04
自然に跳ねる吐息を抑え、声の相手に目を向ける。
ザ・貴族
いや、貴族ではないんだけどね。ゼロさん曰く。
「は、初めまして。イーリ……イースと申します」
「僕はアーゼル家のハンソといいます」
見た目は好青年。いやにキラキラしており、顔立ちも整った優しげな雰囲気を醸し出してる。
なんかなー、そのつくりものの感じがね。ザ・貴族なんだよ。貴族じゃないけど。
「大人たちの会話は退屈でしてね。そこで貴方を見つけたんですよ。随分と……失礼ですが幼く見えるのですが、ご両親は?」
「今日はいないんです。二人とも体調が悪くて…。せっかく招待してもらったのに、参加しないのは悪いと思って、二人で来たんです」
ということにしておいた。これはゼロさんとの打ち合わせどおり。
そして言葉遣いに関しては、諸々できていないんだろうけど、見た目の幼さで突破していると信じてる!
「なるほど。して、もう一人というのは?」
「えと、護衛の人です。今は船の構造を見て回ると……。何かあったときのために?」
ハンソは優しく微笑んだ。
「ええ、わかっていますよ。優秀な護衛をお持ちのようだ。こんなに船の案内図はたくさんあるのに、目で見て確かめにいったのでしょう」
……そうか。そういうことにしておこう。
ゼロさんのことを誉められるのは満更でもないし。
「僕の家の護衛も優秀ですが……その人には負けるかもしれませんね」
「はい。ぜ、レイさんは誰にも負けません」
一瞬、間が空く。
しまった。ここは多分、そんなことないですよ~と濁すとこだった。
や、やばい?あ、う、うわぁーー……
「ゼレイさんといわれるのですか」
返されたのはまたしても微笑み。
子供だからと許されたのかもしれない、と少しだけ自分の見た目に感謝した。
「いや、レイ、です。ちょっと荒っぽいですけど、わたしはここの誰よりも強いと信じてるんです」
「ほう?それはそれは。なにか流派でもお持ちなんですか?それとも優秀な色でも?」
流派!?色!?
なんだそれは!!
「な、な、内緒です!!」
「な、内緒ですか……」
さすがのハンソも微笑みを忘れて戸惑っている。
ふはははっ!いいんだよ!もう!
それにしても何でこの人来たんだろ?ほんとに遊びなのかな?
「それにしても……。ご両親がいないとなると、ご挨拶ができませんね。せっかくお近づきになれたのに」
「……はぁ」
挨拶できないからってそんなに残念がるものなの?お金持ちってそういうものなのかな。
「よろしければ僕の両親に、貴方を紹介させて頂けませんか?」
「え、いやです」
「え?」
「……え?」
え?じゃないよ。わたしはやだよ。怖いよ。
「………ははは」
ハンソさんは顔を手で覆って、微笑むのじゃなくて声を出して笑った。
「我がアーゼル家に話だけでもしたいという人は星の数ほどいるというのに、全く、面白い方ですね」
アーゼル家……そんな有名だったのか。
ん?というか、このパーティーの主催者がそんな名前だったような……。
これは、まずったか!?
「家名も名乗らず、僕から視線を外そうとしない。随分と警戒心が高い」
「え、あ、いや、はい?」
「どちらかといえば僕を探っておられる。ふふふ、幼いのにしっかりしている」
いやー、探ってるというか。あなたがなに考えてるかわかんないだけです。
家名は言えるは言えるけど、すてぃーど家って言い慣れないし。目を離さないのは、あなただからとかそういうのでもなく、いつものことなんだけど。
「ご両親がいないのではしょうがない。直接お伝えすることになりますが…。イースさん、僕と婚約しませんか?」
「……………???」
……何て言った?
何て言った、この金髪人形!
「素晴らしく美しい髪に知性を感じる眼差し。将来とても美しい女性になるでしょう。
その時には僕の傍にいてほしいんです。ほら父や母が決めた相手は大抵……お金で取り繕った姿の人ばかりですから。男としてやっぱり美しい方と添い遂げたいんです」
それからもつらつらと、なんな甘ったるいことを言ってた気がするけど、何故だか頭に残ることはなく。
要約すると、結婚相手が不細工じゃ嫌だ。
でも金持ちは不細工だ。
だからといって、平民と付き合うこともできない。
そこで見つけた、わたしを!ということらしい。
いやー、平民どころか一般市民になれない人なんだけどね。わたし。
「――――だから、僕とどうか親しく……」
「無理です。断ります。絶対に嫌です」
ギザな姿勢を決めてきたところで、言葉の刃で串刺しにする。
なにその姿勢。背景にバラが飛びそうだよ。
「……アーゼル家の僕を…」
「いえ、アーゼルとか関係ないんです。貴方が嫌なんです」
はい。終わり終わり。
逃げよう。
「ま、待て!」
待ちたくないんだけど……この靴じゃ走れない。伸びてきた手に大人しく従うことにした。
そもそも走っちゃだめだけど…。なんで男の人はペッタンコの靴なのに、女は踵が細い靴なんだろうか…。逃げるから?
覚悟したハンソの手だけど、それは寸前で止まった。
止まったというか、ハンソが掴んだのは飲み物の入ったグラスだったのだ。
「失礼。うちのが何かしましたか?」
「レイさん‼」
おおおおお!ナイスタイミングだよ!
「……あなたは?」
「レイと申します。これの護衛で」
「ちょっ…」
これって!!!!
「主人に対して随分な口のききかただな」
あなたも初対面の人に失礼ですけどね。
でも賛成。本にお嬢様がコレと呼ばれてることなんてなかったよ?
「こいつとは主よりも先に師ですので。捨て子の育ての親、とでもいいましょうか」
「ふむ。ならば、彼女は養子ということか」
「主人はこの髪色を気に入られたんでしょう」
いや、いいんだけどね。そんな設定にしたんだね。
それよりも、ゼロさん、いやレイさん。敬語すっごいすらすら出てくるけど、違和感しかないよ!
「戻られた方がよろしいのでは?アーゼル家の御曹司が、捨て猫と戯れては泥がつきますよ?」
おぉーい。いろいろとどうかと思うよ、その発言。
なんで、そう煽り口調でいくかな!
「……そうだな。失礼しよう」
あんたもそれで退くんかい!!!
「では」
ともあれ離れたい、という目的は達成されたようで安心した。
ゼロさんもやれやれって感じだし。
「あぁ、そういえば」
後ろで飲み物片手のハンソが優雅に振り向く。いちいち演技がかった仕草がめんどくさい。
「イースさんが、先ほど貴方の強さを疑わぬと、云わば最強であると仰られておりました。何を得意とされているので?」
「………特別申し上げるほどのものではありません。色は赤を」
あー、ゼロさん。目が怒ってる怒ってる。
顔に余計なこと言いやがってって書いてある。声と表情の矛盾がすごいことになってるよ!!
「それは楽しみだ。どうかその腕を披露してくれ。
父上はそういうのが好きでね、あとで予定されているんだ」
ここで、ノーとは言えない。
わたしでもわかる。
ゼロさんは眉をひそめて、なにも言わずに軽くお辞儀をした。横目でわたしをぎらりと睨みながら。
わたしは、ぱくぱくとごめんなさいを伝えながら心のなかでニヤニヤしていた。
ふふふふ
うちのゼロさんの強さを思い知れー!




