07
神のつくりし大地を壊し
神を敬う心を壊し
神が愛する命を壊し
神が憐れむティナを壊し
果てには残った己を破壊せよ
扉をくぐるまで、ずっと抑えて、殺してきた。
自分のティナが牙を剥くこの感覚。
壊せ壊せとやかましいが、その対象は俺一人。
俺を壊しに、殺しにきている。
だから泣きそうなガキの顔も、周りの言葉も、気にしている時間は1秒もなかった。
今回は、傷ついて、死んでくれる奴が相手じゃない。
「さて、やれるだけ、やってみるかねぇ」
そう言って、固く扉を閉めた俺は、
足の健を引き抜き、骨を砕いた。
…あれからどのくらい経ったのだろうか。
狂いそうになるほどの破壊衝動。
怒りや恨みを唱えられるわけでもなく、ただ壊せと滅ぼせと、そうしなければならないと。そればかりが頭に響き、その感覚になり、偽物の感情に支配される。
叫ぼうが吠えようが、この声はかき消せない。永延と、理由もなく壊せと語られるだけだ。
「っうぐっ」
激痛が走り、思わず声が漏れる。吐き出した血が真っ赤で、床についた手にはびっしりと文様が刻まれていた。まるで鎖で締め上げるような模様は、このまま俺の意識も縛り上げ、最終的には崩れるまでそうするのだろう。
させるかよ。俺は、俺だ。
死ぬのはかまわねぇが、俺じゃなくなるだけはごめんだ。そうなるくらいなら死んでやる。
魔力をかき集め、少しずつ体を戻す。体に染み付いた覇力を破壊する。が、絶対量が少なすぎる。
何度も意識をとばしかけながら、少しずつ少しずつ…。
「く、くくく…。ほんと、どうし、ようも…」
全身から流れる血、足りない魔力、壊せ壊せとうるさい声。
意識がかすれている中、激痛だけははっきりと感じて、勝手に肉体が破壊され、再生し破壊される。そして残り少ない俺の意識を刈り取って、力を使って、また覇力に変わっていく。
ティナの力で体を破壊して治して破壊。どれだけ魔力を操作しても、染み付いたものを剥がすほどの力もないし、勝手に体の再生と破壊に力が使われていく。
俺に戻るために使いたい力が、破壊と再生に使われて、また"俺"を殺していく。
戻れないのがわかる。
それなら死んでやろうかと思っても、体が言うことを聞かない。
でも諦めるわけにもいかなかった。俺は足掻くと決めたのだから。
それでも、1つの道が輝く。
痛みもなく、苦しみもなく、死ぬこともなく、望むことができる道が…。
「くそっっっっ!!」
回復した腕をもぎ取り、粉々に破壊する。肉片ひとつ残さず、俺の体だったものは消えた。
その道はダメだ。死んでもだめだ。なんなら、この船を破壊してでも、それだけはダメだ。
あれが俺を消す道。唯一痛みも苦しみもない、一番楽で自由な道。
それが、堕ちること。
ティナ堕ちが多い理由も頷ける。この誘惑はきつい。抵抗しなければ勝手に堕ちるし、抵抗すれば、この誘惑が待っている。どこまで呪えば気が済むんだよ。
血がこぼれる。色は変わり、黒い血だ。
ああ、きっつい。俺は今何度殺されて生かされてんだろうか。
耳も機能を失い、鼓動だけがティナに順じて激しい。時間の感覚がない。1年経ったと言われても頷けるほど、永遠に壊れて治って壊れていく。
静かだ。
鼓動と、ぼやけた視界に映るティナの闇と、冷えていく自分の体。
呼吸をするたびに、体が崩れ落ちるような、そんな感覚。
目を閉じた。
気力も、体力も、魔力も尽きた。あとは勝手に体が死んでいく。
堕ちさせはしない。俺があの道に流されることはないし、魔力を使わずに耐えてれば、このままなら、呑まれるよりも、体が死ぬ方が早い。
このまま、ゆっくり死んでいけばいい。
ーーーーーぁん
心音以外の何かが、聞こえた。
ーーーーーーロさん
目はもう見えない、耳も聞こえない。体の機能のほとんどが死んでる。鳴り響くのは俺の意識と体を壊していく音だけだ。
なら、これはなんだ?
俺が聞いているのは。
「ゼロさん」
何かが触れた。熱すぎるほどの何かだ。薄れる意識の中で、目以外で見たそれに驚愕した。
そこにあったのは、ありえないほどの魔力だったのだ。
「嫌だ。お願いだから、死なないで」
俺が聞いているのは魔力の音。見ているのは魔力の色。
まぶしい程鮮やかな七色の光は輝き、俺の中へと吸い込まれていった。




