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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
冬休み編
62/198

第61話 ジェロ温泉へようこそ

「お、見えてきたぞ! あれが国内でも有数の観光地、ジェロ温泉か」

 馬車の外を覗きながらオレが発した言葉に、エミリアとロゼリカも馬車の窓に近寄る。


「結構大きいですね……!」

「すごい、ここからでも湯気が見えるよ!」

 目の前に広がるのは、火山のふもとにある大きな観光都市。王都ほどではないが建物が立ち並び、その都市の中央を流れる川からは、ロゼリカの言う通りかすかに湯気が見えている。


「借りてきた本によれば、地熱によって川全体が暖められて温泉になっているらしい。下流になるほど温度が下がっていくから自分の好きな温度を選べるらしいぞ」

「楽しみですね、御主人様!」

 オレもエミリアも馬車がたどり着くのを今か今かと待っている。だが、ロゼリカは何故か困ったような顔をしている。


「私、大丈夫かな……? 温泉ってことは、服を脱ぐんだよね? 角とか羽とか生えてるし……」

 今はエミリアがつけてくれたリボンで角をカモフラージュしているが、温泉だと外す必要はあるだろう。だが、そこは既に解決策を準備している。


「安心しろ、ロゼリカ。今回は貸し切りだ。貴族や金持ち用に、川の支流を引き込んだ個人宿がある」

「ほ、本当……!?」

「くっくっく、この天才の先見の明に震えるが良い」

「フリード……! はーっはっは! 流石は我が眷属、見事な働きだ!」

「二人とも、テンション高いですね……」

 オレの言葉にロゼリカは安心したようだ。気遣いが照れ臭かったのか、魔王が出てしまっている。

 再び窓を覗き、目的地が近づいてくるのを楽しそうに眺め始めた。


*


「うーむ、温泉の匂いって感じだな」

 馬車に乗っているときから感じてはいたが、一歩外に出ると硫黄の匂いが鼻につく。


 やはり冬は温まりたい人が多いようで、観光客らしき人がたくさん歩いていた。貸し切りとは言ったものの、ちゃんと部屋に空きがあるか心配になってきた。

 ひとまず街を散策しつつ、貸し切り宿が立ち並ぶ通りを目指す。大通りは中心に水路の様に温泉の川が流れており、そのせいかあまり寒く感じない。


「む、温泉プリン? あっちは温泉キャラメルだと……?」

「御主人様、相変わらず食べ物の事ばかりですね」

 温泉で体を癒すのも大事だが、やはり食事も美味くなくてはいけない。そういう意味でもここは期待できそうだ。人気の観光都市なだけはあるな。


「よし、この辺が貸し切り専門のはずだ。適当に入ってみよう」

 目ぼしい宿の一つに入り込み、空きを確認する。貸し切りもそれなりに人気のようで最初の数軒は入れなかったが、ついに開いている宿を見つけた。


「約5名用のファミリー向けの部屋でもよろしいですか?」

「ご、御主人様、ファミリーですって……」

「ああ、構わない。よろしく頼む」

 部屋に案内され、個室に足を踏み入れる。広々とした部屋にベッドが並び、簡素だが広くゆったりとした部屋だ。


「おお、見ろ! 洞窟風の温泉か」

 温泉も確認してみると、ドーム状に岩を切り開いた場所に湯を引き込んでいるようだ。青い灯の蝋燭が洞窟内を神秘的な光で包んでいる。


「でもフリード、温泉が一つしかないよ」

「そうだな……順番に入るか。オレは最後でもいいぞ」

「いえ、御主人様が先に入るべきです」


 まあ順番はどうでもいいところだ。とりあえずオレが先に入ることに決めたが、まだ時間は昼過ぎだ。街の散策に行きつつ、夕食の為に良さげなお店もピックアップしておこう。

 オレは二人を誘って、再度街へと歩き出すことにした。


「この辺の食事って何が有名なんだろ?」

「何とここは、温泉の熱を利用した植物栽培用の温室があるのだ。当然規模は小さいが、金さえ出せばどんな季節でもいろんなものが食べられる。それも人気の秘訣だな」

「でもせっかくですし、ここでしか食べられない物が食べたいですね」

 話しながらも周りを見ながら歩くと、街の大通りまで戻ってきた。


「きゃあーっ!」

「……! 御主人様、悲鳴です!」

 少し離れたところから、女性の叫び声が聞こえてきた。走ってその場に向かうと、チンピラのような男3人組が、女性の腕をつかみ引っ張っていた。


「ちょっと遊ぶだけだ、いいからついて来いよ」

「だ、誰かっ! 助けてください!」

「へっへっへ、この街でオレたち『フコイ団』に逆らう奴なんていねぇよ!」

 やれやれ、どの街にも馬鹿な奴らはいるものだ。オレは助けるために、前に歩み出る。


「何だ、てめぇは?」

 馬鹿共はご挨拶もワンパターンだ。何度聞いたかわからない質問に答えてやる。


「馬鹿に名前を教えても記憶できんだろう」

「なっ! てめえ馬鹿にしやがって!」

 男の一人は鼻から大きく息を吸うと、鼻からフンッと息を出す。すると、その鼻の穴からは空気ではなく、2つの火球が飛んできた。


「はっはー! オレ様の『鼻炎』で丸焦げになっちまいな!」

 なんとも嫌なビジュアルだ。オレは手を鉄でカバーし、腕を振るって火球を叩き落とす。熱が苦手だからといって、松明レベルの火に怯えるほどではない。


「何っ!」

 オレは男に接近し、そのまま鉄で覆った手で殴り飛ばす。


「ぐはっ!」

「……ん?」

「へっ、捕まえたぜ! どうだオレの『のびーるアーム』は!」

 いつの間にかもう一人の男が右腕をびよーんと伸ばし、オレの腕に絡みつくようにして動きを制限してくる。


「よーしそのまま抑えとけ! オレの『剛腕』は常人の1.28倍の腕力を持つ。殴り殺してやるぜぇぇぇ!」

 残りの一人が腕を振りかぶって襲い掛かってくる。


「ああ! 御主人様が1.28倍のパンチで殴られてしまいます!」

「どうしよう、1.28倍で殴られたら流石のフリードでも顔の形が変わっちゃうよ!」

 エミリアたちの心配する声が耳に届く。


 オレはまず腕に絡みついたものを外すことにした。空いている手に鉄のナイフを生み出すと、絡まる腕にそのナイフを突き立てる。


「いってぇ!」

 腕長男が痛みから手を離したすきに、1.28倍の男の拳をかわしカウンターで顔面に鉄拳をぶち込む。


「ぐっほお!」

「げぇ、こいつは強い! 逃げろっ!」

 腕長男は気絶した二人を伸ばした腕で掴むと、引きずりながら逃げていった。


「流石っ!」

「御無事でよかったです!」

「やれやれ、顔の形が変わらなくて良かった」

 雑魚どもをあっさりと追い払ったオレの下に2人が寄ってくる。


「あの……ありがとうございます! 宜しければ、お名前を……」

「大したことはしていない。名を名乗るほどでもないな」

 男たちに絡まれていた女性がお礼を言う。名前を聞かれるが、一応こちらは謹慎の身だ。暴れたのがばれたら立場も悪くなるだろうし、さっさと去るとしよう。


「……こんなところでも悪い者はいるのですね」

「『フコイ団』とか言ってたな。人の分母が多いと変な奴も多くなるんだろう」

 気を取り直して、再び店を探すことにした。


*


 街をゆっくりと一周したオレたちは、夕食の場所として1つのレストランを選んだ。看板メニューの中に興味を惹かれるものがあったためだ。

 案内されたテーブルで、注文したものが来るのを今か今かと待ち続ける。


「お、ウェイトレスが皿を持ってきたぞ! ……くそっ、あっちの席の料理だったか」

「フリード、子供みたいだよ」

「お前だって店の前でメニューを見た時、『んまそーっ!』って言ってただろ」

「そ、そんなバカみたいな言い方じゃなかったし!」

 オレとロゼリカのやり取りを見て、エミリアは楽しそうに微笑んでいる。

 そしてついにオレたちの席に食事が運ばれてきた。


「お待たせしました、サボテンステーキ3人前です」

 ウェイトレスが鉄の皿にのせられた料理をそれぞれの目の前に置いていく。じゅうじゅうと食欲をそそる音をたてるこれこそが、ここの看板メニューのサボテンステーキだ。


「すごい、大きいです! 顔ぐらいの大きさはありそうです!」

「これは想像以上だな……!」

 エミリアの言う通り、とても大きい緑色の物体が皿を覆っている。その上には、赤ワインと玉ねぎで作られているらしいソースがかけられており香ばしい匂いを放っている。


「よし、食べてみよう」

 ごくりと喉を鳴らし、手に持ったナイフをステーキに当てると、ほとんど力を入れずに切り分けられる。やや大きめに切り分けられたそれを口に運ぶ。


「う、美味い!」

「凄い肉厚!」

 何という美味さだ。肉厚なサボテンは植物とは思えないボリュームだ。味はやや酸味を感じるが青臭さはまったくない。ヘルシーステーキといったところか。


「今まで食べたことのない味ですね」

「まさかこんな珍しいものが食えるとはな」

 肉ではないステーキをガンガン口に運ぶ。オレの皿の食事はあっという間になくなってしまった。


「……今度からダイエットの時はこれを食べることにしよう」

「沢山食べたら一緒ですよ」

 ステーキは食べ終わったがまだ別の料理がある。3人が食べ終わったころにそれは運ばれてきた。


「お待たせしました、サボテンアイスです」

 もう一つの看板メニュー、サボテンの身を使ったアイスらしい。小さな器に真っ赤なアイスが入っている。早速スプーンで口に運んでいく。


「甘酸っぱくて、少しねっとりしてるな」

「こっちも美味しいね」

 やや甘さ控えめで、お口直しに最適だ。それもすぐにぺろりと食べきってしまう。


「ふう、満足だ」

「御主人様、食べるのが早すぎです……」

 食事は一瞬で終わってしまった。楽しい時間は何故すぐに過ぎてしまうのか。


 いつのまにか一日が駆け足で過ぎていった。



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