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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第七章 ルナティクス
76/355

03




「………よし、以上だ。ご苦労だったな」


「ほんとだよ…」



乾いた喉を潤すため、傍に用意されていた酒を煽る。用意されていたのは果実酒のようだ。俺にこれを用意するとは珍しい。



「昨日仕上がったものだ」


「へぇ?やけに飲みやすく作ったな」


「だからといって水のように飲むな、まったく」



呼び出されたのは、一言で言うなら報告のためだ。


こいつの求める情報はすべて。

国内情勢から人同士の会話まで、嘘を含めて全て情報として処理している。嘘は嘘で、嘘をつくなりのものだという情報が欲しいのだそうだ。


まったく、あきれるほどの天才だ。その脳みそにどれだけの情報が詰め込まれているのやら。



「やはり興味をひくのはアビスシードの少女か。それにまだ生き残りが多数、アガドの中にいるのだろう?」


「だろうな。具体的な人数はわからねぇけど」


「ふむ。アビスシードの脱獄は確実に隠ぺいする必要があるな。公表される情勢ではないとはいえ、それに任せてはいられん」


「次は窃盗と暗殺か?」


「いや。お前の手を煩わせることでもない。お前にはお前自身のために動いてもらう」


「白髪の女」


「そういうことだ」



とはいわれても、ガキの有用性を考えると、隠ぺい工作には力をいれる必要がある。

あいつの存在がばれて、あいつが殺される対象になるだけなら、ここにいる時点でそれは起こりえない。だが、アビスシード全員に害が及んだら、あいつも黙っていられないだろうし、今アガドの罪人たちの人数が減るのは、俺にとっても好ましくない。



「安心しろ。すでにデータ関係は消した。あとは記憶と物体を消すだけだ」


「仕事がはやいねぇ」


「それだけ重要度が高いということだ」



データは基本的に魔石の中に保管されるようになっている。紙に残すことも、もちろんあるが、紙は木を尊ぶあいつらにとっては価値が高いものだ。データごときのために切り倒して削るわけにもいかない。


だから、魔石に魔力を通してデータを入れ込み、取り出しや読み込みを行う魔道具がある。まぁ正直楽だし、容量も多いし。ただ、こいつみたいな奴にこうやって悪用されることがある。


色々魔法陣やらを駆使して守ろうとはしているらしいが、その部類でこいつに勝てるわけがないし、そもそもデータ保存の魔道具を設計したのはこいつだからな。抗うだけ無駄だろう。



「それよりも、ゼロ、お前自身のことだ。


今回は偶然、イーリスというイレギュラーのために戻ってこれたようだが、次はそうもいかん」


「その手の説教は聞き飽きた」


「黙れ。今回戻ってこれたとしても侵食は広がっている。

ティナ持ちが堕ちないためには、力を使わずに過ごす以外方法はない。

何度も言うが、お前は矛盾している。堕ちることを心底否定しながら力を行使するなど、死にたくないと言いながら大量の毒を飲むのと変わらん」


「優先順位が違うんだよ。俺は」



銀が軽いため息をつく。

そして話は終わりだと言わんばかりに背を向けた。


この問答も何度目か。



「んなことはどうでもいいとして、女の話だ。あれからどうなってる?」


「……まぁいいか。あれからさほど変化はない」



銀が指を鳴らす。すると、景色はリビングから書斎へと変わっていた。


銀の書斎は膨大な本で埋め尽くされていて、どれも几帳面に並んでいるが、背表紙もなければ色もわかれていない。すべて琥珀色の紙束が並んでいるだけだ。


他にあるのは広い机と柔らかい椅子。あとは暖かい橙色の光が灯った結晶くらいなもんだ。



「ただ、その絵がお前の探し人かどうかが重要だ。覚悟はいいな」


「何の覚悟だよ。さっさとしろ」



銀がデスクの上に一枚の絵画を広げる。額にも入ってないそれは、色あせやシミでぼろぼろだった。


だが、それでもわかる。


絵には一人しか描かれていない。


片目はえぐられてなく、服はちぎれ、覗く肌も肉や骨が見える。残った片目には光を失い、口も半分が削がれていた。床にうつ伏せになった少女の頭から散らばる髪は、そのすべてに反して神々しく輝く。何処も見ていない虚ろな目は、血の涙に染まった青色。



「こいつだ」



俺はその死体の絵を指して言った。


記憶に残り、夢にまで出てきて、穏やかに過ごそうものなら責め立てるように現れる少女。血まみれになろうが、骨をむき出しにしていようがわかる。間違いなくこの絵のモデルはあの女だ。


俺の記憶の片麟で、夢にしかでない架空な人物。

これが今やっと現実のものになった。



「そうか。絵を見る限りなら死んでいる可能性が高くなるな」



淡々と銀は言った。



「画家は死体愛好家だ。名は公表されていない。


作品作りのために殺人を犯し、理想的なモデルを作成。結果、アガド牢獄へ落とされることになった。被害者数は少なくとも20人。どれも女や子供…老人もか。弱者を狙っての犯行のようだな」


「それはどうでもいい。その画家は生きてるのか?」


「アガド内部のことはアガドルークの人間すら知りえないことだ。外部に流れなければ、私が知ることもできない」


「…だよな」


「よって、その画家を調べるよりも、この絵が描かれた場所や時期を調べた。絵に用いた画材、損傷の仕方、触れた空気の温度…。結果がこれになる」



一束の冊子が本棚から飛び出し、机の上に音をたてて落ちた。分厚いそれはめくってみると、ほとんどが分析の過程で俺の必要とするものじゃない。結論が書いてあるだろう最後のページを開いた。



「……セントラルだと?」


「そう。アガドルークではない。そして時期は記憶を失っている時期前後だ。お前が孤島にいたというのは北だったのだろう?」


「ああ。国はアガドだった。で。セントラルだっていう根拠は?」


「画材がセントラル内で普及しているものだ。セントラルから他国への物資の移動は軍に固く取り締まられている。持ちだしたとは考えにくい。だが……その画家は貴族ではない。

加えて教会の本部があるあの国でこのような絵を描くリスクを負うとも考えにくい」


「この絵がセントラルで描かれていないという可能性もないわけじゃねぇだろ。

結局、教会というリスクを承知で潜入してセントラルで描いたか、軍というリスクを負って他国で描いたか。だろ?」


「または船や飛空艇の上。それにしても画材を持ちだすリスクはあるが…。

とにかくデータの上では、セントラル付近で描かれたものとして間違いはない。気温や湿度もそうだが、なにより付着しているマナの値が高い。

年月の時を経てもここまで魔力が残留できるのは、セントラルのようなマナが豊富な場所でしか起こりえない」



一息つく。


貴族でもないやつが、セントラルで子供の死体を描く。意味が分からねぇ。子供を持ちだす方が楽だろ。それとも貴族のガキを描きたかったのか?


いや、それにはこの絵の着ている服は安すぎる。セントラルで流通しているような服じゃない。


じゃあ貴族の子供を平民のように仕立てて絵を描きたかった?


いや、やっぱりわからねぇわ。


どうせ場所なんてどうせ5択のうち1つだし、明確な答えはでない。



「…このガキの居場所はセントラル付近。つまり俺がいたのもセントラル付近。

とりあえずはそういうことにしとく」


「そう仮定し、私も情報を集めよう。まさかお前やその少女が貴族とは考えにくいが、そこも視野にいれよう。

現在できることとすれば、この画家についてだ。もしも生きているなら真実を知ることができる」


「生きていたら、な」



可能性は低いけど。



「まずはアビスシードに聞くべきだろう。アガドへの再潜入の準備も同時に始める。そして、この絵の保持者と話がついた。5日後ついてくるだろう?」



俺は無言でうなずいた。


どうせ特別やることもねぇし、俺もそいつには聞きたいことがある。




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