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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第七章 ルナティクス
77/354

04




朝だ。


小鳥が鳴いて、日差しがはいってふわりと暖かい。



「よう」



そこにはゼロさんがいた。



「ゼロさん!?ちょ、日差し日差し!!」


「あー。いいんだよ。ここのは太陽光じゃないから」


「いやいや、太陽だよ!ほら、空がばっと明るい!」


「…めんどくせ。もう銀に全部聞け」



…なんか見捨てられた気分。まぁいいや。確かに調子が悪そうなかんじには見えないし。



「で?どうだった?あいつを見た感想」


「あいつ?あ、クガネ?というか、クガネどこいったの?」


「じっとしてられない性質(たち)なんだよ、あいつ。どっか走ってるんだろ」



走ってるか。確かにそんなイメージがある。なんというか、すごいイヌってかんじだったし。


しかし……感想と聞かれると、なんと答えたらいいんだろう?驚きはしたけど怖くはないし、何と言ってももふもふだし。


よくわかんないから思うままに答えるとゼロさんは、「そうか」と頷く。



「あんなやつらばっかだからな、ここ。あいつに抵抗があったら暮らすのは無理だと思ったたが、そうでもねぇならよかった」



なるほど。心配してくれてたのか。

もっとひどいものも見てるし、抵抗なんて何もないや。



「それよりさ!ゼロさん、本とか読むんだね!楽器も!」



それ以外何もなかったけど。


この部屋もベッドとテーブルと机だけで、植物も置物も何もない。あ、お酒とたばこはあったか。



「本は知識をいれるためにな。楽器は俺に何ができて何ができないかを調べるため」


「ん?できるようになりたかったからじゃないの?」


「記憶がなくても、体で覚えたことはできるらしいからな。戦闘の技術も最初っからできたし、作ることは知識的にもティナ的にも始めから出来なかった。

他に何ができるか調べたかったんだよ。結果、何故か全部できた」


「……もしかして音楽家さんだったりするの?」


「それにしては戦闘能力ありすぎるけどな。大抵の武器は最初から扱えてたし」



料理と絵は、ティナの特性上無理だから諦めたのだそうだ。これで絵も料理もできてたら、それはそれでどうかと思うけど。



「後で銀がくるから準備しとけよ。当面の食材は下に置いといた。船で給仕やらされたなら自分でなんとかできるだろ?」


「うん。ゼロさんとルナはどうするの?」


「あいつはまだ帰ってこれねぇだろうな。俺は寝るからそこどけろ」


「あ、はい」



そういえばベッド占領したままだった。



「いつか聞かせてくれる?」


「あ?なにを」


「楽器だよ。楽器。アガドでもね、音楽はあったんだよ。好きだったんだー」


「どうせ、物ぶっ叩いてただけだろ」



うぐっ、なんでわかっちゃうんだよ。

音楽とはいえなかったかもしれないけどね。

わたしとウラガは、まぁ、ぶっ叩いてただけだったし。うん。



「持ってこい。デカイのはやめろよ」


「うん!!」



急いで楽器のしまってあった部屋へ走る。


小さな部屋に綺麗に並べられた楽器たちは、どれも少し古ぼけていて傷もついている。でも埃かぶったりはしていなくて、自然なかんじで暖かい雰囲気を醸し出していた。



「どれにしよっかな」



楽器はいろいろある。


叩くのと押すのと、これは吹くのかな?よくわからないのもある。

わたしはそのよくわからないものを持ち上げて戻った。大きいけど、思ったよりも重くない。



「これ!」


「……それ一番上にあっただろ」


「うん。登った」



細かい線がいっぱい入った、ゼロさんが言うには弦楽器というもので、リュードという楽器ならしい。ゼロさんの左手が弦を押さえ、右手が弾く。するとトロンと落ち着いた音が響いた。



「…まだ大丈夫そうだな」



一呼吸おくと、シャランと今度は高い音が流れる。


それからは目にも止まらない速さで動く指とかき鳴らす音。高い音も低い音も、大きな音も小さな音も、合わさって膨らむ音の洪水だった。


音だけじゃなくリズムにも変化が入り、力強く力強く響く。


楽しげに口元を緩めるゼロさんと、唖然として何も言えずに釘付けになったわたし。その演奏会は突如黒い翼に覆われて止まった。



「まずっ」



ゼロさんがいつの間にかわたしを抱えて飛んでいた。



「な、なんでやめちゃったの!嫌だよ!もっと聞きたかったのに!!」


「そうなるから」


「ふえ!?」


「悪魔の音楽は人間を堕落というか、誘惑というか、麻薬みたいな作用があるらしい。銀曰くな。まぁおかげでガキの頃はこれで稼げたんだけど」



音楽で生活してたんかいっ!!音楽家じゃないか!!



「その分じゃ無理そうだな。歌なんか聞いたら狂うんじゃねぇか?」


「うううう…」



聴きたい。すごく聞きたい。ゼロさんの歌なんかカッコいいに決まってる。でもこれを思うことがダメなのか。ダメというか誘導されてるのか。



「あとお前以外の音楽好きに聞かれちまった。逃げるぞ」


「え?何から?」


「うるせぇやつら」



その言葉を最後に、ゼロさんの最高速度での空中散歩が始まった。


失礼。散歩じゃない。こんなスピード感のある散歩なんて存在しない。せめてお願いだから真っ直ぐ飛んでほしい。


と思ったら急停止。



「静かにしてろ」



森の中だ。


大きな木の陰に隠れたわたしたちは、息を殺して気配を絶つ。とはいってもわたしは完全にされるがままなので、ゼロさんに全部任せていた。



「ゼロよ」


「あれはゼロの音だったわ」


「どこにいったの。どこに逃げたの」


「遊んでるのかしら。鬼ごっこはだいすきよ」



囁くような小さな声。でもその相手は見えない。


目に力をいれているわたしを見かねてか、ゼロさんが無言で指差す。その方向をみるとほんわりと小さな光があった。言われなきゃ気づかないくらいの、綿帽子のような光。


あれがどうしたと目で訴えると、もっとよく見ろと顎で指される。じーーーっと見つめると、ぼんやりと姿が見えた。



「ふぁ!!!!」



目の端でゼロさんが頭を抱えるのが見えた。




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