07
予約するの忘れて遅刻しました!
それからゼロさんが行った行動はおかしなものだった。
まずは、部屋の一室にわたしを放り投げて着替えるように指示。それから周りの料理係さんとかにテキパキと指示をし、自分は大きなソファーを抱えあげている。
「ほら行くぞ」
と言われてついてきたところは
「………牢?」
「そ。ガタガタ言うやつもいねぇし、言いに来たやつもここに入れって言うだけだろ」
キィッと音をたてて扉をあけ、その真ん中にソファーを置く。足元には何処のを剥いだのか知らないけど、絨毯をひいて、テーブルを置いて、その上に料理やお酒を並べていく。
おっと、ベッドまでもってきたの?
「あ"ー、ちょっと暗いか」
ということで電気も持ってきた。もはや牢とは呼べない。
ゼロさんはめんどくさがりのくせに、こういうときはちゃっちゃっと動くんだな……。
「お前もあんな会場より、こういうところの方が落ち着くだろ?」
「否定はしません」
出身地の方が汚れてたし。
「それにしてもさ、よかったの?あんなことして」
「いやー、良くはねぇな」
言葉とは裏腹に何処か楽しそうにタバコをふかすゼロさん。ソファーでくつろぐ姿は、さっきの真面目護衛とはまったく違う。
「良くはねぇけど楽しかったろ?ならいいんだよ」
「た、楽しかった、かな?」
「下民どころかアガド出身の世間知らずに怒鳴られる貴族もどき……。ククク、ざまぁみやがれ」
ゼロさんはほんとに貴族が嫌いならしい。
「なんか意外だよ。ぜ、、レイさんがこんなことするなんて」
「めんどくさいって言うからだろ?」
ご名答。
「俺は効率が悪いのと、やらなきゃいけねぇことができるのが面倒なんだよ。護衛の仕事をしなきゃならねぇ、銀の仕事をしなきゃいけねぇ、そういうのが嫌いなんだ。だから、お前を守ってやらねぇといけないのもめんどくせぇ」
「そ、それは……なんかごめん」
「誰しも自由が一番だろ?」
ゼロさんは上機嫌に酒を煽る。
「楽しめよ?クソガキ。せっかく、人として生きれるようになるんだ。やらなきゃいけねぇことしかしない生き方なんかつまらねぇ」
わたしはゆっくりとその言葉を噛み締めた。
なにせ逃げ続けなければならない、戦い続けなきゃいけないゼロさんが言うんだ。
きっとその言葉に間違いはない。
「じゃぁ、レイさんの好きなことってなんなの?」
「あ"ー……一通り遊び尽くしたけどな。何だかんだで戦うのは好きなんだろうよ」
「……本能的に?」
「どうだろうな。追われるのは好きじゃねぇけど、駆け引きは嫌いじゃねぇ」
ある程度強いって自信もあるしな、とゼロさんは笑った。
「正直、レイさんってどのくらい強いの?軍の大将より強い?」
そう聞くと、何故か考え込むゼロさん。
なんというか、言葉に迷ってる感じだ。
「俺はな。大群も得意だし単体も得意なんだけど、何より魔法相手が得意なんだよ」
「………魔法は最強の力なのに?」
「そ」
くいっと酒を傾けるゼロさん。
「俺の破壊は人体だろうが物だろうが魔法だろうが破壊する。防御に使えば無効化に近いし、攻撃に使えば受け止めることができない。避けるか相殺するかしないと、武器なり体の部位なり、絶対に失う事になる。
それに、魔法はどんだけ優れてても所詮5種だ。何人集まろうがそれは変わらねぇだろ?だからどんな大きさになろうが、その5つが何とかなれば、魔法は意味を成さない。だから、俺としては楽。
で、俺個人としては単体相手に特出してる。体がこれだし、力も技術もある。扱えない武器はねぇし」
それは、つまり…
「敵なしってこと?」
「俺を超える個か、俺が対処できない群か。それくらいだろうな。
軍のやつらは群をとったんだよ。個は損失したときが痛いし用意が難しい」
まぁ最大の敵はあのゾンビだろうよ、とゼロさんは笑った。死なないから勝てはしない、ということなのだろう。群れにも強くて、単体にも強くて、おまけに頭もよくて、銀さんという権力との繋がりもある。
うーむ…。磐石。
「なっはっは!んなこと言いながら、いっっっつもボロボロじゃねぇか!」
扉、もとい檻の外から豪快な笑い声が響く。
そしてのそっと現れたのは、人間みたいな熊だった。失礼、熊みたいな人間だった。
咄嗟にゼロさんを見る。おおお、眉間に谷ができてらっしゃる。
「何してんだよ、熊」
あ、やっぱり熊なんだ。
「何してるはこっちの台詞だ!ぶわははは!なんで牢屋に入ってんだ!しかもいい感じにしちゃっとる!!」
「潰れたんじゃなかったのかよ」
「潰れた潰れた!いやー、楽しい酒はいいねぇ!
ところでよ!なーんか乗客が騒いでると思ったら、こういうことねぇ」
ははーん、と得意気な顔をする熊さん。
「アーゼルのおばさんらがな。ベッドがないやら、ソファーがないやら叫んでたが……まさか牢屋にあるとはな!」
「へぇ?アーゼル家の部屋だったか。失礼なことをしたなぁ」
惚けたようにタバコを咥えるゼロさん。
絶対わざと。
「がははは!まぁいいじゃねぇか!あいつらも牢屋にぶちこむやらなんやら喚いてたしな!そういやぁ女の子がどうとか言ってたけど何のことだぁ?」
冷ややかな目をしてその女の子を指すゼロさん。
指差はわたしの方を向いている。
「んあ?」
「こんばんは」
「……………」
沈黙。
「ちっこくて見えなかったわ!がっはっはっは!!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「悪いなぁ、おチビちゃん。ほんと蟻みてぇなガキんちょだぁ!」
「おじさんが大きすぎるんだよ!この熊っ!」
「なっはっは!確かにグリズリー・シャークといえばワシのことだ!よろしくなぁ、蟻娘!」
グリズリー・シャーク。熊に鮫ってどういうことよ。体がでかすぎて熊呼ばわりされてきたことで、そんなあだ名がついたらしい。シャークというのが本名。
そして、わたしは決して蟻ではない。
「熊!」
「ははは!蟻んこ!」
「熊じいさん!」
「蟻んこじゃりんこ!はっはっは!」
なにがそんなに面白いんだー!
「うるせぇ」
酒瓶で頭をバリーンとされる熊さん。
わたしの方には拳骨が落ちてきたんだけど、目の前で瓶が砕け散るのを見て痛いのを忘れていた。
「いったい!」
それで済むんかいっ!
「船長が、ずかずか牢屋に籠ってんじゃねぇよ。出てけ出てけ」
「やだね!ワシの船じゃし」
だだっこ熊さん。
そんなことよりー、と続ける。
「この船はこのまま一晩はここで泊まって、夜明けからぐるっと回って島に戻るんじゃが、いつ降りる気だ?行き先はあそこだろ?」
「勝手に飛び降りるから気にすんな」
「はーーん。教えねぇってか!はぁ~~~ん!」
「なんで教えなきゃいけねぇんだよ」
「そりゃあガキの頃にちょっと面倒見た奴がでっかくなって戻ってきたんだ!別れくらい言いたい!」
ガキ?子供の頃ってこと?
そんなに古い知り合いなのか。海賊とゼロさんに接点があるって……まぁ意外でもなんでもないけどね。
そっかー、子供の頃かー。ゼロさんにもあるんだよね。そういう時期。当たり前だけどなんか実感ない。
き、きに、なる、なぁー……!!!!
「教えてやろうか!蟻んこ!」
「……言うなよ」
「いいじゃねぇか~。誰にだってあるんだぜ?子供の頃って。そうだなぁ~何から話そ」
そこまでで言葉は停止。
熊さんは顔面から硬い床に倒れた。
目にもとまらない手刀が火を噴いたらしく、ゼロさんの構えた手からは蒸気がでている、気がする。
「…おーい。目が、赤いよー」
「ちょっと力出した」
全力の阻止だったらしい。
もう聞きたいなんて思わないようにしよう。
「……死んでない?」
「死なねぇんだよなぁ、この熊。無駄にしぶといんだよ」
わたし、知ってるよ。
ゼロさんの格闘技って人の体貫いちゃったり、陥没させちゃったりできるの。しかもその時はティナの力使ってなかった状態だったよね……。
この熊さん、すごい。
「くぁ~、キいたぁ~。お、肩凝りとれた。サンキュウサンキュウ。で、何の話じゃったっけ?」
ほんとすごいと思う。




