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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第六章 吸血鬼
63/355

05




「スター。わたしをゼロさんのところへ送って」


「おいおい、ありんこ。無茶苦茶いうなよ。あそこへ戻ってどうなるってんだ?」


「だって約束したもん。迎えに行くって」


「……イースちゃん、それゼロが約束してなかった?」


「うん。だから約束を守ってもらうためには、ゼロさんの目が届くところにわたしがいないと無理でしょ」


「「・・・・」」


「なに!?わたしはゼロさんがした約束を守りたいの!!」



暫しの沈黙。



「はっはー!なんだ、それ!馬鹿らしいほどの正論!」


「でしょ?だからよろしく」


「いやいや。だからって行ってもどうにもならないことは変わらないでしょ!?」


「うるさいな!!行くのはわたしなんだから、ヤマトは黙っててよ!」


「あ、ありんこ?」


「じっとしてられないの!待つのも任せてばっかりなのも嫌なの!

わたしだって何かできるかもしれないし、何もできないからって行ったらだめなんてことない!」


「ゼロの邪魔になったらどうするんじゃ!」


「ゼロさんは前に自由にしろってわたしに言った!だから、そんなの知らない!!ゼロさんはわたしを守りたいのかもしれないけど、わたしは守ってもらいたいわけじゃないよ!守ってもらうよりも、ゼロさんに生きてほしいんだ!

だから…スター連れてって!みんなも力を貸して!お願いだから!!」



防御のためと熊おじさんの作った箱に入って、スターの力を借りて空を飛んだ。ヤマトが万が一のときのナイフを持たせてくれようとしたけど断っておいた。クロちゃんはわたしと一緒についてきてくれている。


距離はそんなに離れておらず、すぐにわたしたちのいた島が見えた。木はなぎ倒されて地面がむき出しになり、陥没していたり島が欠けていたりとひどい有様だ。


すさまじい戦闘の跡を目で追うと、海岸近くにゼロさんとヴァンパイアのルナはいた。島の端っこで血まみれになりながら戦っている。


そこで初めてゼロさんの姿が見えた。


身に纏う黒い闇は一層その深さを増して、纏うというより覆っているようだ。まるで天を衝く角や地面を削る尾があるのかと錯覚するくらいの濃い闇。腕は肩まで硬質化しており、まるで腕甲を装備しているように見える。


口元からはみ出した牙は鋭く、赤い瞳はいつもの悪魔の目だが白目まで黒くなっている。そして肌に禍々しい模様が刻まれて、それはどんどんとゼロさんを侵食しているように見えた。



「だめ…」



何故かそう思った。そう思ったときには外に出ていた。突撃した先が海だなんて、なんも考えずに。



「ゼロさーーーん!!」



一瞬、見開いたゼロさんの目が見えた気がした。


どぶん


視界は夜の海で急に真っ黒になった。抱きついたゼロさんはどこもかしこも傷だらけで、わたしを見る黒の中の目は困惑に揺れていた。


魔力なんてわからない、覇力なんてもっとわからない。


ただ、ゼロさんが、壊されて潰されて呑まれそうなんだと思った。



「帰ってきて。ゼロさん」



海の中で、言葉を話す。


音にはならないけど、なんとなく伝わる気がした。


ゼロさんの揺らぐ目はそれを聞いて、たぶん受け止めてくれて、いつも通りに笑った。


そしてゼロさんは何も言わずにわたしの頭を叩いた。



「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」



水中とは思えない高威力。


頭が吹き飛ぶかと思うくらいの痛みに思わずうめき声と一緒に、体の中にあった空気を吐き出してしまった。


やばいと思う前に頭が地上に出ており、胸いっぱいに空気を吸う。



「あ゛----、ほんと、これだ、から、嫌なんだよなぁ!!」



ばきばき、べきべき、ぶちぶち。


体から不穏な音をさせながら、ゼロさんの闇がゆっくり収まっていく。封じられようとする力に抗っているのか、左目だけはそのまま闇の中で爛々と輝いていた。


それからゼロさんはふらふらと、流れる血をそのままに、ヴァンパイアのルナに近づく。


そういえば突撃したときに一緒に海に突っ込んだままだったけど、あのゼロさんがルナまで助けたらしい。



「お前、まさかこれのせいで狂ったのか」



意味深な言葉の意味を聞く暇なく、ゼロさんは血まみれの腕でルナの口を塞ぐ。流れる血が、腕から口の端を伝い、ぐったりした状態でもヴァンパイアの喉は動いた。


ごくり、ごくり、と。



「ぜぜぜぜ、ゼロさん?」


「こいつは吸血鬼で、喰った相手を支配下に置く力がある。どのくらい血を飲んでなかったかしらねぇけど、ティナが本能に逆らいすぎると崩れるんだよ。俺の破壊衝動と同じでな。

こいつがおかしくなったのもそのせいだと思う」


「でもゼロさんが吸血鬼に!?」


「大丈夫だろ。若干意識もってかれそうだけど」



それは大丈夫なのだろうか!?



「俺の傷の手当より、こいつを多少まともにした方がいい。治したところで片っ端から作られたらどうしようもねぇし」


「それは、そうだね」



その時だった。


ルナの固くつむっていた目が、急にぱちんと開き、ゼロさんの腕から口を離したと思いきや、這い寄るように一瞬でゼロさんの首へと牙を突き立て……。


しかし突き刺すよりも早くゼロさんの膝蹴りがルナのお腹に刺さった。



「ふぁっぐ!!!!!?」


「まともになったか?ヴァンパイア」


「うぐ、ま、まとも?妾は、何を…。それよりもルシファ、重傷ではないか!もったいない!」


「よし。まともだな」



まともなんだ。これでまともなのか。重傷の人にもったいないでまともなのか。



「む。妾の傷も深いな。迷惑かけたの。どれ、二人まとめて傷口をふさごうか」



ふわりと血液が浮いて、傷口を覆ったかと思うと途端に血は流れなくなった。血を固める力を使ってふさいだのだろう。あれだけひどかった傷も一瞬だ。



「それよりもルシファ。そこの女子は誰じゃ?妾がいて他の女に…」


「ガキ、気をつけろよ。本質は変わらねぇから。あれは錯乱して制御がまったくできてなかっただけで考え方はあのままだ」


「失敬な。妾はただそなたが欲しいし、人の世も滅べと思うし、独りは寂しいと思う。

それだけで無理にすべきではないし、そなたを傷つけてまで……」



そこまで言って、ゼロさんを見て、察したのだろう。ついと目をそらすルナ。人間よりもティナ…ヴァンパイアに近い人だ。その本能を抑え込むリスクは高いように思える。


ゼロさんも全く壊さない日が続いたら同じようになるのだろうか。嫌だな。想像できないし、なにより怖すぎる。



「……あー」



急にゼロさんはぐったりと座り込んだ。


いつの間にか、煙草をくわえて火をつけている。



「ヴァンパイア、俺は限界が近い。しばらく見張ってろ」


「…え」



乾いた声が漏れる。


限界とは、死んでしまうってことだろうか?それともティナに呑まれるということ?


わたしは間に合わなかったのだろうか。



「…今更そなたの生き方を否定せんが、妾のために終わりそうなのか?」


「俺の判断ミスだ。お前なんかのために死んでやるかよ、ドアホ。力を使いすぎた。抑えるには魔力が足りそうもない。最悪なことにもうすぐ夜明けだしな」



睨むような目線の先はすでにうっすら明るくなっている。


ゼロさんは夜の間しか魔力の回復ができない。今、魔力が足りないというのに回復もできない。だから限界。ゼロさんはそう言った。



「まぁ、なんとかしてみるがな。ちょうど船も来たみたいだし」



ゼロさんはいつも通りにやりと笑って立ち上がり、くしゃりとわたしの頭をなでた。



「お前が来なかったら今頃暴れまわって楽しかっただろうな」


「…楽しい、の」


「ああ。制限なく、何も考えずに、壊して壊して壊しまくって…」



闇の中に堕ちたままのゼロさんの目は何を考えているかはわからない。ただ、少しそれに焦がれているように見えた。



「最悪な終わり方をするところだった」



でも、そうはっきりと言ってゼロさんは船へと歩く。わたしはすぐその後を追った。





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