤と金の目を輝かせて、クガネは満面の笑みを浮かべて構えた。尻尾がさらに激しい。
「じゃ、遊んでやるよ」
「よし!よし!いくぞ、ぜろ!!ガアァァウゥルルルルル!!!!」
獣の唸り声をあげてクガネの爪が飛ぶ。咄嗟に体を後ろに仰け反るも、髪の2,3本がひらりと舞った。
「…まだ早くなってんのかよ」
俺も剣を振るうがそれは空を切るだけ。とうにあいつは姿を消している。
耳を澄ます。当たり前のように音はなし。目に力を込める。あいつに…魔力はねぇからな。
自然と口元が緩んだ。
ティナ持ちで魔力まで見える俺が、まったく相手を捕えられないとはな。
「ガアァ!!」
「っと」
低姿勢からの一撃を飛びのける。
地面に腕がのめり込むほどの威力のままに、クガネは腕で俺の元までジャンプしてきた。クガネの獣の爪と、俺の悪魔の爪が交差する。
耳をちぎらんばかりの打撃音。
そしてその場で一回転したクガネの強烈な踵落としが炸裂する。
受けはしない。俺の剣でも砕ける。
剣の腹で威力を流し、クガネの足は大地へ衝撃を与えた。
衝撃波に地面の砕ける音。
俺もすぐさまその場を離れる。
「うー。くやしいな」
「俺を殺す気かよ。馬鹿げた威力しやがって」
「でもあたらない。ぜろはやっぱりつよいなぁ」
クガネがもう一度と姿勢を低く構える。耳と尾の毛が逆立ち、目は血に飢える猛獣のようだ。
俺は剣をその場に突き立て、爪を鳴らす。剣じゃ、あのスピードを捌けても反撃まではできない。
あいつの持つ尋常じゃないスピードは、視力で捕えることもできない。そしてそこから生まれる火力は掠るだけで下手すれば死ぬ。
自前の白い爪は切れ味よりも強度。正直あれが折れたところを見たことが無い。
で、あの足だ。あのスピードを作る足。爪という武器よりも、圧倒的な破壊力を持つ。俺でもまともに喰らえば即死だろうな。
「けど、甘いな、クガネ。お前は直線的すぎる」
「いいんだ。まっすぐに、おれはぜろをつらぬく」
俺の反応が間に合わないほどに。見えていても対応できないほどに。
クガネはそれだけで、技術よりもスピードのみを鍛えてきた。
「いくぞ!ぜろ!」
「かかってこいよ」
風を切り裂き、大地を砕き、黒と白の爪牙がぶつかった。




