第83話 唐突に料理回
オレは、フラウとともにルイーズの屋敷の掃除をしていた。地下室が完成するまでの間物置代わりにしてしまっていたので、そのお礼とお詫びという訳だ。
「それにしても、埃が結構溜まっているな。これは冬以降掃除してないだろう」
「しっ仕方ありませんわ! あまりこっちで過ごしていませんもの!」
「でも、掃除のし甲斐があるよね!」
1人で住むには広すぎる屋敷を、3人で手分けしながら掃除をしていく。
「こっちは掃除していいのか? 寝室みたいだが」
「そこは私がやりますわ。フリード様は1階をお願いしますわ」
「任せておけ。顔が映るぐらいピカピカにしてやろう」
キッチンを覗くとここもまた埃まみれで、水場は少し錆び始めている。
久々の錬金術奥義・錆落としで金属はもとの輝きを取り戻す。埃もしっかりとふき取ってやった。
キッチンが終われば次は庭掃除だ。雑草をぐっぽぐっぽと抜き取り根絶やしにする。
他にも床掃除、窓ふき……結局、3人で1日かかってしまった。
*
「ふう、結構時間がかかったな」
「フリード様、お疲れ様ですわ」
「本当だよ。フリードさん、庭と1階を全部1人でやっちゃうんだもん」
「仕事の早さも天才に求められる要素の一つだからな」
また天才の片鱗を見せつけてしまったか。やれやれ、もはや才能を隠し切れないな。
「お兄様、お帰りなさい!」
「おう、ただいま。腹が減ったぞ、食事の準備はできているか?」
「はい、今日は私とロゼリカさんとエルデットさんで作りました!」
今日はエミリアは実家に帰っている。夕食は我々で作る必要があったわけだが、掃除をしていない3人に任せてみたところだ。
「……なんだか不安ですわね」
ルイーズが本人に聞こえない声でつぶやく。まあ、確かにオレの知る限り、ステラは食事を作った経験が無いはずだ。
「それで、今日の夕食は?」
「今日の料理は、お肉です!」
「何ともシンプルだな」
肉は大好物なので否が応でも期待が高まる。掃除組3人で着席し、食事が運ばれてくるのを待つことにした。
「お兄様、お待たせしました! 私の料理です!」
「うわあ、とっても不味そう」
ステラの持ってきたそれは、鳥肉を煮たものだろうか? 湯の中にゴロゴロと下処理されていない肉と野菜が浮いている。出汁を取ってる途中だけどそのまま料理を名乗ってみました、って感じだ。
「う〜、お兄様……!」
「ちょっとフリード様! 味見もせずに失礼ですわ!」
「その通りだな、料理は味が一番大切だ」
「僕、お腹空いてるし、早速一口頂きまーす!」
フラウが鳥肉にフォークをブスリと突き刺すと、そのまま口に運んだ。
「うっ!? な、生煮え……! そして、味が無い……」
フラウの顔は、肉をかみちぎったところで動かなくなった。残念ながら御臨終です。
「ステラ、料理の勉強もしような」
「ご、ごめんなさい……」
「ちょっとお待ちくださいな! きっとスープには良い出汁が出ていますわ!」
勇気ある挑戦者ルイーズがスプーンで少しだけ掬うと、それを口に運んだ。
「……!」
「ルイーズ? 言葉を失うほど美味いのか?」
「……ごめんなさい、ステラ。私の体は、このスープをこれ以上口に入れるのを拒否していますわ」
小さなスプーンの中のスープは全然減っていなかった。
「ステラ、明日養鶏家と農家の方々に謝りに行くぞ」
「うう、お兄様、ごめんなさい」
残念ながらこれは失敗作だ。次の成長に期待しよう。
「よし、じゃあ次は私の番だね! 私は魚料理だよ」
今度はロゼリカが料理を持ってきた。ステラよりも年上の15歳の女の子、しかも一人暮らし経験も長い。これは多少は期待できるか。
「これは、鯉……?」
「そう! 名付けて、『鯉の魔王風グリル』!」
自分のアイデンティティを生かした可愛らしい名前だが、見た目は決して悪くない。ハレミアは内陸国なので海が無く、国内では鯉はメジャーな食材だ。
シンプルに火が通してあるようだが、レモンが掛かっているようで香りも良い。
「じゃあ今度はオレが先に頂く」
「ちょっと、見た目がいいからってさっきと露骨に態度が違いますわよ!」
ルイーズを無視して、フォークで身を食べてみる。
「ほう、表面のレモン汁が魚肉に合っていてとても……不味い!」
「ええ!? 途中まで褒める雰囲気だったじゃん!」
ロゼリカに非難される。確かに一口目はレモンの力で美味く感じたが、噛むほどに感じる、否定できない臭み。
「ロゼリカ、泥抜きをちゃんとしたか?」
「泥抜き? 何、それ」
泥抜きを知らないだと? なんてことだ。
「どれどれ……全然臭くないじゃん!」
ロゼリカはオレの皿から魚のかけらを口に放り込む。本気で美味しいと思っているようだ。
「いや、確かにフリード様の言う通り、少し臭いが気になりますわね」
「本当だね、ちょっと泥臭い」
「そ、そんな……!」
ロゼリカはがっくりと項垂れる。可哀想に、ひどい環境で育ったせいで、味覚が麻痺してしまっているのか。
「だが料理自体は悪くない。素材さえ良ければというところだな」
「うん……次は頑張る!」
ロゼリカが気を取り直したところで、最後の人物の食事を待つとしよう。
これはある意味楽しみだ。見た目に反して中身はそこそこまともな痴女は、どんな料理を持ってくるのか。
「皆、待たせたな」
デットが料理を持ってくる。やはりこいつは一味違うな、裸エプロンで登場だ。
「ちょっと、エルデットさん! 流石にその恰好はまずいですわ!」
「……よく見ろ、元の布地が少ないから裸に見えるだけだ」
デットはその場で一周する。確かに言う通りなのだが、それは元の服装がおかしいだけだよな。
「そんなことより食事だ、早く頼む」
「ああ、私の自信作、しっかり見てくれ!」
デットは皿を机に置くと、上に被せてあったドーム型の蓋を取る。
「おお、これは……!」
「きゃああ!? ね、ネズミですわ!?」
「これはネズミじゃなくてカピバラだ。川に行けば簡単に取れるから、捕まえてきたんだ」
皿の上にはカピバラの丸焼きが置いてあった。当然丸焼きなのでしっかり顔もついていて、げっ歯類特有のチャーミングな歯が見えている。
何とも食欲をそそらないビジュアルだ。では、早速食べるとしよう。
「うーむ、これは美味い! スパイスがしっかり効いていて、全く臭みを感じない」
「じゃあ僕も。……うん、美味しいよ!」
「ほ、本当ですの……?」
ルイーズも恐る恐るといった感じで、少しだけ肉を切り分け、口に入れる。
「う……。悔しいですが、美味しいですわ」
「……なんで悔しがるんだ」
とにかく、こいつは当たりだな。見た目がアレだが味はまともなのも、デットのイメージに合っている。
「デットがいてくれてよかった。まともな食事にありつけないところだったぞ」
「これがまともかは賛否両論だと思いますわ」
危うい所だったが、何とか腹を満たすことができた。残念な食事を作った2人は恨めしそうに見ていたが、他に食べるものもないのでカピバラを食べ始めた。
「ふう、満腹だ。デット、コーヒーを頼む」
「……私はメイドじゃないぞ」
やれやれ、つれない奴だ。仕方なく、自分で淹れるために席を立つ。
「ついでに皿も洗うか。後に回すとめんどくさいしな」
「お兄様、私も手伝います!」
「じゃあ私も!」
残念な2人が名誉挽回とばかりに、皿洗いを手伝う。流石にこれぐらいは出来ないとな。
……だが、やはりこのギルドにはエミリアが必要だな。他の者は生活感が無さすぎる。
「ああ、お皿が割れちゃった!」
「うわあ、こっちも!」
……エミリア、早く帰ってきてオレを助けてくれ。
天を仰いで、そう願うのであった。




