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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
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10




宴が始まった。



「ちびすけの奇妙な能力にかんぱーーーーい!!」


「ゼロの復活にかんぱーーーーい!!」


「美人な姉御、ルナ姉様にかんぱ~~~~~い!!」



あの後、わたしは疲れ切って眠ってしまったのだけど、悲しいことに海賊たちはそれを許してくれず、夜には起きることになった。


アガド出身のわたしと大罪人の代表格であるゼロさんです。どうせゆっくり眠るなんてできないんだけども!


そしてこの騒ぎ。疲れている暇もない。


風体も船員ではなく、完全に海賊になった熊おじさんの合図でグラスが鳴り、ボリューム重視の料理に樽ごと入った酒、何故かたくさんの柑橘系の果物がふるまわれた。スプーンもフォークもない。全部手づかみの豪快っぷり。


わたしと一緒に休んでいたゼロさんも、夜になれば元気で、今も海賊たちに囲まれてがやがやと楽しんでいる。ルナは当たり前のようにモテモテのようで、もはや海賊たちは下僕と化したようだ。



「すごいよね。海賊って」


「ヤマトはみんなと楽しまないの?」


「だって、怪盗だし」



怪盗とは不憫な生き物である。



「それにね。ゼロさんに仕事頼まれちゃったし、そろそろ行こうかなって」


「ええ?今?」


「うん。だって、怪盗だし」



怪盗とは本当に本当に不憫な…。



「君にはお礼を言わないと。魔物のときも、ゼロさんの時も、助けてくれてありがとう」



くせっ毛が深々と頭を下げる。突然のことに驚いて、串肉をわたわたと振り回した。



「どうしたの?ヤマト。急に改まっちゃってさ!」


「こう見えてもちゃんとしてるんだよ?僕は。スターのせいでそう見えないかもしれないけど」


「それにしてもだよ。わたし一人じゃないし、ルナも協力してくれたんだよ」


「うん。わかってる。でもお礼を言いたいのはイーリスちゃんだったんだ」



もう一度ぺこりと頭を下げ、つられてわたしも下げていたら、いつの間にか目の前から消えていた。咄嗟に振り返ると、船の手すりにつま先で立って、もう一度ぺこり。



「今度はなにか良い物持ってくるね」


「どうせ盗品でしょ」


「うん。だって怪と…」


「うんうん。わかってる。ばいばい、またね。ヤマト」


「…うん。いつか、また」



奴隷だったヤマトは急に怪盗になって、そして暗い空に消えていった。なんだか寂しくなる。全然戦えないヤマトだったけど、お別れとはいつもさみしい。



「行ったか、あいつ」


「うん」



後ろに立っていたゼロさんが酒瓶を煽る。


しんみりしているのか…と思ったらそんなわけもなく、ポケットから何か出して、それを思いっきり放り投げた。すこんと、ちょうど月明かりに照らされたヤマトの頭にぶち当たり、体がガクンと傾く。



「…なに投げたの?」


「あいつから盗ったもの」


「……」



最期まで締まらない怪盗だった。



「るしふぁ~!い~りすぅ~」


「うわっ」



のしっと覆いかぶさってきたのは、絶世の美女であるルナだ。



「なんでティナ持ちが酔ってんだよ…」



ゼロさんが呆れた表情で引きはがしにかかるが、酔っ払いティナ持ちは酒に弱くても力は強い。ちょ、締まってない?これ締まってるよ!



「ふふふふ~。わらわはー、のみすぎておるのじゃーー」


「いいから離せ。ガキが死ぬぞ」


「人間はよわいのーかわいいのー」


「…このっ」



ゼロさんの目がざわっと赤くなり、ルナは暗い夜の海に放り投げられた。「あら~~」と言いながら、着水前に背に畳んだ蝙蝠の翼を広げるルナ。



「し、死ぬかと思った…」



狂いバージョンのルナより怖かったかもしれない。



「ティナ持ちって体の強化のせいで、アルコールに強くなるはずなんだが、アレは例外なのか?」


「なぜなげるのじゃ~~~~~」



すたこらと逃げるわたしたちを、にやにやと追いかけるルナ。


そんな赤ら顔も美人だから困る。海賊たちが助けてくれない。



「わらわをなげるとはいいどきょーだ!よるのおうさまが誰か!勝負じゃ!」



まるで決め台詞かのように、くびれに手をあて指さすルナ。野蛮人海賊がやれやれと囃し立てる。この人たちはルナの危険性を忘れたんだろうか。



「…いいぜ」



なんと意外にも承諾するゼロさん。だが、その口元にはばっちりと悪魔の笑みが張り付いていた。



「お前が勝ったら俺の血、全部飲み干す権利をくれてやるよ」



おおおおおおおおおおおおおおおお!!!


ええええええええええええええええ!!!


いろんな歓声がとぶ。



「では、そなたが勝ったら、妾は…この酒を一気飲みしてやろう!」


「いや。それ罰でも何でもねぇだろうが」


「では、この海を泳ぐ!だいしゅっけつ水着サービスじゃ!」



おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


すごい歓声が響き、汗と熱気に包まれる二人。なんだか怖い。怖くなって、熊おじさんの近くに隠れておいた。



「じゃ、これで勝負な」


「うむ!!」



そして、開戦。



「チェック」


「う、ううむ?」


「チェック」


「っむううううう!?」


「13手前から詰んでんだよ。ほい、チェック」


「なああああああああああ?!」



それは、板の上でするゲームだった。よくシルクがしていたやつで、戦略ゲームだったかな?それの海賊バージョンってかんじの絵をしている。



「かー!強ぇ!盤戦まで強いのかよ!」


「なんだ、あの手。見たことねぇやり方だな!」


「よく見れば、大砲なしで戦ってるじゃねぇか」



周りの海賊たちも興味津々。ルナもやり方を知らなかったわけでもないらしく、端正な顔を奮わせて涙ぐんでいた。



「ほら。参りました、は?」


「まだじゃ。まだ挽回できる…!」


「へぇ?じゃ、2手動かせよ」


「2手じゃと!?よ、よし…、これで…!!」


「はい、チェック。おい、海に突き落とされるのと飛び込むのとどっちがいい?」



ルナは泣きながら海に飛び込んでいった。


憐れヴァンパイア。

強くても頭がいいわけではない。



「ゼロ、どこで習ったんだ。コレ。お前の経歴上こんなもの必要なかったろ?」



熊おじさんが不思議そうに首を傾げる。対してゼロさんは満足そうに、暴速で泳ぐルナを見ていた。



「俺だって娯楽ぐらいする。それに、銀の相手させられたらこれくらいはな」


「ほう!例の当主か。……ちなみにどちらが強い?」


「あー…、あいつだろうな」



苦々しく煙草の煙を吐くゼロさん。悔しそうなのは珍しい。



「お前さんより凄いとは。ワシも会ってみるかのう?」


「やめとけ。死んで骨になっても使われるぞ」


「あ、会うだけでか…?」


「会うだけじゃ済まねぇからだよ」



これから向かう銀さんのところ。本当は飛んでいくつもりだったけど、ぎりぎりまで船で行くことになった。というのも一緒に行く人が追加されたからだ。


ヴァンパイアのルナという、現在海中を彷徨っている重度の日光アレルギーさんが。


少しでも太陽を浴びたら死ぬというハンデのせいで、確実に屋根がある方がいいということになったのだ。というか、ルナ曰く、現在の状況で船がないと詰んでいるのだそうだ。



「だって妾、どこへ行けば陸があるかわからぬし、陸が無ければ屋根がない。屋根がなければ死ぬ!」



なんでここまでゼロさんを追ってきたんだと心から思ったけど、追ってたのは頭のネジが飛んだルナだったから言わないでおいてあげた。



「お前さんがいった場所も明日の夜には着く。それまでは宴じゃ、宴!」



また酒が並々と注がれ、一息で空になって、海の男たちがガハハと笑う。そして何故か腕相撲大会になって、当たり前のようにゼロさんが全勝して、最後には熊おじさんとの一騎打ち。



「おーい、その太い腕は飾りか?」


「あ?もう終わりか?諦めるか?」


「熊だのサメだの大したことねぇなぁ」



煽りに煽ったゼロさんと耐えに耐えまくった熊おじさんは、遂には床を破壊して決着つかずで終わった。



「ならば!妾の出番じゃな!!」



ばばーんと効果音がつきそうな登場をしたルナは水着姿、というより下着姿に上着のみで席につく。目は爛々と復讐に燃えていた。



「ルシファ、そなた男じゃもんな。逃げたりせんよな?ん?」



煽り開始。



「逃げるかよ。お前こそ腕砕かれて泣くなよ」



ゼロさん乗っちゃう。いや、負けず嫌いなのは知ってるけどさ。あなたちょっと前まで重傷だったんですよ?



「いよおおし、いくぞー、れっつ、ふぁい!!」



熊おじさんの号令で力がせめぎ合う。


最強同士のぶつかり合いは、こちらまでハラハラする開始だった。


お互い、まったく動かないのである。



「ふ、ふふふ、ルシファ、そなたそんなものか?」


「お前こそ。ティナ堕ちしてそれかよ」


「そなたは男で妾は女だぞ?やはり、弱くなったか?ん?」



ぐぐぐ、とルナの細腕が動く。


机はすでにぎしぎしと砕けはじめ、熊おじさんたちが必死で机の補強の魔法を使っていた。



「お前さ、昨日から弱くなったとか言うけどよ」


「うむ?」


「俺もだんだんと、お前側にいってるのに」



ぎぎぎ、と崩れた均衡が持ち直す。



「肉体が弱くなるわけねぇだろ」



そして、筋肉の筋を浮かべたゼロさんの腕が勝る。ルナの目がぎんと光り、口を歪めて耐えている。だが、ゼロさんは少しも動かない。



「そなた!どうやっておるんじゃ、それ!力がはいらん!」


「別に?筋肉を使って固めてるだけだ。あとお前の筋肉をこう絞ってな」


「いだだだだだだだだ!!意味わからん意味わからん!」


「お前はティナの基礎値に頼りすぎなんだよ。」



ゆっくりと、ゆっくりと、ゼロさんの腕がルナの腕を倒していく。周りの歓声と悲鳴も大絶頂。わたしは声もだすのも忘れて勝負を夢中になって見ていた。


いや、ほんとにどっちが勝つんだろう。



「か、かくなる、うえは!!」



ルナの指先から血が垂れ、すぐさまゼロさんの腕を縛りあげ、自分の側へと引っ張り込む。ゼロさんの眉間に皺が刻まれた。



「お・ま・え・なぁ!!」



倒れる寸前でこらえるゼロさん。



「ダメって言ってないもんダメって言ってないもん!」



子供のような言い訳を言いながら、ぎしぎしと倒していくルナ。ブーイングが飛び交うかと思えば、ルナに懐柔された海賊たちからは応援しか飛ばない。


これはさすがに卑怯だと抗議しようとした瞬間。頭にのっていたクロちゃんがぴょんと飛んだ。



「……」



じっとルナを見つめるクロちゃん。



「やめんか」



ぺろりと舌なめずり。



「た、頼む」



くわっと口を開け閉め。尻尾をふりふり。


ゼロさんの口もにやりとつり上がった。



「いけ!クロちゃん!」



つい、わたしは叫んだ。



「やめえええぇぇぇぇえ!!」










「お前いい加減諦めろよ」


「い、いやじゃあああ…」


「言っとくけど、俺はクロに何もいってねぇからな。カモメが邪魔しに来たのと同じだからな」


「うわああああん…」



なんだか可哀そうになってきたこの勝負。


全身を噛まれまくるルナと、ルナの血の能力に抗うゼロさん。均衡は元に戻り、リスタート状態だった。


ゼロさんも絶対に譲る気はないようで、ルナもルナでかじりついてでも勝ちたいようだ。



「なんでそんなに粘るんだよ。勝っても血はやらねぇよ」


「わかっとるぅ~」


「じゃあ、なんでだ」


「わ、妾はー…」


「なんだよ」


「ルシファの泳ぐところが見たいのじゃ~~~」



全員がずっこけた。ゼロさんも一瞬力が抜けた。


何それ。そのためにそんなに噛まれてるの?



「ルシファに勝ちたい~~~!勝って一緒に泳いでもらうのじゃ~~~」


「……手ごまの使い方だ。もうあきらめろ」



呆れたゼロさんの目線がクロちゃんに向いて、何やらアイコンタクトを送ると、にやっとクロちゃんが悪い顔をした気がした


合図を受け取ったクロちゃんは、そのふさふさ尻尾をゆらしてルナの脇にもぐりこんだ。



「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



決着は一瞬だった。




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