08
1.自由であること
依頼する相手も、依頼する内容も、依頼を受けるか否かも自由であり、連合間に上下関係はなく、対等な関係とすること
2.暴力の禁止
力をもっての依頼の強制・取消・達成後の支払拒否などの取引上での行動を強いるような手法を全て禁じる
3.主の命を破ることを禁じる
主である銀の指示、依頼は原則達成しなければならない。やむを得ない場合はその旨を報告し説明すること。
なお、個人間でのやり取りにこれらは一切関与せず、違反を認めた場合は例外なく連合から削除する。
「こんなものか」
「いいんじゃねぇか。あの勘違い野郎もこれなら納得するだろ」
「あの料理人、評価はよかったんだがな。すまないことをした」
あの料理人というのは、前の街でわたしたちの食事の準備をしてくれた人だ。銀の連合は暴力禁止~と好き勝手しようとしていたから、もう一度お触れをだすらしい。こうしておけば、あの時にゼロさんが殴っても個人間のやりとりということで良し、だ。
そして見れば見るほど、銀さんを通した方が安全なんじゃないかと思わせる一文だ。個人間だと、依頼が終わった後に殺されたって知らないよってことだし。連合を通してだったら巨大なバックである銀さんに守られながら仕事ができるってことだ。
まぁ、銀さん曰く、個人間のやり取りもデータとして保管しており、それは連合内の格付けにも作用するとのこと。評価の低い人には頼む人はいないし、銀さんも頼まないし、誰か宛てを待つしかなくなるみたいだけど。
聞けば聞くほど、銀さんに好都合で、連合の人にも旨みがあって…よくできた仕組みだ。
「でも…この銀さんの命令は絶対よ!ってやつはどうなの?みんな嫌がらないの?」
「銀は無理な指示はしないし、不可能なことを言うやつでも金を渋るやつでもない。その信頼と経歴があるから成り立つんだよ。じゃないと、ここまで人も集まってこねぇよ。銀の指示で誰が死ぬかわからない所に誰が入るか」
うん。それはそうか。
そうこうしているうちに、銀さんは連合に加入する際に使うらしい魔石を取り出し、その上でさっき書いていた紙をなぞる。すると紙から字が浮きだし、その魔石へと吸い込まれていった
これでよし、と銀さんは魔石に手をかざすといつの間にか石は消えていた。
「・・・・・」
「考えんなよ。こいつのは道理で説明できねぇから」
「……わかった」
ある意味で魔法っぽいんだろうけど。何でもできちゃうから。それこそ世界征服も。
「銀さん、ひとつ質問いいですか?」
「いいだろう」
踊るように広がっていく資料たちを見ながら銀さんは言う。
時折その紙には字が刻まれ、名前があるところをみると、連合の人たちの一覧なんだろう。紙の枚数から考えても、とんでもない数がいることがわかる。銀さんが自由に扱える、駒ともいえる兵隊たちが。
「銀さんの、目的ってなんですか」
銀さんが悪い人だとは思わない。
こうして人間じゃないみんなを守っている時点で、きっといい人なんだと思う。だけど、例えば人間を滅ぼそうだとか、復讐しようだとか、そう考えているなら、ウラガやシルクがいるわたしは協力できない。やっぱり、わたしは人間だから。だから人間への復讐は難しい。
真剣に質問したわたしに、銀さんはふっと微笑を浮かべた。
「人間への復讐はない」
また心を読まれたらしい。
そうか。復讐じゃないのか。人間に恨みがある生き物を守ってて、人間を兵隊として持っている銀さんならもしやと思ったけど、そっか、よかった。
「じゃ、やっぱり世界征服か」
「…誰から聞いた。それは」
「え?ゼロさんだけど…」
その当人に目を向けると、ソファーはもぬけの殻。いつの間にかいなくなっていたらしい。
銀さんはそれを見てため息をついた。
「私は世界の征服なぞ望んではいない。今はこの場が守れればそれでいい」
「どうして守りたいの?」
「救えたのに、救わなかったからだ。友は救いに行き、死んだ。にも関わらず、私は規則に従い眺めて終わった」
銀さんの指をくるりと回る。
すると、記憶の一部なのか、人でも動物でもない生き物たちが空中に映し出された。その中には龍と思われる生き物もいる。
「龍は世界を渡り、観測する。世界を観測し、記憶し、歴史を綴るために存在した。どこの生き物が滅んでも、数多の命が消えようとも変わらず、ただただ傍観者であり続けた」
「世界を、渡る?」
「世界はここ1つではない。無限ともいえるほどに星は存在し、滅び生まれている。その中でも、この星は人間という種族が様々な意味合いで強すぎる。ここまで徹底的に他種族が滅ぼされたのは、私が知る限りではこの星だけだ」
「神話みたいに神様がそうしたの?人間を強くして、滅ぼさせようとしたの?」
「それは神しかわからんな」
ということは神様も実在するの、か?
「しかし、人間が伝えている神話はあくまで神話で、歴史ではない。事実とは異なる点が多数ある。すまないが、真実の歴史を語ることはできない」
「ううん。気にはなるけど、知ったらいけない気もする」
「勘の鋭いことだ。人間よりも恐ろしい生き物を敵に回すことになる」
絶対龍だ。絶対に。
「種族戦争は酷いものだった。戦える戦えないに関わらず、人間は憑りつかれたように他種族を殺戮し尽した。
それを友は黙ってみてはいられず、天から地上に舞い降り、勝手に天罰だと名乗り、人間と戦った」
「でも…死んじゃったの?」
銀さんは頷く。
「殺したのは同じ龍だ。友は規律を破って、龍の存在を世界に知らしめたことにより、龍はこの星を去らねばならなくなったのだ。龍は真の意味で架空でなければ、他の星や保管している歴史、力、それらが知られる危険性がある。だから友は別の龍に討たれた」
「龍は去ったのに、なんで銀さんはここにいるの?」
「あのバカは死ぬ間際に己の体を散らせたのだ。無駄に頭の回る姑息な奴だったからな。
そうすれば他の龍が去ったとしても、私が地上に降りて己の体を探すとわかっていたのだろう。そしてそうなれば…私がこうすることも………」
銀さんが苦笑する。確かに表情があまり顔にでない人だけど、感情がないわけではない。今は、昔を思い出して、悲しんで後悔している。
「私は奴の体を探すとともに、奴が守った存在を守ることに決めた。確かに、そのために世界征服が必要ならばそうするだろうが…目的が征服ではない」
大真面目に銀さんはそう言った。だからわたしも、真面目にしっかりと頷いた。
「銀さん。わたしにはやりたいことがあるし、もうゼロさんにお願いしていることもある」
「ほう」
「二人のことは恩人だと思ってる。だから二人の力になりたい」
命を救ってくれたゼロさん、その指示を出して、ここにいていいと言ってくれる銀さん。
二人はきっと世界的に見れば悪い人なんだろうけど、わたしにとって大切な人だ。
ゼロさんの記憶のことも力になりたい。この場所のことも力になりたい。
そして、今ここに住んでいるみんなと、できることなら仲良くなりたい。
銀さんはまたもわたしの心を読んだのか、微笑を浮かべて手を差し出した。
「ならばまずは皆へ紹介せねばな。ついてこい、イーリス」
「…はい!」
わたしはその手を握った。




