02
その少年くん、クガネが現れたとき、わたしは思わず息を飲んだ。目もくわっと見開いたし、大げさだけど、大きく開いた口を手で押さえたりもした。
「そ、そなとぅは!!!」
ルナが一瞬でゼロさんに捕縛される。うるさくするなと口まで押えられて。
「何かあった時のためにな。俺が戻るまででいい」
「う?ぜろはどこにいくんだ?」
「銀のとこ。嫌なことはさっさと済ましておきたい」
「そうだな。わかった!おれにまかせろ!」
「つーことだ、ガキ。何かあったらこいつを頼れ。ここからは出るなよ」
ということで、ゼロさんはルナを抱えて出ていき、わたしは一人ではなく二人と1匹になった。
「おまえ、なんていうんだ?」
「い、イーリス…」
「おれはくがねだ。くがねってよんでいいぞ!」
「ふ、ふぁい!」
何故わたしがこんなことになっているかを説明しよう。
クガネは人間じゃない。
わたしは人間じゃない人間みたいなひとを初めて見たのだ。
人間がいない街だというから、こういうのも想像していたけど想像以上だ。
顔は少年。ちょっと精悍な感じはあるけど、子供みたいな柔らかさもある。目はクリリとしていて、右が金で左が赤と、色が違う。両方の頬には赤の3本線。そして頭の上に、ピンと立ったお耳が!お耳があるのだ。
滅んだ種族のことを詳しくは知らない。
ただ…クガネはきっと獣人と呼ばれていた、動物の要素をもった人間と似た生き物だ。
「う?どうした?」
動くとふらふらと動く尻尾。尻尾!?
「な、なんでも、ありません…」
「へんなやつだなー」
ちなみに服装はぶかぶかのタンクトップと半ズボン。足は裸足で…うん、人間のそれじゃない。爪がすごい。手も…うん、爪がすごい。肘から手首までと膝から足首まで、髪色や尻尾と同じグレーの毛がもふっとしている。
「あ。そうか。おれのかっこうか!」
「うん。お、お、驚いちゃって」
「はははー。にんげんはしっぽもみみもないもんなー。さむそうだ!」
いつも見てきた笑顔と違う、本物の笑顔。
ニヤリと笑うゼロさんでも、ふふふと微笑むルナでも、ふっと和らぐ銀さんでもない。にぱーーーとでもいいましょうか。これぞ笑顔ですってかんじの笑顔だ。
どうしよう。かわいい。想像以上に、かわいい!
「クガネは…その…なんていう種族なの?」
「う?むずかしいのはよくわからない。しろはおれをこどくだといっていた!」
「孤独!?」
「こどく?」
…こどく?なんだろう、それは。しろっていうのはきっと銀さんのことだろうけど。
頭をひねるわたしを余所に、クガネはクロちゃんに飛びつく。
「くろ!おまえもげんきしてたか!」
「うきゅ!」
「そうかそうか!でもけがしたのか。ちょっとだけちのにおいがするぞ」
「きゅい」
「がんばったな!」
クロちゃんとクガネがもみくちゃになりながら一緒に遊んでいる。
「会話できるの?」
「ぜんぶはわからないし、むずかしいのもわからない。でも、なんとなくわかる!な、くろ!」
「うっきゅうう!」
どうしよう。すごくかわいい。二人とももみくちゃにしたい。
奇跡の毛並をもつクロちゃんと、信じがたい耳と尻尾をもつクガネ。抱きしめていいんじゃなかろうか。いいよね?
「う?」
急に頭をあげて、耳をぴくぴくさせるクガネ。クロちゃんは心なしかうんざりしている。
「みんながいーりすのこと、けいかいしてる」
「それは…わたしが人間だから?」
「うん」
わかっていることとはいえ、ちょっと悲しい。歓迎してくれとは言わないけど、拒絶されるのはつらいものがある。だからといって行くあてもないし、出ていくつもりもないんだけど。
「あんしんしろ。いーりす。しろとぜろがなんとかしてくれる。
ここは、にんげんぎらいがおおいけど、てぃなもちもいるんだ」
「そうなの?」
「うん。にんげんのせかいで、いきられない。そんなやつのほごく?だってしろはいってた。だからいーりすもだいじょうぶなはずだ!」
人間の世界で生きられないひとのための保護区。
なるほど。それなら、わたしもゼロさんも他のティナ持ちも当てはまる。でも、人間に恨みがある人たちの集まりだってことも間違いないんだろう。
「ちょっとまってろ。しずかにしろっていってくる」
「え?ちょ…」
返事もまたず駆け出したクガネは、外にでるやいなや、ひとっとびで二階の屋根に着地する。そして大きく息を吸い込んだ。
「ァオオオオオ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン……!!」
ちょっと、クガネ。狼じゃないかい?狼の獣人なんじゃないかい?または狼人間!?そして遠吠えになんの意味があるんだ!?
「よし!いーりすはおれのむれだといっておいたぞ!これでだいじょうぶだ!」
…はい?




