第45話 お兄様がみてる
ついに明日から、ステラの学園生活が始まる。
オレとステラは、学園に行くための準備をしていた。
「いいかステラ、『詰まらないものですが』といいながら同級生たちにこの金貨を配るんだ。これが王都で生きていくための処世術だ」
「は、はい、お兄様……!」
オレは『錬金術』で金貨を生み出し、ジャラジャラと机に広げる。
「ちょっと御主人様、ステラちゃんを騙さないでください! それに金貨は作らないんじゃなかったのですか!」
「これは厳密には金貨じゃない。王家の紋章の代わりにオレの顔が描かれた『フリードコイン』だ。黄金としての価値はあるが、お金ではない」
オレはエミリアにコインを見せる。
「こんなもの要りません! ステラちゃんも簡単に騙されてはだめです。良いですか、友人を作るなら素直にありのままの自分を見せることが大事です。嘘で塗り固めても、めっきはすぐに剥がれてしまいますよ」
「わ、わかりました、エミリアさん」
どうやら保護者としてはエミリアの方が上手のようだ。オレは涙目で”こんなもの”を体に戻す。
「ステラ、一つだけ学園のシステムを教えておくぞ。授業は選択式で、魔法と直接関係ない授業の方が多い。自分がやりたいことを考え、何を学ぶかを選ぶんだ」
「わかりました!」
生徒は自分の魔法を将来どう活かすのか自分で考え、将来に役に立ちそうな知識を選んで学ばなければならない。
オレは自身の『錬金術』を生かすために、材料力学や機械構造を中心に幅広く学んでいる。エミリアも医学の基礎知識を勉強をしていた。
「お兄様、なんだかもうドキドキしてきました……」
ステラは初めての学園生活に興奮しているようだ。……この分だと夜は眠れなさそうだ。
「ステラちゃん、気分を落ち着けるハーブティーを淹れました。気持ちはわかりますが、しっかり睡眠をとらないとだめですよ」
エミリアはテーブルの上にカップを置く。
「はい、ありがとうございます、エミリアさん!」
素直なステラの返事にエミリアはにっこりとほほ笑む。
……完全にオレの出る幕はなさそうだな。
*
翌日、学園の初日。
「は、初めまして、ステラ・ヴァレリーと申します。これからよろしくお願いします」
ステラは教壇の横に立ち、自己紹介をする。表情には少し緊張が見える。
名乗りが終わると、他の生徒たちから拍手が聞こえてきた。
「皆さん、ステラさんにいろいろ教えてあげてくださいね。では、あそこの席がステラさんの席になります。授業はいつも通りなので、わからないことがあれば素直に周囲に聞くように」
「はっ、はい!」
教師が後ろの方に開いた席を指し示す。ステラはそこへ行き、着席する。
教師が部屋を出ると、生徒たちも自分の授業を受けるために、部屋を出始めていた。
ステラがキョロキョロしていると、他の生徒が話しかけてくれる。
「ステラちゃん、どんな授業を受けるか決まってる?」
「私はこれから数学なの。もし決まってなかったら一緒にどう?」
「物理はどう? 先生の教え方が面白くてわかりやすいわよ!」
「あ、えっと……」
質問攻めにあいステラは狼狽える。
「皆、一斉に質問するから困ってるです!」
「ルナちゃん……。そうだね、ごめん、ステラちゃん」
「いえ、話しかけてくれてありがとうございます。……私、今日は物理の授業にします」
ルナと呼ばれた少女の一言で、周囲は質問攻めを止めて考える時間を取ってくれた。
生徒に連れられて、物理の教室へ向かう。ルナも同じ授業を受けるようで少し後ろをついてくる。
「えっと、ルナさん。助けてくれてありがとうございます」
「別にいいです。……ヴァレリーって、もしかしてフリードと関係あるです?」
「あ! フリードは私の兄です。もしかして、お兄様のことを知っているんですか?」
「……知らないです、あんな奴!」
「えぇ……?」
*
「ふん、ステラの奴、もう友達ができているじゃないか」
オレは学園を囲む塀の上に立ち、望遠鏡で学園の様子を覗いていた。
望遠鏡には他の生徒と並んで歩くステラが見える。
「御主人様、流石に覗きはまずいですよ!」
「オレはOBだからセーフだろう」
「セーフじゃないです! 満足したなら早く帰りましょう」
「もうちょっとだけだ……」
オレはステラの晴れ姿をじっくりと目に焼き付ける。
「お前たち、そこで何をやっている!」
オレたちのもとに衛兵が近づいてきて話しかけてきた。
「安心したまえ、学園に怪しい奴がいないか見張っているところだ。オレのおかげで学園は平和のようだぞ」
「怪しい奴はお前だ! はやくそこから降りなさい!」
オレは衛兵に服を引っ張られる。
*
「まさかこの歳でお説教されるとはな」
「もう、御主人様……。本当に恥ずかしかったです」
オレたちは、一旦帰って望遠鏡を置いたあと、次の目的の為に王都を歩いていた。
「この前の少年の依頼とは何だろうな?」
ついてきていたデットが話しかけてくる。目的はこの前デットと共に会った『ブランディーニ総合病院』の医者、ロバート・ブランディーニだ。
「恐らく医療道具を作って欲しいという依頼だと思うが……」
話していると、大きな病院に到着した。
*
「やあやあフリード君、よく来てくれたね! ささ、座って座って」
中に入ったオレたちは、来客用の部屋に案内され、ソファーに腰掛ける。
とても柔らかいソファーだ。それにテーブルは黒檀か? 稼ぎは国内ギルド随一と噂されるだけあって、家具の一つとってもオレたちとは比べ物にならないな。
全員腰掛けると、ナース服に身を包んだ女性がそれぞれの前に飲み物を置く。病院だからメイドじゃなくてナース服なのか? ……なかなか悪くない。
「早速本題に入ろう。といっても、薄々予想はついていると思うが、また注射針やメスが欲しくてね」
ブランディーニは1枚の紙を見せてきた。紙の中身は必要品のリストだろうか。メス70本、注射針120本など、ずらずらと品目と個数が書いている。
品目は去年と一緒ぐらいだが、数は減っている。去年の1/10ぐらいだろうか。
「数は去年より少ないな」
「ああ、うちで使うのはそれぐらいさ。去年調子に乗って依頼しすぎたよ、ははは!」
「……余っているのを使えばいいじゃないか」
「実は他の医者に売ってしまったんだ。隣国から輸入するより安いからみんな喜んで買っていったよ、あっはっは!」
ブランディーニは子供の見た目に似合わない高笑いをする。
まったくこいつは、したたかと言うか……。金儲けの嗅覚は流石と言えるな。
「いや、フリード君には本当に感謝しているよ! ウチの国では碌な道具が無くて、毎年隣国のドワーフ達が作ったものを高値で買っていたんだから」
「……喜んでもらえて何よりだ。それで、今回の報酬はどのくらいだ?」
「そうだな、今回は1億でどうだ?」
「ぶっ! い、1億……?」
オレではなく、横のエミリアがその金額に驚く。オレも驚きだ、医者と言うのはとても儲かるらしい。
「驚くことはない、ドワーフたちから買う費用を考えると、十分儲けが出る金額さ。それにうちは国中から病人が来るからね。財布の心配はいらないよ、あっはっは!」
まあ、それだけ貰えるなら異論はないな。……オレは『錬金術』で希望のものを作り始めた。
テーブルの上にいろいろな医療道具がガシャガシャと並び始める。
「おお、やはり素晴らしいな、君の魔法は! 見給えこの銀のメス、鏡のようではないか!」
ブランディーニは感嘆の声を上げる。曲がりなりにも医者なだけあって、道具にはこだわりがあるようだ。
「よし、あと作るものは……。む? この虹蓮というのは何だ?」
リストを下に見ていくと、見慣れぬ言葉が書かれていた。
「おっと失礼、それは君に依頼するものではなかったよ。不足している品目として間違えて記入したようだ。……麻酔の材料になるのだが、なかなか入荷しなくてね」
「……お前の魔法は麻酔はいらないだろう」
「たしかに僕の『二人乗りのタイムマシーン』は麻酔はいらないが、うちには他にも医者がたくさんいるからね。道具や薬は大切さ」
「ちなみにこの虹蓮というやつはどれぐらい希少なんだ?」
「そうだね……僕ならそれ1つに1億出すよ」
「ぶっ! い、1億……?」
またエミリアが驚く。麻酔のような消耗品に1億とは……オレも信じられないな。
「虹蓮で作った麻酔薬は、ほんの少しで6時間は効く上に、まったく後遺症が無い。医者を名乗る者ならだれもが欲しがるだろうね」
「ブランディーニ、取引しないか? またお前の紹介状が欲しい。オレがこいつを探してみよう」
以前一度紹介状を貰っていたが、それはエミリアの母に使ってしまった。今後のことを考えると、保険として1枚は持っておきたい。
「本当か? 紹介状ぐらいで虹蓮が貰えるなら、喜んで了承するよ」
……どうやらオレの次の仕事が決まったようだな。




