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おかしいんだよなぁ。
盗賊に支配された町が、なんで旅人を受け入れることができる?
普通ならその前に盗賊がしゃしゃりでて殺すだろ。
若者だけ拐われた?
なら誰が生活のパイプラインを保ってんだよ。
噴水に水を使う余裕があるほどの余裕を老人連中でなんとかしてるってか。
で、報酬?
んなもんあったら、盗賊が速攻で持ってくだろうが。
俺は寝転びながら煙草を吸う。
辺りから漂う視線。こんな中で寝れるかよ。
「……ま、横になれただけでマシとするか」
大方、俺を殺してあのガキは売り払うつもりなんだろうが、相手が悪かったな。
起き上がって火を消し、コートを羽織る。短剣二本はあいつが持っていったか。
残りの装備や煙草をしまい拳銃を握る。
手を出してこないならこのまま寝るだけ寝て出ていこうと思ったが、この警戒感じゃそうもいかねぇし、どっかのチビが手を出しやがったし。
まぁあいつはあいつで好きにすればいいさ。勝手にやるだけだ、俺は。
身支度は整った。扉に近づき、そのまま蹴り開ける。
「うぎゃっ!」
小さな悲鳴。外れた扉の下敷きになったカエルの声だ。その上に飛び乗り右手で銃を構える。銃口は難を逃れた男の額を捉えた。
「さて、いくつか質問するが、答えたくなけりゃ答えなくてもいい。そんときは、どうなってもしらねぇがな」
おっと。足元のやつ、顔のとこ開けとかねぇと喋れねぇか。
残った短剣を横に一閃。ちょうど首の位置で扉の切れ端が飛んで、青ざめた不細工な顔が現れた。
左は剣、右は銃。ち、これじゃ煙草吸えねぇ。
「お、オレらがヤマトの盗賊団って知っててやってんだろうな!オレらに何かあったら仲間が只じゃおかねぇぞ!」
「あ?ヤマト?」
右のやつが声を絞りだす。魔力が練り上げてるのが見なくてもわかるが、まぁ無視しとこう。
「それが聞きたかったんだが、あのヤマト?」
「そうだ!大盗賊の一派だ!」
「いやいや。あいつは単なる快楽主義者で盗賊ですらねぇぞ」
なぜ盗賊になったのかと聞けば、「違う。怪盗だから」と真顔で答える馬鹿だぞ。あいつは。
確かにチームを作ったことはあるらしいが、それも高難易度のものを盗むためだけで……。金目のもの狙って盗んだ後返すのが面白いとか言うし。
あいつは盗みという行為に楽しみを見つけた馬鹿だ、只の。
「つーか、略奪とか侵略とか無理だから。あいつ、犬より弱いし」
「…………え?」
「鼠に勝てるかどうか怪しい」
「…………えぇ?」
よし、まぁこの反応でわかった。こいつら只のチンピラの集まりだ。後ろ楯もなけりゃ力もない。
おそらく、アガドで刑期くらって出てきた連中の集まりだ。アガド牢獄は、なにもあのごみ溜め監獄だけじゃねぇからな。
「じゃ、次の質問だ」
「こ、答えるかよ!死ねぇあ!!」
やっと練り上がった魔力が火炎となり煌々と燃え上がる。
いや、まぁ、だからなんだっつー話で。
「え、おい、やめろ!」
足元のちょうどいい盾を持ち上げる。
放った魔力を消す能力なんてあるわけがなく、盾はそのまま盾の役割通りとなった。
「ぃぎゃぁぁぁあああ!!!!」
燃え上がったそれを床…さっきの扉の上でいいか。そこに投げ捨て暴れまわらないように掌を剣で串刺しにする。
ほら、燃え移ったら大変だろ?
「殺すっていうには足りねぇなぁ。火力が」
「お、おい、冗談だろ?」
「あ?なんだよ、手伝ってやろうとしてんだよ。俺は」
懐からボトルを取り出す。
気付け用のキツいやつ。
3口ほど口に含み、上質な味と刺激を堪能する。
「やめろぉぉおぉ!!」
残りを扉に、そして盾にしたモノに振りかける。ちょうど買い直す予定だったから空になって助かった。気付け用にしては俺には弱すぎる。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁあがっがぁあ!!」
「酷い匂いだな…。豚の方がいい香りをさせるぜ?」
断末魔も喉が焼けたか掠れた音でしかなくなり、木が燃える小気味良い音が響く。足腰が立たなくなったもう一人は、唖然と自分の炎の結果を眺めていた。
「続きをしようか」
胸ぐらを掴み、炎の中心に放る。まぁ続きをするんだから黒こげにするわけにはいかない。燃えるお仲間だったものの隣だ。
「あ、あぁ、熱い……あ、あぁあぁぁぁ……た、助けてくれぇぇぇ!!」
喚き泣きじゃくる男。
ほんと、どうしようもねぇな。魔法で炎を作れても、放った後は只の炎。
消すことも、動かすことも、何もできない。自分をじっくりと焦がすだけ。これだから雑魚は…。まぁいいか。
「ひとつ、お前らの人数だ。アジトとこの町と何人ずついる?」
炎は燃え上がり、飛び火し、辺りは炎の海だ。火に困らないのは助かる。
煙草をくわえると自然に火がついた。
「たた、助けて。命だけは、どうか!」
「答えになってねぇな」
引き金をひく。
甲高い音のあとに、男の右足から血しぶきがあがり、それからだいぶ遅れて悲鳴が響いた。
「ほら、早くしねぇと逃げるための足が潰されるぞ?この火の海から逃げるには必要だろ?」
「い、いいます、ごご、ごめんなざい。町には10人以上…いまず。アジトには、結局見せかけなんで、もっと少ないです……」
「人数を聞いてんだけど?」
「す、すみません!わからないんす!オレ、馬鹿だから…すいまぜん!!」
まぁいいけどよ。
雑魚の数を知ったってしょうがねぇし。
「じゃあ二つ目、ティナ持ちはいるか?」
首をぶんぶんと横にふる。
だろうな。俺の眼にもティナ持ちらしいやつは見えてない。
そろそろ酸素も薄くなってきたし、ただの人間にはきついか?
「じゃあ最後だ。白い髪の女。心当たりはあるか?」
「しろ、い………髪?」
そこでチリっと魔力を感じ、同時に男の持つ通信機が音を鳴らした。
「あ、アジトから、っ……」
無言で奪い、耳に当てる。
………嫌な予感。
『あ、もしもし。すごい、繋がった。こんにちはー』
「何やってんだ、クソガキ」
『え?ゼロさん?』
なんとなくそんな気がしたが、通信機の先はあのガキだった。
『何してるの?』
「こっちの台詞だ。何やってんだ、お前は」
『うん?誰もいなくなったから、町の人はどこか聞こうと思って。なんかねー、もぬけの殻なの。ここ。売られちゃったかな?』
「いや、嘘だから。あれ全部」
『…………えぇ?』
「ここに町の人間全員いるだろうな。全員盗賊まがいの集団だけど」
『………あれ?あのおじいさんは?』
「芝居。そこに行くまでに普通なら罠でやられんだよ。お前はそういう出身だから問題ないだろうけど。で、大体の戦力をこっちに集めたらしいな」
『じゃ、お金ももらえない?』
「そういうことだな」
悔しさに悶える声が響く。予想通りとはいえ、やっぱり面白いな。こいつ。なんだかんだで無事なら、ここには用はない。
ティナ持ちも情報もねぇし、休むこともできないなら、ほんと無駄足だったってことか。
「なぁ、ガキ。右と左、好きな方選べ」
『ん?』
右手に拳銃、左手に短剣。
喋らないように喉を踏みつけたが、煙を吸いすぎたせいか、とうに暴れる体力はないらしい。
『急にどうしたの?』
「なんとなく」
『んー、そうだなぁ。好きな方かー。それじゃ………』
通信機に関して!
ゼロのは多方向送受信可能でピアスサイズ。
村人が持ってたのが単一方向受信可能で携帯電話サイズ。
イーリスが使った一般的な送受信可能な通信機は、洗濯機くらいの大きさでサイズ的にも料金的にも個人が持ち運べる物ではないと考えてもらえれば!




