第27話 焼失
エルデットは、森の中でターナとドミニクを追っていた。
「なっ!? なんだ、今の音は?」
突然後ろから大きな音がし、地面が揺れる。一瞬気を取られるが、再び2人の逃げた方向へ走っていく。
「……」
エルデットは途中で足を止める。2人の姿は見えず、周囲は静かだ。矢筒から矢を取り出し、弓を構える。
「出てこなければ、放つ!」
周囲に声をかけるが、返事は帰ってこない。弓を思いっきり引くと、バッと後ろを振り返り、木の上に向けて放った。
ドサドサと、2つの人影が落ちてくる。
ターナの肩には矢が刺さっていた。ドミニクは気絶したままだ。
「ど、どうして……」
「……視線を感じたんだ」
エルデットはそういうと、ターナの顔を狙って弓を構える。
「う……? 殺すの……?」
「1つ聞きたい。ボルカックを使って人を殺したことはあるか?」
「え? 魔獣は人払い用だから、今まで殺したことはない……」
「そうか……」
エルデットは答えを聞くと、弓を下ろし、2人を縛り始めた。
*
「……ちょっと手伝ってくれないか?」
オレが麻薬畑で休憩していると、エルデットが2人を引きずってきた。
男は気絶したままで、少女は肩から血を流している。
「エミリア、治療してやってくれ」
「あ、はい!」
エミリアはハンカチを口にくわえると、それを傷口に押し当てる。
少女はうめき声をあげる。魔法によって矢の傷口はすぐに塞がった。
エルデットは、潰されたボルカックを見ている。押し潰した鉄はオレが回収したが、動く気配はない。
放っておいてもじきに死ぬだろう。
「止めを刺すか?」
「……いや、いい。ありがとう」
エルデットは答える。
「この畑はどうしますの?」
「火をつけて焼き払うしかないな。森に延焼しないよう注意しよう。……煙は吸い込むなよ?」
オレは鉄で畑の周囲に壁を作り延焼対策をすると、火を放つ。
*
「御主人様、まさかこんなことになるとは思いませんでした」
ぱちぱちと燃える畑を見ていると、エミリアが横に並ぶ。
オレも驚いている。金毛うさぎを追いかけた結果、ディアレンツの闇にたどり着き、そしてエルデットの復讐も終わった。
全てが偶々、1つに繋がっていたようだ。
「あとやるべきことは、うさぎ狩りだけだな」
「あははっ、そうですね!」
冗談のつもりではなかったが、笑われてしまう。談笑していると、エルデットが近づいてきた。
「フリード、話が……」
「お礼ならもういいぞ」
「いや、そろそろ帰らないと、夜になってしまう」
おっと、和んでいる場合ではなかったようだ。やり切った感があって忘れていたが、確かにその通りだ。
「……町へ帰るとするか」
火が小さくなったのを確認すると、帰り支度を始めた。
*
翌日。
オレたちは犯罪者2人を連れて、事の顛末を町へ報告した。
町長は麻薬を撲滅できたことに喜び、オレたちに何度も感謝していた。
……大した報酬は貰えなかったが。
町に長居しすぎたため、罠を回収してから王都に帰ることに決め、オレたちは最後の罠の確認に来ていた。
「これでうさぎが取れていなかったら、今までは何のために滞在したのだろうな?」
「だ、大丈夫ですよ御主人様! きっと、取れています!」
エミリアは答えるが、目は若干泳いでいるように見える。
森に到着すると早速罠を確認し始める。
「む! お、おお……!?」
なんと、罠にはうさぎが引っかかっていた。しかも、金毛だ!
「森の奥で暴れたから、こっちに逃げてきたのかもしれないな」
エルデットが声をかけてくる。
オレは雄たけびを上げ、うさぎを掴み上に持ち上げる。
「良かったですね、御主人様!」
「こ、こっちにもうさぎがいますわ!」
どうやら他の罠にも捕まっているようだ。罠を順番に確認していく。
……結果、金毛1羽、普通のうさぎが3羽であった。
「ありがとう、エルデット。お前のおかげで、手ぶらで帰らずに済んだ」
「それはよかった。フリード、1つお願いがあるのだが……」
「?」
「その、私も、王都に連れて行ってくれないか? どうかこれからも私を見て欲しい……」
もじもじと顔を赤らめて、頼んでくる。
"見て欲しい"の意味はよくわからないが、ギルドに入ってくれるということだろう。
「いいのか!? もちろん大歓迎だ!」
オレが手を差し出すと、再び手を握り返してくれた。
オレたちのディアレンツでの収穫。
うさぎ3羽、金毛1羽、赤い毛皮2枚。そして……。
「改めてよろしく頼む、フリード。」
凄腕の狩人、1人。