08
檻の中に奇妙な3人がいた。
一人は大勢が入る牢屋の大半を占める大男。
髭の濃い顔で、一番の年上であろう豪快な男だ。
もう一人は対して小さな女の子。
不思議な髪色をしており、おおよそ牢屋に入るとは思えない小綺麗な格好をしている。
最後に目付きの鋭い男。
礼装の留め具を外しており、大きなソファーを一つ陣取っている。片手に煙草と酒。この空間のなかで一番自由を満喫していた。
この三人の中に、ここに入れられた者はおらず、自らこの中に入った者たちばかり。料理に酒に煙草。この客船のなかで一番楽しんでいる三人だろう。
「……脱落だな」
脱落者は少女、イーリス。
幼い彼女は詰め込めるだけの料理を腹にいれて、幸せそうに絨毯の上に転がっている。眠ったイーリスをゼロは軽々と抱き抱え、広く柔らかいベッドに横たえた。
「まぁ、ありんこにしては頑張った。後は大人の飲み会じゃ」
「いや、俺も寝るから帰れ」
「がはは。なにが寝る、だ。お前がこんなところで寝れるわけがねぇ」
「……」
「それに帰れは可笑しいじゃろ?ここ、ワシの船」
自身の子供の頃を知る男だ。
なにも言い返さず酒を煽った。
「休むことくらいはできる」
「休ませねぇよ!ほら、飲み比べだ!」
「弱いくせにめんどくせぇな」
グリズリー・シャーク。
彼はめっぽう酒に弱い。すぐに酔う。酔って寝る。
ただし馬鹿みたいに回復が早く、一度机に突っ伏してもすぐに起き上がるのだ。年は四十ちかくだが、体力は大抵の若者よりも遥かに高い。
「それにしても、お前もでかくなったなぁ。昔はこの蟻んこみたいにちっさくてひょろひょろだったのになぁ」
「死にかけてるときの話だろうが。それ」
「しょうがねぇだろ?ワシがおまえに会ったとき死にかけてたんだから」
ばつの悪そうな顔をするゼロ。
それを気にしてか、イーリスと一緒に眠っていたクロが飛び出し、そっとゼロに寄り添う。それを見て苦笑しながらゼロはクロを元の場所へと放った。
シャークは酒をなめながら微笑む。
彼は昔を思い出していた。
遠い、ゼロにあったときのことだ。




