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天才錬金術師の最強ギルド創設記  作者: 蘭丸
それぞれの家族編
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第29話 燻る王都

「お給料の時間だああぁぁぁっ!」

 オレは、ギルドホームで絶叫していた。


「と、突然どうしましたの……?」

「今日は給料日だぞ。テンションが上がるのも当然だ」

「……給料を払う方のテンションじゃないな」

 オレの興奮に対し周囲の目は冷ややかだ。


「全く冷め切った奴らだな。いいから早く集まり給え。」

 3人は机を挟んで並ぶ。


「はいエミリアの分! ルイーズの分! デットの分!」

 3人の前に金貨の入った袋をドンドンドンと置いていく。

 各金貨80枚、合計で240万ベルだ。


「ありがとうございます、御主人様!」

「まあ、一応頂いておきますわ」

 2人は袋を受け取る。


「お、おい。こんなに受け取れないぞ」

 今回が初給料のデットは袋の中身を確認し、その金額に驚いたようだ。


「いずれ世界最強になるギルドだ。給与水準も最高で何がおかしい?」

「実態が伴ってないのに給与だけ上げても仕方ないぞ」

 デットは半裸なのに正論を吐いてくる。


「まあ、エミリアが80万必要だというからな。一人を贔屓するのもおかしな話だし、当然だ」

「エミリアが……?」


「とりあえず受け取っておけ。冬はその恰好じゃ辛いぞ」

「ふ、服を買う金ぐらいある!」

 デットは納得がいっていないようだが、無理やり押し付ける。


「……フリード様、錬金術が使えるのですから、直接お金を生み出せばいいのでは?」

 ルイーズはとんでもないことを言い出した。


「おおお、恐ろしいことを言うな! 錬金術奥義・無限金貨は信頼を犠牲に国家経済を揺るがす技だ! おいそれと使う訳にはいかない!」

「一応、できるのですわね……」


「オレは世界を俯瞰して視ている。秩序を乱すようなことは決してしないのだ」

「……よくわかりませんわ」

 これが理解できるのが大人なのだ。

 頑張って大人になるのだ、ルイーズよ。


*


給料を配るという大仕事を終えたので、本日は業務終了だ。

オレは椅子に座り、コーヒーを飲んで休憩をする。


「御主人様、少し外に出てきますね」

「ん? ああ、気を付けてな」

 エミリアはオレに伺いを立てると、お金の入った袋を持って部屋を後にする。


「……私も少し外すぞ」

 デットも後を追うように部屋を出ていく。後にはオレとルイーズが残される。


「ならばオレたちはデートだな。いくぞ、ルイーズ」

「え? ちょ、ちょっと!? 急にデートと言われましても……!」

慌てるルイーズの手を引き、オレも外に出ることにした。


*


(まずはお母さんの薬と、食事を買わなくちゃ……)

 エミリアは、貰ったばかりの給料を持って家へ向かっていた。

 袋を大事そうに抱え、小走りで下流地区を抜けていく。


「あっ!」

 曲がり角で、通行人とぶつかる。衝撃で袋を落とし、周囲には無数の金貨が散らばった。


「済みません、ちゃんと前見てなくて……」

「わ、悪い……!?」

 ぶつかった男は散らばったものを見て驚く。周囲の通行人もざわざわと騒ぎ立てる。

 エミリアは慌てて金貨を拾い集める。


「へへ、ラッキーだぜ!」

「あっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 返して!」

 遠くに転がった数枚の金貨を拾い上げ、逃げ出す男。しゃがんでいるエミリアは反応が遅れてしまう。


「へっへっへっぐおぉ!?」

 逃げ出した男の後頭部にどこからか飛んできた矢が直撃した。


「……安心しろ、矢じりは潰してある」

「エルデット様!? どうしてここに!?」

「少し気になることがあってな……。大丈夫か?」

 矢を放ち、助けてくれたのはエルデットであった。エミリアの横にしゃがみ込み、一緒に金貨を拾い集める。


*


 2人は、近くのカフェに入っていた。エルデットは、エミリアの話を聞く。


「母親の病気……?」

「はい。……御主人様には言わないでくださいね。今でさえ好待遇なのに、これ以上甘えられません」

「確かに、一億ポンと出しそうな雰囲気はあるが……」

 エルデットの脳内には、手から金貨を生み出し続けるフリードが浮かんでいた。


「……わかった、フリードには黙っておく」

「ありがとうございます!」

「無理に聞き出して悪かった。……もしフリードに相談できないことがあったら私に相談してほしい」

「はい、ありがとうございます」

 エルデットは立ち上がると、2人分の精算をしてホームの方へ戻っていく。


(エルデット様……。凄い服装だけど、格好いいです!)

 エミリアは少しだけ晴れやかな表情で、再び自分の家に向かっていった。


*


「全く、デートと言うからどこに行くかと思えば……。ギルド管理局なんて、ムードも何もありませんわ!」

 オレとルイーズは、ギルド管理局へ来ていた。

 ルイーズはふくれっ面だ。


「なんだ、期待していたのか?」

「べ、別に期待なんてしてませんわ!」

「まあそう不貞腐れるな。オレと一緒ならこんなぼろい建物も豪邸のような輝きを放って見えるものだ」

「……勝手に人の職場をぼろ扱いしないで頂けますか?」

 後ろからアルトちゃんの非難する言葉が飛ぶ。


「これは失礼。ところで今日のおすすめは?」

「うちをレストランか何かと勘違いしていませんか?」

 久しぶりにギル管にきたが、アルトちゃんは相変わらずのようで安心だ。

 仕方ない、自分で依頼を探すか。240万失ったばかりだしな。


「そこにいるのは、フリード殿か?」

 掲示板を眺めていると、後ろから声をかけられる。振り向くと、王都の衛兵隊長ハンスが立っていた。


「ああ、ハンスか。また厄介事を持ってきたのか?」

「いや、今日は指名手配犯の登録だ。王都内の犯罪者の対応は衛兵の管轄だからな」

 手には紙を持っている。ニューフェイスの情報だろう。


「少し見てもいいか?」

「ああ。そのまま依頼を受けてもいいぞ」

 オレは紙を受け取り、中身に目を通す。

 下流地区に出没した連続放火魔らしいが、それ以外に情報が載っていない。報酬は3万ベルと書いてある。


「なんだこの報酬は? 子供の小遣いか? これっぽっちの金額じゃけつを拭く代わりにもならんぞ」

「貴様は金貨でけつを拭くのか? ……残念ながら、それが下流地区に対して払える金額という事だ。報酬は国や貴族の税収から支払われているからな」

 まったく、世知辛い世の中だ。


「頭の片隅に入れておくとしよう」

「ああ、では期待しないで待つとする」

 ハンスは窓口に向かい、情報登録をするようだ。

 それにしても、放火魔か。こんな真夏に迷惑な奴だ。


*


 結局今日は特にめぼしい依頼もなかった。

 ルイーズは完全に飽きて休憩している。


「ルイーズ、折角だしデザートでも食べに行こう。付き合ってくれたお礼におごってやろう」

「え!? べ、別にそんなの……。ど、どうしてもと言うなら付き合ってあげますわ」

「どうしても。さあ行くぞ」

「ちょっと、適当過ぎますわ!」


 オレはルイーズを連れて、シャーベット屋へ来ていた。夏という事もあって、行列ができている。


「すごい行列ですわね」

「夏のシャーベットは最高だからな、当然と言える。すぐに出てくるからそんなに待たないはずだ」

「……シャーベットって何ですの?」

 やれやれ、今後は世間知らずキャラで目立っていくつもりか?


「まあ、氷菓子だな。ここの奴は蜂蜜と牛乳が主体だ」

「夏なのに氷がありますの!?」

「魔法で冷やしている。店員は『凍瘡掌(アイシクルハンド)』という魔法の持ち主だ」

「魔法……」

 話をしていると、オレたちの順番が回ってきた。


*


「冷たくておいしいですわ!」

「この天才が知る店だ。美味いに決まっているだろう」

 オレたちはシャーベットを口に運びながらホームへと帰ってきていた。

 ルイーズはすっかり機嫌を直したようだ。


「食べきってからホームに入ろう。エミリアにばれると、『晩御飯が食べられなくなりますよ!』って怒られるぞ」

「……完全に母親ですわね」


 最後まで食べきってからホームに入ると、中ではデットが矢じりを磨いていた。

 エミリアは帰ってきていないようだ。


「お帰り。……何か食べてきたのか? 甘い匂いがするけど」

「ふっ、言いがかりは止めてくれるか? オレの胃袋はエミリアの料理専門なのだ」

「……そうか」

 デットは興味なさげに仕事を再開する。

 オレは近くの椅子に腰かけ、その様子を眺める。


 結局、今日は平凡な日常だったな。ぼーっと考えていると、玄関の開く音が聞こえた。

 エミリアが帰ってきたのだろう。


 明日のことは明日のオレに任せ、今夜の食事に思いを馳せることにした。


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