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破壊の魔王  作者: Karionette
外界編 第二章 外の世界
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13




宿はとてもこじんまりとしている。端からみたら普通の一軒家とあまり変わらない。よく見たら古ぼけた看板があるけども、それも廃れて字もよくわからないし、入っても受け付けもなければ店番もいない。

ゼロさんがここにきたときは二人分のお金だけ机に置いて、そのまま勝手に上がってしまった。それでいいのかと思うけど、何のルール説明もないんだから仕方ないとも思う。


小さな宿には階段があって、上った先に二部屋ある。そこの奥がわたしたちの部屋だ。

部屋からは何の音もしない。勇気を出して開けてみた。


気を付けてもギギギと音をたてる扉はゆっくり開き、上着を脱いで完全に無防備になったゼロさんがいた。いや、無防備ではないか。武器がないだけで、ゼロさんなら素手で大抵は対応できる。


ゼロさんはベッドの真ん中に寝ているんだけど、わたしの体はその隙間で十分だ。背中合わせになり、寝転ぶ。

何も触れていない背中は何故か緊張した。



「なんであんなもの受けた?」



背中から、声がする。



「めんどくせぇだけだろ」



めんどくさい。

人の命がかかってることを、ゼロさんは平気で面倒だという。危ないから、体がきついから。そんな安全のための理由じゃない。


この人は、やっぱりどこか……。


小さく、一呼吸。



「お金が必要なの」


「へぇ?」


「ゼロさん。わたしはアガドの二人を助けたい」


「無理だな」


「わたしだけだったらね。だから、お金がいるの」



お金がいる。二人を助けるためのお金が必要だ。

そのお金の使い方は、もう決まってる。



「ゼロさん。ゼロさんに仕事を頼むのに必要なお金を教えて」



少し振り向いたゼロさんの紫の目が光る。


目は冷たく、感情を写していない。その目は少し細くなった。ごろりと転がってこちらに向き直る。



「俺に直接頼みごとをするなら、馬鹿高い仲介料は差し引ける。それでも、お前の依頼内容なら金5000はくだらねぇ」



金5000。


正直高いのか低いのかよくわからない。通貨が金、銀、銅と分かれてるのは知ってるけど、依頼料としてはどうなんだろう?


わかることは町の人全員の命を助けるために出された金額よりもずっと高いこと。

当たり前だ。ゼロさんは闇の帝王なんだから。



「ゼロさん。わたしはなんとかお金を集める。そしたら、アガドに残した二人を助けてください」



わたしもあのおじいさんと変わらない。ゼロさんに面倒くさいことを()いている一人だ。


それでも構わない。二人を助けるために、ゼロさんを使うのだ。



「いやだ」



…………あれ?



「い、や、だ」


「えっ、と。そこをなんとか…」


「いやだ。めんどくせぇ」



わーっと。どうしよう。断られるのは想定外だった。


そうか。断られるんだ。


え。どうしよう…



「ゼロさんしかいないの」


「知るか。俺はメリットのないことはしねぇんだよ」


「お、お金なら………」


「さっき言ったのは俺への依頼料であって、払えば何でもやるわけじゃねぇよ。そんな貧しい奴に見えるか?」



うう。何でも先に言われちゃう。言葉が繋げない。



「………じゃあ、ゼロさん。ほしいものはなに?」


「ほしいもん?」


「うん。そのためなら、二人を助ける手伝いをしてもいいって、思えるくらいのもの」



言ってて呆れる。


地位とか言われたらどうする。自由とか言われたらどうする。

命とか、太陽とか、平穏とか…。わたしには用意できないものの方が多いのに。



「………じゃお前含むアガド組3人に要求しようか。それをのむなら、金が集まり次第受けてやる」



ゼロさんは寝転がったまま、冷たい目で見通す。口元はゆらりと笑い、緊張感が漂ってきた。


その後、ゼロさんの口から、


悲しくて辛くて痛くて、それでも理解ができる言葉が紡がれた。


そしてわたしは、ゼロさんに仕事を依頼することが決まった。依頼料も必要だけど受けるはずのなかったものを受けてくれるというのだから、わたしにとっては都合のいい条件だ。だからといって、わたしの心は晴れることはない。


あの言葉が忘れられない。耳に残って離れない。


眠るゼロさんの隣でわたしはずっとその言葉を、何度も思い返していた。



―俺がティナに呑まれる前に、人間のうちに殺せ―



ティナのことは知ってる。

体が強化されて、魔法が使えなくなって、人の何かを奪われて、人の形も奪われる。そして、いずれは理性を奪われることも。


軍人さんたちも言っていた。悪魔のティナは本来なら扱えるものじゃないって。宿した瞬間に狂うって。でも、ゼロさんはそうじゃなかったし、姿形すら変えないという離れ業までやってのけている。


それでも、いずれタイムリミットはくる。



「……呑まれる、か」



そう呼ぶのは知らなかった。


体が死んでいくのではなくて、精神が飲み込まれていく感覚。まるで自分が塗りつぶされるかのような感覚のことを。

わたしはその感覚を知らない。想像もできない。

でも、脱獄の時にみたケルベロスのティナ持ち。

あの様子を見て、ほんの少しは分かったつもりだ。


そのなかで、悪魔のティナという異常なものを宿したゼロさんに、常に何が降りかかっているのか…。



「……」



ゼロさんの強さが少しわかったような気がした。




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