第24話 奥に潜むもの
魔獣の森の奥地。
誰も足を踏み入れないと思われたそこに、2人の人間、そして多くの獣たちの姿が見えた。
「オラ、お前たち、しっかり働け!」
人間の男が鞭を打ち付けると、獣たちは従順に命令を聞く。
猿が畑に生えた植物を収穫し、狼の背中に括りつけられた籠に入れていく。狼はその籠の中身を一か所に集めていた。
「それにしても、ドミニクも狡いことを考えるよねー。『調教鞭』で獣を操って麻薬を作らせるなんて」
もう一人の人間の少女が、男に声をかける。
少女は、熊の頭を椅子替わりにして座っていた。その屈辱的な姿にも、熊は素直に従っている。
「狡いとはなんだ! 小賢しいと言え! この力を町で使ったらすぐに魔法使いが捕らえに来てしまうわ! こうやって麻薬で金を集めて、裏から町を支配する、それが正しい魔法の使い方だ!」
「……狡いも小賢しいもあんまり変わんないし」
ドミニクと呼ばれた男の答えに、少女は呆れる。
「ターナ、ちゃんと魔法は使ってるんだろうな? 魔獣に周囲を守らせて人払いしているとはいえ、頭の悪い奴らが近づいてくる可能性はある」
「大丈夫だよ。あたしの『蜘蛛糸』をちゃんと張ってるから、誰かが近付いて糸に引っかかったらすぐわかる」
少女が人差し指を立て、上に向ける。指先からは細い糸が出ており、周囲の茂みに繋がっていた。
少女の答えに男は頷く。
「もうすぐ、もうすぐだ。このまますぐにディアレンツを支配してやる。その後は王都、いや、国までも狙える。くくく、見ておけ他の魔法使い共。上に立つのに必要なのは力じゃない、頭脳だ!」
「……そんなに上手く行くかねぇ」
不敵に笑うドミニクをターナは適当に聞き流していた。
*
翌日、オレたちは再び森の入り口に集合していた。
「よし、全員揃ったし、魔獣狩りにレッツゴーだな!」
「御主人様、うさぎ狩りより生き生きしています……」
「うう、大丈夫ですの……?」
「……危機を感じたら、力づくで止めさせてもらうぞ」
ついに冒険の時は来た。オレたち4人はテンション高めで、森の奥へと入っていく。
さて、何が出てくるか……。
*
道中、オレは良さげな木の棒を拾い、ブンブン振り回しながら草を払い森の奥に進んでいた。
「フリード様、そんな小汚い棒を使わずに、魔法で生み出せばいいのでは?」
「小汚い棒とはなんだ。エクスカリバーと言ってもらおうか」
「え? 何言っていますの?」
ふっ、やはり女にはこのロマンはわからんか。
突然、エルデットが立ち止まりオレたちを手で制する。
「魔獣に気付かれた。あそこの茂みからこちらを伺っている」
流石は探知魔法だ。オレは全く気付かなかった。
「……どんな魔獣だ?」
「視界情報だけでは判別できない。矢を射かけて茂みから追い出そう」
エルデットはギリギリと弓を引き、茂みに向かって矢を放つ。矢が茂みに飛び込むと、そいつは姿を現した。
「ガオオオォ!」
「ハカスクか!」
真紅の毛を持つ狼型の魔獣、ハカスクが茂みから飛び出し、こちらへ咆哮を放つ。
オレは鉄の壁を生み出し受け止めると、咆哮の命中した場所から周囲に向かって突風が巻き起こる。
ハカスクが持つ魔法、『風撃の咆哮』だ。
「きゃ……!」
エミリアがスカートを押さえて風に耐えている。オレはハカスクの気を引くため、エクスカリバーを遠くの茂みに投げ込む。
「グルル……?」
音のした茂みに一瞬気を取られている隙に、鎖を生み出し放つ。
鎖はハカスクを突き飛ばし、そのまま後ろの木へ叩きつける。魔獣は崩れ落ち、そして動かなくなった。
「ふう、楽勝だ」
「良かったな、ハカスクは魔獣の中では価値がある方だ。赤い毛皮は珍しいからな」
エルデットが弓をしまいながら話しかけてくる。今冬のファッションは赤い襟巻で決まりだな。
「良かったじゃありませんわ! この先、こんなのがたくさん出ますの……?」
ルイーズは少し怯えているようだ。
「安心しろ。オレが守ってやる。オレとエクスカリバーがあれば無敵だ」
オレはエクスカリバーを投げ込んだ茂みを掻き分ける。
「な!? ば、馬鹿な……! こんなことって……! 神はオレに試練を与えようというのか……!?」
エクスカリバーは投げた衝撃で、ぽっきりと折れてしまっていた。
*
オレは、生み出した鉄の棒で草を払いながら、再び森の奥へ向かっていた。
……何がエクスカリバーだ、下らん。やはりオレの相棒は鉄だけだ。小汚い木の棒は不要だ。
「……ん?」
獣道を歩いていると、奥の茂みががさがさと動いているのに気付いた。
「小動物だな。かなり視線が低い」
エルデットが口を開く。さっきと同じ要領で弓を引くと、矢を放つ前にそれは飛び出してきた。
「あっ!? 金色の毛皮ですわ!?」
「あれは金毛うさぎだ!」
そのうさぎは木漏れ日を反射し、金色に美しく輝いていた。
エルデットが矢を放つが、走り出したうさぎには命中せず、地面に突き刺さる。
金毛うさぎはそのまま更に森の奥へと逃げていった。
「逃がすかっ!」
「ちょ、ちょっと、御主人様!」
オレはうさぎを追って駆け出していた。




