↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
64/355

06




船はあの客船ではなく、とても豪華な海賊船だった。絵にかいたようなザ・海賊船。大きくて装備もたくさんある。魔物に襲われた直後に熊さんに呼ばれたそうだ。


ぼろぼろになった客船はすでに陸に上がっているころだろう。


その海賊船の地下。


日の光が一切届かない部屋の中に、ゼロさんは閉じ込められている。なにせその扉の前には絶世の美女がおり、誰もその先に進めないのだ。



「良いか。妾は人間を好まん。だが、ルシファの知り合いであることに免じ、命を奪いはせん。代わりに手出しはしないでもらおう」



それで扉の前にどん、だ。


これには船長の熊さんも何も言えなかった。しまいには人払いまでされて、今この場所には誰もいない。



「いや、そこの童(わっぱ)。お前も去れ」


「嫌だね。このさみしがり屋」


「むむ?そなた妾が怖くないのか?よく覚えてはおらんが、なかなかに暴れたのだろう?妾は」


「そうだね。このさみしがり屋」


「そのさみしがり屋いうのやめんか。妾はルナという」


「わたしはイーリス。この子はカーバンクルのクロ」



わたしはルナの前にどん、と座る。その態度がいらついたのか、ルナのヴァンパイアの目が細くなって見下してくるけど無視。睨みながら、無視。



「去れというのが聞こえんのか」


「聞こえたけど、命令に従う意味がわからない」


「妾が強者だからだ。雑魚は控えよ」


「ふん。ほんとは戦えないくらい弱ってるくせに」


「むむ!?やってみるか?」


「わかった。ダッシュで窓開ける」


「それだけはやめい。ルシファと違って妾は本当に灰になって死んでしまう」



ほんとにそうなんだ。やらないけど、たぶん。



「まぁ、良い。子供相手にムキになる年でもない。


それでイーリスといったな。そなたはなぜルシファと共にいるのだ?奴が人連れなど、誘拐のターゲットかその場限りの共闘関係かのどちらかだったが…」


「わたしはアビスシードなの」


「あびすしーど?なんじゃ、それは」



わたしはゼロさんに会ってから今までのことをできるだけ詳しく話した。話すといろいろ出てくるのに、そんなに一緒にいた時間は長くない。


いつも笑わないけど、笑ってもニヤってするだけで笑い声みたいなのは、聴いたことないけど、大変なのに楽しかった。うん、楽しかったんだ。



「ふぅぅむ。妬けるの。妾は会っても逃げられるから、そんなにルシファと過ごしたことはない」


「ぎらぎらしすぎだもん、ルナは。近よりがたい」


「そ、そうなのか?妾の美貌をもってすれば万事解決かと…」


「ゼロさんは見た目で選ぶタイプじゃないもん。たぶん」


「ううぅぅむ。難しいの…」



話してみると、意外にもルナは普通だった。あんなに暴走していたのが嘘のよう。


恋する女性というやつが重症化したやつなのかもしれない。



「ルナはどうして暴走しちゃったの?」


「血を飲まなかったから。いやだった。嫌だったのう。支配下において、進んで首の根をさらす人間たちが嫌でたまらぬ。

それを食べるのも、なぜか嫌だった。気持ちが悪くて、悲しくて、つらい」


「………」


「人間は嫌いじゃ。でも人間がおらねば妾の食物はおらぬ。食物にしてしまえば、媚を売る何かに成り果てる。気味が悪くて、自分すら嫌になるのじゃ」



ルナは絵に描いたような美しく、少しだけ悲しそうな笑みを浮かべた。

もうあの怖さはどこにもない。耳がとんがっていたり牙があったりするけど、見た目も人間とそこまで変わらないから、人間として生きていこうと思えばきっとできるんだろう。


でも、そうはしなかった。ゼロさんと違う道をルナは選んだ。その中でゼロさんとは違う理由でもがいているんだろう。



「ゼロさんは、どうなるかな」



扉の奥で、きっと苦しんでいるだろう悪魔の姿を思い浮かべた。感情の映らない瞳を闇の中に沈めて、あの中で耐えている。


ゼロさんは、孤独だ。誰も寄せ付けないし、寄り添うことも許さない。


でも、それで寂しいとか悲しいとか悔しいとか、人並みに感じそうなものをまるで感じていない。そういう意味でも、感情のまま暴走するルナとは正反対だ。



「そなた。どこまでティナについて理解しておる?」


「授かったら姿が変わって、魔法が使えなくなって、本当なら授かった瞬間死ぬことの方が多い。その時生き残れてもずっとではないし、突然ティナ堕ちしてしまうこともある。あと代償で人としての何かを失う」


「ふむ。大方理解しておるのか」


「魔力が足りないから、制御する力がない。体を元に戻せないんだよね?」


「そうじゃ。ティナ持ちは永遠と魔力を利用する燃費の悪い生き物じゃ。悪魔のティナとなれば尚更のこと。あと、あの怨嗟を聞き続ければ気が狂うのも当然のことよ」



ルナは顎の下で指を組む。



「正直、ルシファという存在は規格外じゃ。人の姿を保つのも、ティナの体へ変化し戻るのも、回復に魔力を回したり、腕のみに魔力を回すなどという技も本来不可能。それは体の性能じゃから、操作したり調整したりなどできるものではない。


だが、今日見てわかった。悪魔のティナは破壊の化身。己すら破壊の対象じゃ。


人も世界もティナも、あらゆるすべてを消し去ろうとしておる。だからこそ、全てを抑え込まねば……そうせねば、ルシファは生き残れなかったのじゃろうな。


ルシファでなければあれは制御できん。そしてルシファが制御を外せば、ティナ堕ちは免れんよ」


「………」


「魔力という精神力がない状態で、体にティナの力が染みすぎた。本来ならこのような言い方すらありえない話なのじゃが、ルシファの場合は抑え続けるのが常なのだと思う。そうでなければ、ああなるのじゃから。


ティナ堕ちしたのと同等程度の体に、意思が通らず、ティナの声にもティナの行為にも抗う力がない。強靭な精神力で自我を保てたところで、身に染みたティナが己を殺していくだけ。それが今のルシファーじゃ」



魔力が、足りない。


唇を噛みしめる。そうだ、魔力があればなんとかなるんだ。


ゼロさんに魔力があれば、ティナの声にも抗える。破壊されていく体も治せる。身に染みたティナの力も引き剥がしていつもの姿に戻れる。



「魔力ってどうやって手に入る?」


「妾やルシファーは夜の闇からマナを得るぞ」


「そんなんじゃ足りない。即時回復するには?」


「そんな都合のよい物などあるものか!」


「じゃあゼロさんが助からないじゃんか!!」



悔しさを床に叩き付ける。


こうしてじっとしているだけで何もできない自分が憎くて仕方がない。


いつも助けてくれたのに、いつも守ってくれたのに、約束だって守ってくれたのに…。



「な、なんじゃ。そなた、ずっとルシファのことを考えとったのか」


「当たり前でしょ!何か力になりたいって思うじゃん!」


「いやいや、すごい童と思ってな。あの魔物との戦闘直後によく…」


「戦闘直後はゼロさんも一緒だし、魔物よりもルナの方がひどかったよ!」



え。あ。うん。ごめんなさい…。と落ち込むルナを放って、クロちゃんを握りしめて考える。


何もできないのかもしれないけど、何もしないと何も起きない。ゼロさんは今苦しんで、困ってるんだから。



「…ルナ、堕ちればいいなんて思ってないよね」


「思っとらん。あやつのティナの性を知れば、その気も失せるわ。


共にありたいのは事実だが、妾はあのままのルシファで良い。妾のようになれば……妾どころか、己ごと世界まで滅ぼしてしまいかねん。悪魔の敵は人間ではないということがよくわかった」



よし。とりあえず敵はいない。邪魔する人はいないってことだ。


考えろ。


わたしに何ができる?



「それにしても、そなた、魔法がきかないといったな」


「……はい?」



今、そんなこと考えるの?



「魔力は何処からきて何処へいったのであろうな」


「はい?」


「つまりだな、大きな火を消すには多くの水がいる。強い風を止めるには固い石がいる。


そなたの場合、大きな火という魔法を消すのにそなた一人で十分。なら、そのエネルギーはどこにいったのだ?爆発するほどの炎がしゅんと消えたのだ。たくさんの水も無しでの。

そのエネルギーを消費するほどのエネルギーをそなたが使ったのか?


えーとの、大きな力を消すのには大きな力が必要なはずなのに、大きな力をそなたは使っておらん!?……ん?どうなんじゃ!妾もよくわからんくなってきた!」



ルナは慌てて説明し始めるも。何かしら言葉が抜けてちんぷんかんぷんだ。


えねるぎー?

力、魔力がどこにいったかということだ。


どこに、いったんだろう?

魔法が効かないのがわたしなんだから、わたしにあったと考えるべきだ。



"核が破裂するには早すぎる気がするけどな"



「…核?」


「核は魔力の貯蔵庫じゃ」


「知ってる」


「そういえば、穴があいてなくて破裂しかかったと言っておったな」


「うん…」



わたしは、魔力がほとんどない。それこそ生きるために必要なだけしかない。悲しくもティナ堕ちしたのと同義のルナや動物と一緒。


けど、使える魔法が全種類だったと熊おじさんたちは言っていた。わたしはみんなの魔法と同じものを放つことができたから。


でも、今はどうやっても、炎も水も生み出せない。それは魔力がないから…?



「も、もしかして…」



魔法が効かないのは、炎に水を当てたんじゃない。炎は一瞬で消えたんだ。炎じゃないものにしたんだ。


それは何か。まさか炎を風や水に変えたりはできない。だから違う。


元に戻った。魔力に戻ったとするなら?

魔法が魔力に戻って、その次にどこにいく?


魔力を貯めるのは核。なら核に魔力は移動した。


わたしの核が破裂しかけたとき。

あれはジルおじさんの強い雷魔法をくらったときだ。強い魔力がわたしの核に行ったから、核が破裂しかけたのだとした?


そしてわたしは、船での戦いのときには魔物の魔法をくらった。それが魔力になって核にため込まれた。

それを使ってわたしがしたことは、全属性の魔法を使って、植物を操った。神様みたいに。


そうじゃないとしたら?


わたしは、炎を出せない。水も出せない。でも植物を誕生させることができる。全属性の魔法を使っているところで、その力を使うことができた。


それは、つまり…?



「ルナ!ありがとう!!」


「なにが!??」



わたしはクロちゃんを放り出して、みんなのところに走った。


みんなとは? 魔法を使える人間たちのところにだ。


まだ仮定に過ぎない。急いで試さないと間に合わなくなる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。