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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
沼地に住む魔王編
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第50話 魔王様の旅立ち

 村に到着すると、いくつもの潰れた家、逃げ惑う人々、そして、村を荒らしまわる巨大なワニがいた。

 ……でかすぎる! 家1つは丸のみできそうな大きさだ。


「た、助けてくれぇぇ!」

「おい、これはどういう状況だ!」

 逃げる村人に声をかける。


「知らないよ! オレたちはただ、商人から買い取った牛で丸焼きパーティーをしてただけなんだ!」

 ……このタイミングでなんてことをしてくれる。そりゃあカラスと牛なら牛を選ぶよな、ワニも。


「くそ、止めるぞ! 戦えない者は村人の避難と救出の手伝いを頼む!」

「わかりました! 御主人様、お気をつけて!」

 エミリア、ルイーズ、ステラの3人はその場を後にする。

 ワニ相手では、ルイーズの魔法は使えない。デットの弓矢も通用するかわからんな。


「私も戦う! くらえっ、『ダーク★フォース』!」

 ロゼリカは戦う意思を見せ、攻撃を放つ。黒い球がワニへ向かっていく。


「ならばオレも! 『シルバー★チェイン』!」

「……なんだそのダサい名前」

 オレの生み出した銀の鎖はワニを襲うが、固い皮膚に弾かれてしまう。デットも弓矢を放ったが、ノーダメージに終わってしまった。

 ちなみに『ダーク★フォース』はまだワニに届いていない。


「決定力不足だな、皮膚が固すぎて魔法が効いていない」

「どうするんだ、フリード?」

 オレたちが悩んでいると、ワニはこちらを標的に定めたのか、体を振り回し、しっぽ攻撃を行う。


「危ない!」

 鉄の壁を生み出して勢いを殺しつつ、デットとロゼリカを引っ張る。


「きゃあっ!」

「痛っ……!」

 直撃は免れたが、圧倒的なパワーで鉄の壁ごと叩きつけられる。


「くそ、悩んでいる時間はないな……」

 このままではジリ貧だ。


「お、おい! あれ、魔王じゃないか!?」

「本当だ! 何でここに!」

「あ……」

 戦っていることに気付いた村人がこちらの姿を確認したのだろう。ロゼリカの姿を見て驚愕している。


「くそっオレたちの村を襲うなんて!」

「オレたちに何の恨みがあるって言うんだ! この悪魔め!」

「あああ……!」

 ワニが魔王の使い魔だと信じている村人たちは、口々にロゼリカを非難する。ロゼリカは目をつぶり、頭を押さえてうずくまってしまった。


「おい、そんなことしている場合ではないぞ!」

「フリード、危ない!」

 ワニは再び攻撃を仕掛けてくる。大きな口を開け、丸飲みにするつもりだ。


「グァァァ!」

「な!? 何が起こった……?」

 突然ワニが、苦しみ始めたが、オレはその理由を見逃さなかった。ゆっくりと進むロゼリカの『ダーク★フォース』がたまたまワニの大きく空けた口の中に命中したのだ。


「デット、口の中はそこまで防御力があるわけでは無いようだ」

「だが、あの巨体の顎を避けながら口内を攻撃するつもりか?」

「いや、避ける必要はない。ロゼリカ、協力してくれ」

「……え?」


 ワニが再び、こちらを攻撃しようと口を開けている。

 オレはロゼリカを抱きかかえると、足元にばねを生み出し、その力で大きな口の中へ飛び込んでいった。


「きゃああぁぁ!?」

「おい、フリード!?」


*


「ここが、ワニの胃の中か……」

「うう、暗くて怖いよ……。なんか臭いし……」

 オレとロゼリカは、ワニの体内に入っていた。胃液で溶かされないよう、錬金術奥義・金の玉に入り体を守りながらここまで到着した。

 ワニの動きに合わせて胃液がちゃぷちゃぷと動く。


「よし、ロゼリカ、勝負は一瞬だ。オレが金の槍を大量に生み出しこの内臓を突き破る。お前も魔法を使え。そのあとオレの言う通りに行動するんだ」

 オレはロゼリカに作戦を耳打ちする。


「ええ!? でも、そんなこと……」

「これは必要なことだ、しっかり頼んだぞ。じゃあカウントダウンだ。3、2、……」

「ちょ、早い!」

「1、0!」

オレは全方位に最大出力で槍を生み出す。皮膚と違い内臓は容易く魔法で貫くことができた。ロゼリカも慌てて周囲に漆黒の玉を放つ。


「うお、揺れる!」

「きゃあ!」

 ワニが暴れ始めたようで、胃の中も大きく揺れる。だが、オレは魔法の出力を止めず、視界全てが金で覆われるほどに槍を生み出し続けた。


「そろそろ良いだろう。もう一度金の玉に隠れるぞ」

 ロゼリカを抱きかかえ、再び周囲を金で覆う。かなり長い間ワニは暴れ続けたが、やがて全く動かなくなった。


*


「御主人様、大丈夫でしょうか……」

 エミリアたちは、さっきまで暴れていたワニの周囲に遠巻きに集まっていた。村人も全員集合している。

 ワニはフリード達が入って数分後、突然苦しみだし、やがて動かなくなった。


「フリードは自分から入っていったし、作戦が成功したと信じたいが……」

「お兄様……」


 もうワニは死んだものと思い、村人たちがじわじわと近づいていく。

 だが突然、ワニの口ががばっと大きく開く。


「うわああ!?」

 村人の悲鳴が聞こえ、ばっと後ろに飛び退く。腰を抜かしてその場にへたり込む者もいた。


「ふははははっ、愚かな村人どもよ! こんな醜いワニごときが我の使い魔だと? こんな弱いものを使役して村を襲う訳がないであろう! 見ておられぬから我が代わりに成敗してやったわ!」

「ろ、ロゼリカさん……!?」

 開いたワニの口の真ん中では、ロゼリカがポーズをとっていた。まるで本物の魔王の様に、堂々と高笑いする。


「魔王!? オレたちを助けたというのか!?」

「馬鹿な、そんなことをするはずがない!」

 村人たちは信じられないといった様子で口々に騒ぎ立てる。


「ふん、哀れだな。我が人間ごときをわざわざ襲う訳がなかろう。我は魔の王、すなわちすべての魔法使いの頂点に立ち、導く存在なのだ!」


 ロゼリカが決め台詞を言い、指をパチンとならす。すると、ワニの口の中から黄金の杖がロゼリカの近くに飛んでくる。

 彼女は杖を手にし、天高く持ち上げた。それはまさに皆を導くかのような、立派な姿だった。


「う、うおおおぉぉ!」

「オレたちは間違っていた! 魔王、いや、魔王様は我らの英雄だ!」

「魔王様! 魔王様! 魔王様!」

 村人たちはロゼリカの周囲に群がり、こぶしを突き上げ魔王の名を呼ぶ。


「な、なんですの、これ……?」

「これはきっと、御主人様のアイデアです!」

 村人の咆哮はまだまだ続く。


「魔王様! 魔王様! 魔王様!」

「ふははははっ、ようし、我はそろそろこの辺で……」

「魔王様! 魔王様! 魔王様!」

「お、おい、そろそろどいてくれ!」

「魔王様! 魔王様! 魔王様!」

「だ、誰か助けて〜っ!」

 村人の咆哮は、結局朝日が出るまで続いたのであった。


*


「ふあぁー、眠いな……」

 オレは結局、ワニの中から出るに出られず、死体の中で一晩過ごす羽目になってしまった。


「御主人様、その、とても言いにくいのですが、匂いが……」

「……!」

 泥に腕を突っ込み、カラスをさばき、ワニの死体の中で一晩過ごしたオレの体は大変なことになっていたようだ。なぜオレがこんな目に。胸にじんわりと悲しみが広がる。


「いいんだ、別に……。でも、迷惑かけないように徒歩で王都に帰ることにする……」

「お、お兄様! ぜんぜん臭くないです! むしろいい匂いです!」

 ……気を使っているのだろうが、涙目で言っても誰も信じないぞ。


 匂いに耐えながら待っていると、王都行の馬車がやってきた。


「よし、乗り込むか。……オレは馬車の後ろに乗ることにする」

「御主人様、ロゼリカ様はどうするのですか?」

「……本人次第だな」

 オレは村の方をちらりと見る。視線の先には、村人に囲まれたロゼリカが映る。


 昨晩、オレはロゼリカに策を授け、ワニを倒した英雄として振舞うように指示をした。

 そのおかげで、彼女は村八分から一転、村の人気者だ。今後は沼地の中一人で過ごす必要もなくなった。


「皆さん、そろそろ出発します!」

 馬車を操る御者が声をかけてくる。……この分じゃ彼女はついてこないな。

 そう思ったが、彼女は村人の囲みを抜けると、こちらへ走ってきた。


「皆の者、我も、いや、私もつれて行って!」

「……いいのか? ここに残ってもいいように策を与えたんだぞ」

「たとえ慕われていても、もう魔王のふりを続けるのは辛いから……私も、私のままで居られる場所にいたいの!」

「そうか……」

 確かに彼女の言う通りだ。嘘をつき続けなければならない場所なんて、大した解決になっていない。オレとしたことが、情けないミスをしたものだ。


「ふっ、いいだろう。我がギルド『ミスリルの坩堝(るつぼ)』が居場所を与えてやろう」

「うん、よろしくお願いします!」

 ロゼリカが馬車に飛び乗ると、馬車が動き出した。


「魔王様ー! 今まで、済みませんでしたーっ!」

「いつでも帰ってきていいように、村人一同ずっとお待ちしています!」

「魔王様! いや、私たちの勇者様、バンザーイ!」

 馬車の後ろから声が聞こえる。全く、彼らの掌返しは芸術の域に達するな。


「ロゼリカ様、これからよろしくお願いします」

「はい、皆さん、よろしくお願いします!」

 馬車の中では、ロゼリカと他の者たちが改めてあいさつを交わしている。


「……やれやれ、すぐに仲良しだな、みんな」


 馬車の中から聞こえる声に耳を傾けながら、オレは王都に帰るまで馬車の後ろに張り付き続けた。


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