「たかが十五歳。されど十五歳」
どれだけ連絡しても、繋がっていたとしても、私たちの間には距離が存在している。同じ国にいるはずなのに、地域が違うだけで酷く遠く感じていた。出会ってから七年経っても私たちは中学生で、そう簡単にお互いの住んでいる場所を行き来することは出来ない。私たちが大人であったなら、簡単に相手の元に行けたのだろうがそうではないのが現実だ。だからこそ、何かしら理由をつけて連絡を取り、年に三回の再会を楽しみにしていたのだ。
しかし、それが毎日になったらどれだけ幸せだろうか。想像しただけで浮足立ってしまう。君の人生を左右するであろう選択に私が関わっているのが嬉しく感じた。けれど、それだけで決めてはいけない事も分かっている。ここでどれだけ話し合っても、結局は君と母親で話し合って決めることだ。私にはどうすることも出来ない。
「まあ、そう上手くいくとは思ってないけどね」
君の飲み物を見ればいつの間にか半分に減っていた。名刺を持ち指で弾きながら手遊びをしている。
「分かんないよ」
「何が?」
「上手くいくかいかないかなんて、誰にも分かんない」
厳しい世界だろう。世の中芸能人になりたい人間なんて腐るほどいる。そのほとんどが才能もなく運もなく、消え去っていくのも事実だ。君もそういう人間かもしれない。
けれど、私には君が消え去る未来が見えなかった。身内の贔屓目かもしれない。しかし、君がスポットライトを浴びるに値する人間であると思っていたのだ。
「でもあおいなら多分出来るんじゃないかなって思っちゃう」
「何で?」
「だってあおい結構泥臭く努力することが出来る人だから」
出会ってから七年。君が努力家なのを共に過ごしている時間の中で何度も目にした。不器用で誰かが簡単に出来る事も時間をかけなければ出来ない事を知っている。しかし、普通の人が諦めてしまうような事も君は諦めず努力し続け形を成してしまう。そしてその努力を苦痛にも思っていない。間近で見てきた君の才能だと思っていた。
「普通の人が諦めてしまう事もあおいは諦めないでしょ?それで形を成して普通の人を越しちゃう。努力家なのはあおいの才能だよ」
私にはない所だ。何かとすぐ諦めてしまう私にとって、その才能は喉から手が出るほど羨ましい物であったが、君が持つからこそ意味のある物だと分かっていた。
「あおいなら出来るよ」
君の目の中の私は今まで生きてきた中で一番真剣な表情を浮かべていた。
君の人生だ。選ぶのは君だし決めるのも君なのは分かっている。けれど、私は君が活躍する未来を信じているからこの言葉に嘘偽りはなかった。
君は私の手を取って大声で笑い始めた。周りの人たちの目線が一気に集中して思わず君の頭を叩く。それでも君が笑いを止める事はなかった。
「うるさい、迷惑!」
「ごめんごめん」
「何?そんなにおかしかった?」
「違うよ。よるの凄さに改めて気づいただけ」
君は名刺を財布にしまった。目に浮かべた涙を拭い天井を見て息を吐いた。
「よる凄いよね」
「全然。私なんてその辺にいる一般人だよ」
「そんなわけないよ。よるは僕をやる気にさせる天才だ」
飲み物に入っていた氷はいつの間にか溶けていてソーダを薄くさせた。指一本分ほど残っているが、ソーダの水割りになってしまった飲み物を口にする気はなかった。君も同じ気持ちだったのだろう。腕時計を見て時間を確認した後伝票を手に取った。立ち上がった君に続くように私も後を追う。会計時に支払おうと財布を手に取ったが君に止められ結局奢られてしまった。
「払えたよ」
カフェを出て直射日光が反射するビル街を歩く。先程よりも暑さを感じないのは飲み物が身体を冷やしたからだろう。
「いいよ。格好つけさせて」
君は楽しそうに私の手を取る。振り払う理由もなく、されるがままにその手に引かれた。先程君を置いて行ったスクランブル交差点が見えて繋いだ手に力が込められる。
「離さないよ、次は」
置いて行った時、少しだけ後悔したのだ。だから、次は離さない事を決めた。君がこの手を離すまで繋いだままでいようと思った。




