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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
間章 王都の収穫祭
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第43話 魔法市

 パーティーの準備が整い、オレたちは机に並んだ豪華な食事を取り囲むように並んでいた。


「よし、みんなグラスの準備は良いな? ……今日は3つの嬉しい出来事があったから、それを祝うためのパーティーだ。皆でわいわい食事を楽しもう」

「3つ?」

「そうだ。妹がついに魔法が使えるようになったこと、全員無事に戦争から帰ってこれたこと。……そして最後にこれだ」


 オレはアルトちゃんに貰った紙を皆に見せる。ギルドランクの昇格を認める書類だ。


「す、凄いです! 御主人様!」

「お兄様、流石です!」

「ふっふっふ、そうだろうそうだろう」

 オレ様ヨイショ係の2人が称賛の言葉を口にする。


「まあそんなわけで、オレたちのギルドは順風満帆だ。これからどんどん忙しくなると思うが、今日の所は難しいことを考えずに食事を楽しもう。それでは、乾杯!」

 オレたちはグラスを突き上げ、乾杯をする。ついにパーティーの始まりだ。


 オレは一瞬でグラスを開けると、テーブルの上に並んだ食事に手を付けることにした。七面鳥の丸焼きを中心に、夏秋に収穫される野菜をふんだんに使った食事が所狭しと並んでいる。エミリアがだいぶ気合を入れてくれたようだ。


「御主人様、私が取り分けしましょうか?」

 テーブルの前で悩んでいると、エミリアが声をかけてきた。


「いや、パーティーの時までオレに気を使う必要はないぞ」

 むしろ功労者に対してオレが労うべきだな。そう考えたオレは、無理やりエミリアを椅子に座らせると、オレも横に座り買っておいた高い酒を開ける。


「よし、エミリア、どんどん飲め。陰の功労者にも休息は必要だ」

「そんな、御主人様、悪いですよ!」

 オレはエミリアを無視してグラスにどんどん酒を注ぐ。


*


「だからぁ、御主人様は体を犠牲にし過ぎなんですよぉ」

「わ、悪い」

「謝ってもまたすぐ怪我するんです! わらひがこんなに言っても!」

 エミリアはドンッ!とテーブルにグラスを置く。


「す、すまん……」

 オレは、酔っぱらったエミリアに絡まれていた。普段酔うほど飲んだのを見たことなかったが、まさかこんな感じだとは。

 オレが開けた酒はほとんどエミリアの胃の中だ。


「エミリアさん、すごいことになっていますわ……」

「ストレスが溜まっていたのかもな」

 ルイーズとデットも異様な雰囲気に気付き、食事を止めこちらの様子を見ている。

 冷静に分析してないで助けていただけないだろうか。


「エミリアさん、お酒はその辺にしておいた方が……」

 ステラが見かねて助け船を出す。流石は我が妹だ、お小遣いを増やしてあげなくては。


「ステラちゃんは優しぃでしゅね……。でも、御主人ひゃまは……」

 話している途中で、エミリアは事切れた。4時間に渡る攻防の末、オレは満身創痍ながら耐えきることに成功した。


「……部屋に連れて行くか」

 オレは寝息を立てているエミリアを抱きかかえると、2階の部屋に連れていくことにした。


「もっと、体を、大事に……」

「ん? 寝言か……」

 階段を上がる途中で、エミリアが声を上げる。

 体を大事に、か。分かっているが、誰かの命と自分の怪我を天秤にかけた時、この天才は常に正しい判断をしてしまうのだ。

 エミリアには悪いと思うが、これからも魔法で助けてもらわないとな。


*


「御主人様、ごめんなさい……」

「いいさ、たまにはゆっくり休むといい」

 翌朝、エミリアは完全に二日酔いになっていた。特に仕事もないので、休ませてやることにする。……昨夜のことは黙っておこう。


 オレは一階に降りると、自分でコーヒーを淹れる。


「フリード、今日は仕事に行くのか?」

「いや、しばらくは休みにしようと思う。丁度今日から収穫祭も始まるしな」

 王都の収穫祭は3日間続けられる。とはいっても出店が立ち並び始めるだけで、メインイベントは最終日だけだが。


「ステラ、出店を見てくるといい。いろいろなものが売り出されていて楽しいぞ」

 オレはステラを手招きすると、10枚ほどの金貨を渡す。


「わあ、こんなに……! ありがとうございます、お兄様!」

「ステラ、私も一緒に行きますわ!」

 ルイーズとステラは楽しそうにギルドホームを飛び出していった。


「……妹を甘やかしすぎじゃないか?」

「今回は魔法を覚えた御褒美込みだ。今後のお小遣いは月5万ベルにする」

「それでも十分やりすぎだ……」


「さて、じゃあオレも出るとするか」

「仕事は休みじゃないのか?」

「そういえばデットは昨日いなかったな。魔法で作ったものを売る『魔法市(まほういち)』にオレも出品する予定だ。暇ならついてくるか?」


*


 オレとデットは王都の中心の大通りに出ていた。

 いつもは広々とした通りも、今日は両サイドに出店が並び始め、ごった返す観光客も合わさり狭く感じる。


「へえ、朝でも結構人がいるな」

「魔法でしか作れない珍しいものも並ぶからな。観光客だけでなく、商人も見に来る。ちなみにオレは昨年『魔法市』だけで4億近く稼いでいる」

「なっ!? そんなに稼げるものなのか!?」

「まあ天才の手腕を見せてやろう。あの辺りに店を出すとするか」

 オレはスペースの開いた一角を見つけると、そこに店を構えることにした。


 『錬金術』で金を生み出し始めると、それを見せつけるように無駄に大量に広げる。それを少しずつ形を変えていき、出店と看板を形作る。

 周囲の人々からはどよめきの声が聞こえてきた。


「掴みはばっちりだな。さて、天才錬金術師の金属細工店、ついに開店だ。デット、看板娘として呼び込みを頼む」

「何っ!? そ、そんな注目を浴びる仕事を、私が……!?」

 デットは何故かテンションが上がっている。意外とこういうのが好きなのか?


*


 オレは、花に金めっきを施している。すぐに黄金の花が完成すると、それを客に手渡しする。


「よし、永遠に枯れない花をどうぞ、お嬢さん」

「ありがとう、おじちゃん!」

「こらこら、お兄さんだぞ」

 オレは客の少女から銀貨を受け取る。少女は嬉しそうに駆けていった。


 さっきまでひっきりなしに客が来ていたが、ここで少し客足が途切れる。

 店を出して、2時間は経っただろうか。もうそろそろお昼の時間だ。


「けっこう客が来たな。……でも、4億も稼げるとは思えないな」

 看板娘が近づき声をかけてくる。確かに客の単価は100ベルから1000ベルぐらいだ。このままじゃ100万さえ危うい。


「実は去年は客に医者が居たんだ。銀製の注射針やメスを大量に売って荒稼ぎした。……デット、客足も引いたし一旦休憩にするか」

 デットに声をかけ店じまいしようとすると、人が近付いてきた。


「やあやあフリード君。今年も店を出していると聞いてきてみたが、店じまいか?」

 どう見ても少年にしか見えない男が声をかけてくる。


「む! ……ブランディーニか」

 オレに声をかけてきた少年は、王都最高の医者、ロバート・ブランディーニだった。


*


 オレはエミリアが心配だったため、一旦ブランディーニと別れホームへ向かっていた。

 何か依頼があるとの事だったので、収穫祭の後日に会う約束を取り付けておいた。おそらく、また医療道具が必要になったのだろう。


「フリード、あの少年と知り合いだったのか」

「ああ、あいつがオレの言っていた去年荒稼ぎをした相手だ。『ブランディーニ総合病院』という、病院でありながらギルドを兼ねているとこのギルドマスターだ」

「あの少年がギルドマスターなのか!?」

「ああ見えてオレより年上だ。時間に関係する魔法を持っているから若く見えるが」

「時間魔法とは、聞くだけで恐ろしいな……」


 オレたちがギルドホームにつくと、エミリアの様子を見に行く。


「エミリア、大丈夫か? 適当に出店で食べられるものを買ってきたぞ」

「あ、御主人様……。大丈夫です、もうだいぶ楽になりました」

 エミリアは頭を押さえながら立ち上がった。ゆっくり1階に降りると、ひとまず昼食を取ることにした。


「お兄様、ただいま帰りました!」

 ステラとルイーズも帰ってきたようだ。

 結局、昼食も全員で一緒だな。


*


 丁度全員が集まったので、オレは皆に今後のことを話すことにした。


「これからのギルドの予定だが、収穫祭のあとステラの編入を見届けたらまた仕事を探し始めようと思う」

「お兄様、またしばらく帰ってこないのですか……?」

「わからんな、仕事次第としか言えない」

 可哀想だが、仕方ないな。オレも一人で学園に通ったのだから、耐えるしかない。


「そうだ、御主人様! ステラちゃんの魔法で、1人だけ連れて行ってあげればいいのでは?」

「そ、そんなこと可能なのか……?」

「お兄様、私は大丈夫です! 絶対無茶なことはしませんから、ダメですか……?」

 妹は上目遣いで聞いてくる。


「……ちゃんと兄のいう事を聞けるか?」

「はい、どんなことでも聞きます!」

「……分かった、許可しよう。オレもステラの歳ぐらいの時には色々なことに挑戦してたからな」

 オレの返事に、ステラは嬉しそうにする。……そんなに一緒にいるのが良いのか。


「まあ、細かいことはまず依頼を受けてからだな。まずは収穫祭を楽しむか」


 オレはそう言うと、昼食を続けることにした。


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