第59話 冬休みの始まり
「おはようございますフリードさん! 今日も精が出ますね」
「はっはっは、街がきれいになるのは良いことだ。精だって出るさ」
オレが奉仕活動を始めて1週間。毎日6時間ばかりの活動のおかげで今日が最終日だ。
他のメンバーも奉仕をしたおかげで街路樹はすっかりきれいになった。やることが無くなったので最近は箒で大通りの周辺を掃いている。
オレの活動は周囲にも知られ、ご近所さんに挨拶されるまでになった。
「フリードさん、おはようございます!」
「おう、気を付けて学園に行くんだぞ」
「はーい!」
登校中と思われるガキンチョ共にも認知され始めている。まったく、人気者は辛いな。
「御主人様、近所のおじさんって感じですね」
「……お兄さんなのだが?」
休憩をしつつ掃除を続け、夕方にやっと40時間のノルマを達成できた。
「よし、オレの仕事は終了だ。さっさと報告に行ってくる」
「御主人様、私は夕食の準備をしておきますね」
「よろしく頼む」
オレは報告の為に王城へ駆け出した。
*
「本日のご用は?」
「奉仕活動を終えたので報告がしたい」
「わかりました。ではこちらへ」
城の入り口を固める兵士に声をかけると、城内を案内され小さな部屋に入るように指示される。
中に入ると、真面目そうな女性が椅子に座っている。
この女性は触れている相手が嘘をついているかどうかを知ることができる魔法『嘘発見器』の持ち主、リセリルだ。
ギルドには所属していない、いわゆる公務員というやつだな。国内には彼女の様な魔法使いもたくさんいる。
「ではフリードさん、質問をしますね。貴方は40時間の奉仕活動を終了しましたか?」
「イエス、マム」
「……嘘はついていないようですね。ではこれで終了です。お疲れさまでした」
「ああ、ありがとう」
あっさりと手続きが終わり、ものの数分で帰宅することにした。
「む、第一王子か」
正門を通ろうとしたら、偶然第一王子ヘンリックの一団が見えた。従者を伴い、どこかから帰ってきたところのようだ。
敬意を払い、頭を下げて通り過ぎるのを待つ。
第1ギルド『王家の盾』ギルドマスターであるセシリアの兄に当たる存在。だが魔法には恵まれず、小指の握力が強い『小さな巨人』という毒にも薬にもならないものを持っているらしい。
たとえ家柄が良くても、魔法が優れているとは限らないのが怖いところだ。セシリアの様に魔法と家柄を兼ね備えているのは奇跡のような存在なのだ。
王子は実の妹が国内最強だと言われていることをどう思っているのだろうな?
王子が完全に過ぎ去ったのを確認してから、ギルドホームへ再び歩き出した。
*
「お兄様、おかえりなさい!」
「おお、もう学園から帰ってきていたのか」
ホームの玄関を開けると、オレにとっての最強の妹が胸に飛び込んでくる。
ギルドホームは玄関まで美味しそうな匂いが漂っている。エミリアが夕食の準備をしているのだろう。
キッチンを覗くと、予想通り一生懸命食事の準備をしている。
「御主人様、お帰りなさいませ」
「良い匂いだな。オレの予想では、豚肉と見た」
「惜しいです! 今日は猪の肉ですよ。市場に行ったらたまたま見つけたんです」
猪とは、テンションが上がるな。なぜ人は肉を愛するのか? その謎の答えはこれからの長い人生で探すとしよう。
オレは椅子に座り、テーブルの前で待機状態を維持する。すると対面の席にステラが座る。
最近は食事が用意されるまでの間に、妹の話を聞いてやるのがライフスタイルになっているな。
相変わらず毎日楽しそうなステラの話を聞きながら、夕食を待つのであった。
*
「ふう、今日も美味かった。猪もなかなか悪くないもんだな」
「お口に合ったみたいで良かったです!」
エミリアは皿の片づけを始めている。毎日やることが多くて大変そうだな。
「フリード様、今日のデザートは私が用意しましたのよ!」
お嬢様が胸に手を当て自己申告してくる。
どうやら今日のプリンはルイーズ製だったらしい。デザートがあるなんて珍しいと思ったがそういう事か。
「なるほど、通りで愛情がたっぷり入って美味いわけだ」
「そ、そんなもの入れていませんわ!」
適当なことを言うと顔を真っ赤にする。ステラが来て少しはお姉ちゃんっぽくなったかと思ったが、まだまだだな。
ルイーズをからかうというデイリークエストも消化したところで、オレは皆に声をかける。
「皆、奉仕活動を手伝ってくれてありがとう。無事奉仕時間も終了したが、ギルドの活動停止期間はまだ3週間ほどある。ちょっと早いが今年の仕事は終了で冬休みとしよう」
「3週間後はもう新年ですね」
「ああ、来年からまた頑張ろう。という事で、解散!」
なんとなく解散を口にしてみたが、ここがホームなので誰も移動しなかった。
「ここにいてもいいの?」
「もちろん。だがオレはちょっとやりたいことがあるから、留守にする可能性もある」
オレは机の上に『錬金術』で鍵を作り出す。このギルドホームの合鍵だ。
「これを配っておこう。誰でもいつでもホームに帰ってこれるようにな」
「……」
突然休みといわれても困るのか、反応が薄い。
だがとりあえず言いたいことは言ったので、自室に戻ることにする。
部屋に入ると、奉仕の疲れのせいか、すぐに眠くなってしまった。
*
「お兄様、私は冬休み中は一度実家に帰ろうと思います」
翌朝、コーヒーを味わっていると、ステラが話しかけてきた。
「ああ、気をつけて帰れよ」
「あ、あの、お兄様は帰らないのですか?」
「男は何も成し遂げていないのに実家に帰ることはできないのだ」
「そう……ですか」
オレの返事にステラは露骨にしょんぼりする。まったく仕方ない奴だ。
「ステラ、ちょっと買い物に行こう」
「え? は、はい」
カップに残ったコーヒーを一気飲みすると、ステラを連れてギルドホームを出る。
「お兄様、どこに行くんですか?」
「花屋だ」
「花屋?」
オレは通りを歩くと、一軒のお店に入る。ギルドホームから一番近い花屋だ。
中に入るとキョロキョロと花を探す。
「うーむ、やはり冬だから種類が少ないな」
「お兄様、何故急に花を?」
「お土産を持たせてやろうと思ってな」
とりあえず、今買える奴で一番派手な花を探す。
「おっ、珍しい花がある。お嬢さん、この花は何という?」
「これはセプテットカメリアという、花弁が通常の何倍にもなる椿です」
オレが見つけた花は、花弁が沢山ついてポンポンのように丸くなった、コブシ大のピンクの花だ。
色は地味だがサイズ感、派手さもちょうどいいので、これを何本か購入する。
「よし、帰るぞ」
「お兄様、もう少しいろいろ……」
「男の買い物に眺めるという行為は存在しないのだ」
店に入って数分で用事を済まし、再びギルドホームへ帰宅する。
ホームに入ると、机の上に花を一つずつバラバラに置く。
「よし、これが一番美しいな」
花の一つを手に取り、錬金術で金メッキを施す。以前魔法市で販売した『枯れない花』だ。
次にきれいな奴には銀メッキを施し、更にもう一つの花に銅メッキを施す。
一瞬で金銀銅の3種類の花が完成した。
「わあ、きれいです……!」
「これをあの頭のおかしい両親に持って帰れ。お兄様は元気ですってな」
「わ、わかりました」
自分にしか作れないものを持って帰れば無事が伝わるだろう。今はそれだけで十分だ。
「ここから実家方面に向かう馬車は二日後に出るはずだ。しっかり準備して、気を付けて帰るんだぞ」
「はい、お兄様……」
声をかけると、1人で帰ることを思い出したのかまたしょんぼりとする。
オレは余った小さめの花に金メッキを施す。さらに留め金を作ると、ステラの服の胸部分につけてやった。
「そうしょぼしょぼするな、オレの妹なら我慢するんだ。このお守りをつけていくといい」
「はい……ありがとうございます」
ステラを撫でてやると、素直に返事をした。




