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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
サリア戦争編
41/198

第40話 天敵

 前線基地の中央に位置する建物。

 第1ギルドと前線部隊をまとめるセシリアは、執務室で書類整理を続けていた。


「食糧の備蓄を考えると、冬までに帰らないといけませんね……」

 数字のたくさん書かれた書類を見ながら今後のことを考えている。

 そうしていると、執務室の外がにわかに騒がしくなる。


「何かあったのですか?」

 セシリアは執務室の外に出ると、フレデリックとシャオフーが話をしていた。


「あ、セシリア様! 済みません、私のミスなんです! ああ、私はなんてことを……」

「落ち着いて話してください、シャオフー」


「私から話しましょう。後方にある食糧を守る陣地が魔法使いの攻撃を受けているようです」

 慌てているシャオフーは、真面目なしゃべり方になっていた。代わりに、フレデリックが説明をする。


「『王家の盾』の探知部隊を任されておきながら、侵入者を見逃すなんて……。すぐに、この責任を取るために向かいますっ!」

「いえ、まだ前線からの攻撃の可能性がある以上、貴女はここの守りを継続してください」

「すぐに、救出部隊に向かわせる魔法使いを選定します」

 フレデリックはそう言うと、魔法使いを呼ぶために移動しようとするが、セシリアはそれを制止する。


「この時間から魔法使いを選んでいては手遅れになります。フレデリック、少しの間ここをお願いします。……私が行きましょう」

「しかし、セシリア様自ら行かずとも……」

「私が向かうのが一番早いでしょう。常に最善手を選び、迅速に動くことが我々の役目です」


 セシリアは一旦執務室に戻り剣を取る。……そして、その場からフッと消失した。


*


 オレは、両腕の燃え盛る男と対峙していた。


「人の陣地でキャンプファイヤーは止めてくれるか?」

「……なんだ、てめえは?」

「それはこっちが聞きたい」

 ジロリとこちらを睨みつける男に、オレは応える。


「それもそうだな! オレは『熱風拳』のエンリケだ!」

 ……意外と礼儀正しいようだ。


「オレはフリードだ。ここの護衛を任されている。降伏してくれると助かるのだが?」

「そいつは無理な相談だな! 邪魔をするならお前も他の奴らの様に火あぶりにしてやるぜ!」

「他の奴ら?」


 周囲をよく見ると、暗がりに何人も人が転がっているのが見えた。この服装はオレにちょっかいをかけてきたシャル何とかのギルドだ。……死んでいないだろうな。


「話し合いが無理なら力づくで止めさせてもらう」

 オレはお馴染みの鎖による攻撃を放つ。掌から放たれた鎖は男を狙うが、男は燃える腕で払いのけ、こちらに接近してきた。


「おらぁっ!」

 男は拳でオレに殴り掛かってくる。オレは両腕に鉄の盾を生み出し受け止めるが、熱がオレの腕に伝わってくる。


「熱っつ!」

「はっはぁ、このまま焼き尽くしてやる!」

 流石に拳が届く距離だと熱もすぐに伝わるようだ。男は体術の心得があるらしく、素人のオレでは接近戦だと隙がつけない。

 とにかく距離を取る必要があるな。オレは口内に鉄の針を生み出し、男の顔にプッと吹きかける。

 これぞ錬金術奥義・含み針だ。


「あぶなっ!」

 男は後ろに飛び退き、距離を取る。オレはその隙に熱くなった鉄の盾を投げ捨てる。お陰様でオレの手は真っ赤に火傷している。


「卑怯くさい技を使いやがって!」

「夜襲をかけてきた奴らには言われたくないな」

「それもそうだな!」

 ……馬鹿を相手にするのは疲れるな。


「御主人様っ!」

「エミリア?」

 エミリアの声がする方を向くと、3人がこっちに走ってきていた。そして、その後ろからローブを被った男が追いかけてきている。

 男は腕を振ると、突然物資の入った木箱やテントが薙ぎ払われる。何が起きたかよくわからないが、目に見えない魔法か?


「フリード様! この男をどうにかしてくださいなっ!」

 どうやらローブの男の相手をオレに押し付けるつもりらしい。


「わかった。代わりにこの馬鹿の相手を頼む」

「おい、逃げる気か!? まだ男の熱い試合は終わってねぇぞ!」


 男は燃え盛る腕を、怒りを表すかのようにさらに強く燃え上がらせる。だが、こちらには腕を武器にする魔法使いに対する"天敵"がいるのだ。

 オレは、3人とすれ違うようにして、後を追いかけてきたローブの男と対峙する。


「貴様がネズミ共の親玉か? まとめて吹き飛ばしてやろう!」

 男は腕を振るい、再び魔法攻撃を仕掛けてくるようだ。見えない魔法がどこから来るかわからないなら、全ての範囲を防ぐまでだ。オレは鉄を生み出し、巨大な壁を作る。

 ガンガンガンッと鉄の壁に何かがぶつかるような音がする。壁には、無数の拳の跡がついていた。


「オレを無視するんじゃねーっ!」

 エンリケはオレの後ろから怒声を上げる。だが、残念ながら既に勝負はついているのだ。


「あん? 腕が勝手に……? ぎゃあああぁ!?」

 エンリケの腕は、彼自身の顔を触り、直接焼き始めた。ルイーズの強制的に腕を操る魔法が彼を襲ったようだ。

 自らの魔法で焼かれたエンリケは自身の魔法を解除し、顔を押さえて床を転がる。


「ルイーズ様、流石です!」

「……だけど、少しえげつないな」

「もう、非常事態なので仕方ありませんわ!」

 いつの間にかルイーズも立派になったようだ。オレはホロリと心の中で涙を流す。


 ……あちらは彼女たちに任せて、オレはローブの男を退治するとしよう。


*


「ふん、我の魔法を防ぐとはなかなかやるようだな」

「貴様より格上だから当然だろう?」


 余裕そうな顔はオレの発言で少し怒りが混じる。


「……粋がったところで我の魔法は見切れぬ。その首、ねじ切ってやろう」

 やれやれ、この男は自分のミスに気付いていないようだ。既にオレは、この魔法の正体に気付いているというのに。

 だが、念には念を入れて、もう一度敵の魔法を探るとしよう。オレは無数の鎖を作り出し、できるだけ広い範囲でローブの男を攻撃する。


「下らん技だ!」

 男が腕を払うと、オレの鎖は空中で何かにぶつかったように、全てはじき返された。


「つまらん魔法だな。抵抗をあきらめて素直に我に首を差し出すが良い」

「……つまらん魔法とは、お前のその"見えない腕"のことか?」

「なっ! ……何故、それを!?」


 はっきり言って、見えない魔法など初見殺しに過ぎない。風の魔法か、透明な物体による物理攻撃か、あるいは直接物体を動かす念動力か……。結局、3パターンしか無いのだ。


 この男は、オレの鉄の壁に拳の跡を残してしまった。そして、鎖を叩き落とす様に防いでしまった。そのミスをこの天才が見逃すはずがない。


 男は手を振るうが、再び鉄の壁で防ぐ。そのまま壁の形を変え、男ごとその周囲の空間を覆うように鉄を展開する。


「ほら、貴様の子供だましが丸見えになるぞ」

「ぐっ……!」


 オレは錬金術奥義・鉄めっきで見えない魔法を覆うと、男の周囲に無数の腕が浮かび上がる。分厚く鉄を盛ると、それを振り払うほどの力もないようだ。

 そのまま男の体まで覆い、身動きを取れなくする。


「……くっくっく、これで我らに勝ったつもりか? 既に穀倉はほぼ全て全焼している。この規模では国への被害も大きいだろう」

 確かに周囲の倉庫は丸焼けだ。ぱちぱちと音を立てて燃えるそれは、今にも崩れ落ちそうなものもある。

 丁度、近くの穀倉が火に耐えきれず、壁が崩れ落ちる。……だが、穀倉の中は空っぽであった。


「なっ!? か、空だと……!?」

「空っぽの倉庫でたき火はどうだった? 食糧は全て、ここから1時間ほどの別の場所に移動されている。オレの作り出した鉄の倉庫にな」

 穀倉の守備を任された時点で、守備の兵士たちを金貨で買収し、オレの作り出した倉庫に搬入して貰っていた。他のギルドが前線ばかりを守っていたおかげで秘密裏に行うことができた。

 既にここにはオレたちの分の食糧が3日ほどと、使い道のない兵士たちの武器しか保管されていない。


「おのれ、おのれぇぇ……! ユリアンっ! 撤退だ、我を助けろ!」

「む……?」

 男は何者かの名を呼ぶ。オレは周囲を警戒する。……だが、あたりは静かで、火の燃える音だけしか聞こえてこない。


「ユリアン? 聞こえているだろう! 早く来い!」

「こけおどしか? それとも、見捨てられたか」

 この戦いも、早く終わらせてしまおう。オレは鉄の壁を生み出し、エミリアたちの視界を塞ぐ。そして、生み出した鉄の剣を男に振るった。


「主よ、申し訳ありません……! どうか、我らの悲願を……」

 それが、男の最後の言葉だった。


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