06
「ここにいたか」
女同士の喧騒の中、冷や水を落としたかのような銀の声。悩殺マシンガンも引き金を引くのを止めたようだ。
それにしても、あのチビ女王によく付き合うな。あいつ。
「銀!聞いてよ!ゼロもイーリスちゃんも酷いんだよ!うちのことをね!」
「大体わかった。お前が悪い。ルピナス、少し静かにしていろ」
「まだ何も言ってないわ!!」
ぶんぶんと羽虫のように銀にまとわりつくも、聞く耳を持たない銀はぎろりとこちらを睨んできた。
あー。わかってるよ。まだ他のやつに気付かせたくなかったんだろ?こんな五月蠅いやつには特に。
「遅かれ早かれ、だろ?」
「私にとっては遅い方がよかっただけだ」
ほんと嫌味なやつ。
「まぁいい。後で処理しよう。ゼロ、木で寝るくらいなら自室へ戻って休め。アビスシードは私が預かろう」
ちらりとガキに目を向けると、見るからに戸惑っている。銀と視線を合わせることができないらしく、珍しくも怯んでいるようだ。
まぁ、そうだよな。何の感情もない視線ほど、無機質で不気味なものもねぇだろう。
「どうせ家は妖精どもで埋め尽くされてんだろ。一旦非難する」
「お前は街の皆に挨拶くらいしても良いと思うがな」
「めんどくせぇ」
「ふ。そういうと思った。ルピナス。わかっているとは思うが他言無用だ。他の妖精にも伝えろ」
返事を待たず、銀は振り返った。俺は木を降り、まだ戸惑っているガキの頭を叩く。
「なにびびってるんだよ」
「な、なんか、氷みたいな目線だったから…。わたし何かしたかなって思って」
氷、ね。的を得てる。
「しょうがねぇだろ。あいつ、人間の振りしてるだけだし。感情なんてねぇから」
「………………え」
「あ?」
「人間、じゃないの?…あ、…え?だって見た目どう見ても…」
俺はそれには応えず、更に戸惑うガキを置いて銀のあとを追った。応える義務はないし、俺から応えるべきでもない。そこまで構ってやるつもりも、面倒をみるつもりもねぇからな。
俺は、安全な場所まで送ってやるだけで、その先までは保障してない。
あと単純に黙ってた方が面白そうだし。
「銀さん!待って!」
それにこいつは、俺が何をするまでもなく勝手に動く。持ち前のスピードを生かして、銀の前に立ちふさがる。桃金の長い髪をなびかせ、翡翠の眼は木漏れ日を浴びて輝いて見えた。
「わたしはアビスシードで、イーリスといいます」
銀が怪訝な顔をする。知っていることを改めて言われることが不思議なんだろう。俺は後ろで成り行きを見守ることにした。
「今日まで勝手に甘えてました!いろいろやってくれてるのに…ごめんなさい!
そして、わたしは行く宛てもなくて、今はここで暮らしたいと思ってる。なので、いろいろと教えてください!そしてよろしくお願いします!」
がばっと頭を下げるガキに、なおさら不思議そうに首を傾げる銀。
そりゃ保護対象(研究対象)としか思ってない奴にお願いされると思っていないだろう。
こいつとしては、当たり前のように住ませて、教えるつもりだったんだろう。
ガキはガキで、その「当然」に甘えていたらしい。
「…私はもとよりそのつもりだ。それを踏まえて出たいというならば止めはしない。
私にとっては知識さえもらえれば、その後は自由にしてもらって構わない」
「わかった。わたしは何でも教える。だからなんでも教えてくれますか?
あと、アビスシードだけどイーリスって呼んでもらえるとうれしいです」
「秘匿事項以外は教えよう。呼び名の件も承知した」
こいつ、しれっと「なんでも」を約束したか。前の村の件でも思ったが、意外と交渉能力があるよな。ま、銀はもともとそのつもりだっただろうから、何とも思わないだろうけど。
「歩きながら話すものでもない。私の自宅まで転移する」
ガキが返事をする前に景色が変わる。
ついさっきまでいた銀の自宅だ。外見では広々とした屋敷だが、室内はそうでもない。ま、今のところは、だが。
「い、今のは?」
「転移魔法。本来なら魔法陣を要する」
的確に応える銀。機械的だが内容に間違いはない。
俺は近くのソファーに体を預け、煙草を楽しんだ。
「まずは一番疑問に思っていることから応えよう。イーリス、今何を考えている?」
デスクに腰掛け、机の上で指を組んで、真っ直ぐとガキをとらえる銀。今度は怖気づくことなく、ガキも目線をあわせて向かいの椅子に腰かけた。
「一番……、一番かー…。んー…」
首を傾げ、頭を悩ませる。ガキが決めた質問。
「銀さんは、なんなの?」
まぁそうなるだろうな。で、回答もいたってシンプル。
「龍だ」
「……?」
「私は龍だ」
大真面目な銀と理解できないガキ。
俺はその正反対な表情をした二人を見て、後ろで静かに笑っていた。




