第44話 花火
王都の収穫祭最終日。
今夜は祭りのフィナーレを飾る花火が打ち上げられる。昼頃になると観光客、王都の住民問わず大通り中に集まるため人混みはピークに達するだろう。
「デット、今日はお店は昼までにしよう」
「わかった。……意外と楽しいな、こういうのも」
オレとデットは相変わらず金属細工を販売していた。3日の売り上げ、50万と言ったところか。
元手がほぼ0だと考えると十分すぎるといえる。
「隊長、ここですよ。噂の金属細工の店!」
「へぇ、こんなところがあったにゃんて!」
また新しい2人組の客が現れた。1人は豹柄の耳としっぽ、もう1人はうさ耳がついている。
全く、困るな。伝統ある収穫祭をコスプレパーティーと勘違いされてもらっては。
「これをセシリア様にプレゼントすれば、評価爆上げ間違いなしです!」
「そうだニャー。この前大ミスしてしまったから、お詫びとして買うとするニャ!」
セシリア? このコスプレ2人組はあいつの関係者か?
「親父、『永遠に枯れない花(金)』を3つほど欲しいニャ!」
……誰が親父だ。
「済まないねぇお嬢さん方! うちはセシリアと言う名前の人間へのプレゼントは売らないことにしてるんでねぇ!」
「にゃ、にゃんでそんなピンポイントだニャ!」
「フリード、急にどうしたんだ……?」
オレがセシリアに殺されかけたことを知らないデットがたしなめるが、オレは引き下がらない。決して親父扱いされたから拗ねているわけでは無いのだ。
「今日は店じまいだ! さぁ、帰った帰った!」
「ま、待つニャ! なんでセシリア様に売らないか、せめて理由を言うニャ!」
「理由……? そのドジっ娘に勘違いで殺されかけたことがあるのだから当然だろう」
「ドジっ娘って、まさかセシリア様の事ニャ!? 人のギルドマスターをよくもっ!」
豹耳娘は髪の毛を逆立てている。
「ふっ、まさかドジっ娘のギルドメンバーだったとはな。『王家の盾』はコスプレ部隊も抱えているのか?」
「こ、このっ……。もう謝っても許さないニャ!」
オレの挑発に豹耳娘は怒り心頭だ。
「おい、フリード。今のはお前が悪いぞ」
「デットよ、男には引き下がれない時があるのだ」
「今がその時とは思えないが」
まさに一触即発の雰囲気。だが、そのとき場違いな声が聞こえてくる。
「まあ、仮装してる人がいますわ」
「本当だ、可愛いです! ……あれ、お兄様?」
たまたま近くに来ていたのだろう、ルイーズとステラが声をかけてきた。
「お兄様の御友人ですか? とても素敵で可愛い仮装ですね!」
見つめ合っていたためオレの知り合いと勘違いしたのか、近づいて声をかける。
「ニャ、ニャハハ、これは仮装じゃなくて魔法だニャ〜」
豹耳娘は突然現れた少女に褒められて恥ずかしそうにしている。
「へえ、どんな魔法なんですか?」
「これは『星柄獣』っていう魔法ニャ! 獣の力を借りて、見た目だけじゃなくて身体能力も数十倍に膨れ上がってるニャ!」
「わぁ……とても格好いいです!」
「て、照れるニャ〜」
オレの妹は大胆だな。さっきまでの険悪な雰囲気はどこかに行ってしまった。
「ちょっと隊長! 褒められていい気になってる場合じゃないですよ!」
「はっ、そうだったニャ! おい、金属細工師! さっきのことはまだ……」
「さっきのことはオレが悪かった、突然馬鹿にして済まなかったな。『永遠に枯れない花(金)』を御所望だったか、もう店じまいだしタダで全て持っていくといい」
オレは余った花のすべてに金めっきを施すと、豹耳娘に渡す。
「な、なんで急にそんな心変わりするニャ!」
「ステラを喜ばせたお礼だ。少女を愛する者に悪い奴はいないからな」
「何か言い方が危ないですわよ……」
豹耳娘は金の花束を見つめ、首を傾げつつ帰っていった。
「よし、出店は終了だ。夜の花火に備えるとしよう」
オレたちは片づけをし、ギルドホームに戻ることにした。
*
「皆さま、おかえりなさいませ!」
「おう、留守番お疲れ様」
エミリアはキッチンで作業をしていた。恐らくオレの頼んだ夕食の準備をしているのだろう。
「フリード様、花火を見るといってもどこで見るつもりですの? 今日はどこも人がいっぱいで場所を確保できそうにありませんでしたわ」
「ふっ、もう既に場所は決めてある。ギルドホームの屋根の上で見るぞ」
ギルドホームは王城の近くにある。花火は城の中庭から打ち上げられるため、鑑賞するには最高のロケーションだ。
「だから、外で食べやすい夕食にしてほしいと言っていたのですね」
「そうだ、夕食をゆっくり摂りながら楽しもう」
*
夜になり、みんなでオレの生み出した鉄のはしごを昇り、屋根に上がる。
「そろそろですね……」
全員で王城の方を眺める。王城はお祭り仕様で、かがり火によりライトアップされている。
大通りに近いギルドホームの為、耳には観光客たちのざわつく声が聞こえる。
「おっ! 始まるぞ」
王城から白い光が天に昇り、一瞬後、大きな音と共に光の花を咲かせる。
観光客の感嘆の声が聞こえてきた。
「わあ、すごい……!」
「これは迫力があるな……」
収穫祭が初めてのステラとデットは感動している。オレも何度も見ているが、こんなに近くで見たのは初めてだ。
最初の一発を皮切りに、連続で花火が打ちあがる。色とりどりの花火は実に幻想的だ。
とにかく大きな花火、小さい連続した花火、バチバチと散らばるような花火……
眺めていると時間を忘れてしまう。
「来年もこうやって見れると良いですね」
エミリアがしんみりとした雰囲気で話しかけてくる。
「どうだろうな、ギルドメンバーが100人以上になったら屋根に上れなさそうだ」
「……そんなに集まるんですか?」
ムードのないオレの言葉に呆れたようだ。
「まあ、減ることはないだろう。来年も楽しめるように努力するとしようか」
「……はいっ!」
……どうやら花火が終わりそうだ。毎年恒例の、最後の特大の一発が打ちあがった。
最後の大輪は、王都全体を照らすように花開く。空気がビリビリと振動している。
光が完全に消えると、人々の拍手の音が聞こえてきた。
「……そろそろ降りよう」
余韻に浸りながら、ホームへと入っていく。
今夜は気持ちよく寝れそうだ。
*
第1ギルド『王家の盾』ギルドホーム。
王城に近いこのギルドホームの中で、セシリアとフレデリックが会話をしていた。
「なんとか収穫祭までに帰ってこれましたね」
「……残念ながら近すぎてここからは花火が見えませんがね」
2人は昨夜、制圧したサリア王国から戻ってきたところだった。
サリア王都を一度は制圧したものの、長い国土は維持できないと判断され、いくらかの賠償金のみで国を返還するに至った。
一応戦争の決着はついた形ではあったが、セシリアは難しい顔をしている。
「……フレデリック、先代ギルドマスターのことを覚えていますか」
「当然です。『未来視』様は立派な方でした。……私は王や貴族だけでなく国民も愛しなさいと何度も言われましたよ。いつか痛い目を見ると」
フレデリックは当時のことを思い出し苦笑する。
「先代は私の未来を視て、竜の復活を予言していました。いつか私でも勝てない竜が現れる。その時、全身をミスリルの鎧で包んだ勇者が現れて助けてくれると」
「……先代の魔法を疑う訳ではありませんが、正直その予言は眉唾です。我々人類は、竜を滅ぼしてこの大陸に国を作ったのですから。それから今に至るまで、竜の姿が見られたことはありません。それに、ミスリルも伝説の金属と言われるだけあって、わが国でもいくつかの武器が残っているだけです。鎧を作れるほどの量がどこかに眠っているとは考えられません」
「……サリア王国から一つだけ消えたものがあります。竜を滅ぼした際、各国にバラバラに封印された竜の体です。私は嫌な予感がしてなりません」
「竜……?」
沈黙が一瞬その場を支配する。
「……それで、どうなされるのですか?」
「これからも精進しましょう。勇者が現れる未来の光景も、きっと私の努力の先にあるのですから」
セシリアはそう言うと、執務室を離れ自室に戻ろうとする。だが、執務室内の机の上に花束が置かれていることに気付いた。
「……これは?」
「ああ、シャオフーが『魔法市』で買ってきたようです。なんでも枯れない花だとか」
「枯れない花……素敵ですね。王国の朽ちぬ繁栄を願って、明日花瓶に飾りましょう」
セシリアは一旦花を机の上に戻すと、今度こそ自室へ戻っていった。




