第82話 飲む理由
ギルドホームの改築を始めてから約3か月。ついに、立派な地下室が完成した。
「ついにギルドホームの地下室、完成だ!」
「ありがとう、フリードさん! これでこの国でもいろいろな兵器が作れるよ!」
「ああ、驚異的な兵器で他ギルドにガンガン圧力をかけるとしよう」
「御主人様、とんでもないことを言ってますね……」
地下室は広々としており、既にフラウの工作機械が搬入されている。これで、ハーフドワーフの腕前が発揮できるな。
「くっくっく、そしてなんとオレの目的も達成したぞ! 見ろエミリア、これがワインセラーだ!」
地下室の一角には、小さな部屋も作ってもらった。地下のひんやりした空間を利用したここでワインを保管できる。
「良かったですね、御主人様!」
「ああ、今日はお祝いだな。早速ワインを飲むとしよう」
「いつも飲んでいる気がしますが……」
「ふっ、エミリアよ。酒を飲むのに理由は要らないが、理由があると酒が美味くなるのだよ」
「名言っぽく言われても……。そのうち体を壊しますよ」
心配するエミリアをよそに、今夜の食事のことを考えながら1階へと戻ることにした。
*
今日もみんなで夕食だ。オレの希望通り、ワインのボトルが用意してある。
「エミリアさん、美味しいです!」
「それは良かったです。どんどん食べてくださいね!」
賑やかな声をBGMにオレも食事とワインを味わう。
オレは食事をしながら今後のことを考える。今はギルドには計7人が集まっている。小規模だが、エミリア1人では食事の準備も大変だな。
それに、戦える奴も少ない。というか、うちはトリッキーというか、癖のある魔法使いばかりだ。もう少し戦闘要員も欲しいな。
……今後は、家事ができる者か、戦える者を募集したいところだ。
「お兄様!」
「ん? どうした、ステラ?」
妹の声で考え事を中断する。何か言いたいことがあるようだ。
「次はどこに行くのですか? 今度はついて行きたいです!」
「……ステラ、お前は学園に通うために王都に来たのだろう? 本業はどうなってる?」
「ちゃ、ちゃんと頑張ってます!」
「ほう? そういえば学園はどの科目でもテストが年数回あるはずだが、一度も見た覚えがないな。次のテスト結果をオレに見せてみろ。ダメだったらどこにも連れて行かない」
「そんな……!」
「ちなみにオレは100点満点しかとったことないぞ。天才だからな」
「ううう……」
ステラは唸り声をあげている。オレが優しい上に天才だからと言って、無条件で言う事を聞くと思わないことだ。
「テスト結果、楽しみにしているぞ」
オレはステラにプレッシャーを与えると食事を再開し、2本目のワインを開けることにした。
*
私は学園で、午後の講義を受けている。学園内でも難しいと評判の、物理学の講義だ。
今日は朝からドキドキだ。何て言ったって、テストが返ってくるのだから。
「ステラ・ヴァレリー!」
「は、はい!」
名前を呼ばれ、テストの答案が返却される。恐る恐る確認すると、92点。
……だ、大丈夫かな?
「お兄様、認めてくれるかな……」
92点は悪い数字ではないと思うけど、お兄様は失望するかも。そう考えると、あんまり喜べない。
手提げバッグに答案を仕舞うと、最後の講義だったので帰り支度を始める。
「ステラ、ちょっといいかしら?」
「あっ委員長。何か用事ですか?」
私に声をかけてきたのは委員長だった。同学年のまとめ役をしているためこう呼ばれている。私も入学してから何度も助けてもらっている。
「テストも終わったことだし、友達同士でパジャマパーティーしようってことになってるんだけど、ステラもどう?」
「パジャマパーティー?」
「そう、私の部屋に集まって、お話したり、お菓子を食べたり……。広いから、そのまま夜一緒に寝ることもできるわよ」
「へえ、面白そうです! 行ってもいいか相談してみますね!」
「今週末の予定だから、また明日返事を頂戴ね」
委員長は、そう言うとまた別の友達の所へ歩いて行った。何人かに声をかけてるみたいだ。
「ステラ、一緒に帰るです」
「……ルナちゃんはパジャマパーティーは行かない?」
「ルナは読みたい本があるです」
ルナちゃんに声をかけられ、雑談しながらギルドホームに帰る。
「また明日!」
「バイバイです」
帰り道の途中でルナちゃんとも別れると、少し小走りでホームに向かう。
お兄様、お願い聞いてくれるかな?
*
「お兄様、ただいま帰りました!」
玄関を開ける音と、ステラの元気良い声がホーム内に響いた。
パタパタと軽快な足音が聞こえ、座ってコーヒーを楽しんでいたオレの下へと寄ってくる。
「お兄様、これを見てください!」
「ついに答案が来たか。どれどれ、厳しく精査してやろう」
一枚の紙を隅々まで見る。点数は92点だが、間違えたところはちょっとした計算ミスのようで、概念は理解しているようだ。
「100点じゃないけど、どうですか……?」
ステラは上目遣いで、オレの判決を待っている。
「……しっかり頑張っているようだ。これは御褒美を上げないとな」
「お兄様!」
オレの答えに、ステラはぱあっと顔を輝かせる。
「あの、お兄様……。さっそくお願いがあるのですが」
「なんだ、何でも言って見ろ。金か? 食べ物か?」
「今週末、パジャマパーティーに行きたいです。友達に誘われて……」
「パジャマパーティーだと?」
ステラにパーティーを誘ってくれるほどの友達がいたとは嬉しい情報だが、パジャマパーティーとは一体……?
「エミリア、パジャマパーティーって知ってるか?」
「私もあんまりしたことはないですけど、女の子同士で夜更かししておしゃべりとかするんですよ」
コーヒーのお代わりを持ってきたエミリアに聞いてみる。どうやら男子禁制のイベントらしい、オレが知らないわけだ。
「ステラ、我が家の門限を言ってみろ」
「……19時です」
「その通りだ。夜遅くに13歳の女の子を家の外に行かせるなんて、パパは許しませんぞ」
「パパ……?」
オレは王都では親代わりなのだ。夜更かしなんて認められない、ここは厳しくさせていただこう。
「で、でも、何でも言ってみろって」
「何でもいう事を聞くとは言っていない。王都はクソみたいな大人しかいないんだ、危険すぎる」
「ううう……」
ステラは、助けを求めるようにちらっとエミリアの方を向く。エミリアは困った表情をしていたが、意を決してオレに物申してきた。
「えーと、御主人様? ステラちゃんも13歳ですし、友達もいるみたいですから、許可してあげてもいいのでは?」
「ママがそういうからステラがつけあがるのだ!」
「ママ!? 私、ママですか!?」
エミリアは困惑している。これは畳みかけるチャンスだ。
「わかったな、ステラ? 夜遊びは許さない」
「ちょっと、フリード様! またステラを虐めてますのね」
「……またってなんだ。言いがかりは止めてくれるか?」
ルイーズが参戦し、話がこじれてきた。
まったく、いつもはオレの味方なのに、ステラが絡むと皆ステラに付くから困るな。可愛いは正義という事か。
まあオレは多数決至上主義なので、そこまで言うなら自由にさせてやるか。
「お兄様……」
「仕方ないな。王都とはいえ夜に移動するのは危険だから、オレが送り迎えをする。それでいいか?」
「はい、ありがとうございます!」
ステラは嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねながら自室へ戻っていった。
「やれやれ、オレも甘いな。エミリア、コーヒーのお代わりを頼む」
「ママ……ママ……」
「エミリア?」
「はっ!? す、済みません、すぐに淹れます!」
エミリアは慌てたようにコーヒーを注ぐ。コーヒーは少しぬるくなってしまっていた。




