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夏に空想、ただ君を描く  作者: 優衣羽
生きるとは、この世で一番稀なことだ。大抵の人は、ただ存在しているだけである。
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「私が知っている君はそういう人だよ」


「ねえ、よる」


 車道の信号機が黄色に変わる。集まってきた人混みの中、はぐれないように繋いだ手を確認していれば頭上から声が降ってくる。


「何?」


 君の後ろに太陽が昇っていたから眩しくてその表情が見えずしかめっ面をしてしまう。瞬きをして少し下を向けば緑色の残光が見えた。


「何でそんなに出来るって言いきれるの?」


 その問いに首を傾げてしまった。何故かと聞かれれば答えは一つしかないだろう。七年間君を見てきて君の人柄を知ったのだ。成長していく中で、声が低くなっても背が伸びても髭が生え始めても。そんなの微々たる事だと君に会う度に実感する。


 君は君だ。出会った頃から変わらず、純粋で素直で努力家で正義感が強く、時には馬鹿なんじゃないかと思うくらい愚直で優しい人だ。人想いで謙虚に見えて実は強かで、素敵な人である事を知っている。惹かれてしまうのは当然で、大切にされて浮かれてしまうのも無理はなかった。


 ああ、やっぱり好きだ。脳内で自分の声が君への想いを呟く。こんなにも素敵な人だというのに、自分に自信がない所も好きだ。不安がる表情を見ると助けたくなるくらい好きだ。その目に映るのは自分だけでいいと思うくらい好きだ。その背を押し出すのは、いつだって私でありたいと思うくらい好きだ。


 信号が青に変わった。歩き始めた人につられて足を動かそうとする君の手を引っ張り引き留める。私の名前を呼んで大丈夫?と顔を覗き込んだ。ああ、そういう所も好きだ。心配してくれる所も、言葉をくれる所も。


 だから、今私が君に伝えるべき事は一つだけだ。自分の想いでも世間一般の考えでもない。私が月代あおいの人格を知っているから言えるべき事だ。


「信じているから」


「え?」


 顔を覗き込んできた君と目が合う。私はこれでもかというくらい歯を見せて笑ってやった。君は驚いている。だって私がこんな風に笑うのは数少ないことだからだ。


「私は月代あおいっていう人を信じているから。どんなことも馬鹿みたいに努力して叶えてしまうって知ってるから。だから、出来るって分かるの」


 君の手を引っ張ってスクランブル交差点の中を歩き出す。そして交差点の真ん中で振り返った。


「私が知ってる月代あおいはそういう人だよ」


 人の動きがスローモーションのように見えた。繋いだ手だけが現実を教えてくれる。交差点のど真ん中で何をしていると言われるかもしれない。けれど今の私たちにはお互いしか見えなかった。


 視界の端に見えた信号が点滅しているのに気づき慌てて足を早める。君の手を引き走ろうとしたその時、君が私の隣を飛び出して走り始めた。勢いに引っ張られて私も走り出す。


「よる」


 走りながら君が口を開いた。視界にはもう、君しか映らなかった。


「僕よるが好きだよ」


「え…」


「絶対東京に来るから、それまで待ってて」


 信号が赤になると同時に、歩道に行くことが出来て安心したがそれ以上に先程の言葉が頭から離れなかった。君は駅に向かい歩き始める。ここは私の知っている土地だから私が先を歩くべきなのに君に引きずられている気分だった。

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