第21話 うさぎおいし
「うーん、今日もいないな……。エミリア、そっちはどうだ?」
「こっちも、全然です」
「全然音沙汰なしですわ……」
オレたちは、ハレミア王国内でも最大級の森に来ていた。はっきりとした名称は無く、野生生物や魔獣が多く住むことからそのまま「魔獣の森」と呼ばれることが多い。
「ふっ、この天才ともあろうものが、うさぎ一匹捕まえられないとはな」
「格好つけている場合ではありませんわ!」
オレたちはこの森に、一週間前からうさぎ狩りに来ていた。
*
事の発端は、約一週間前。
オレはギルド管理局で1枚の依頼書を眺めていた。
「御主人様、何か面白い依頼でもありましたか?」
「いや、うさぎ狩りの依頼を見つけてな。今までは狩猟依頼は専門外だと思って見ていなかったが」
オレが見ていたのは、うさぎ一匹ごとに5000ベルの依頼だ。恐らく、レストラン等で使われるのだろう。
「この間のうさぎのスープが気に入りましたか?」
「……まあ、あれは美味かったな」
「では、たまにはこういう依頼もいいのでは? 私がうさぎ料理を作りますよ!」
エミリアが両手で拳を握りガッツポーズをする。
「そうだな、たくさん捕まえて稼ぎつつ、余ったうさぎでジビエ料理のフルコースと洒落込むか」
「はい! ……あれ、もう一件うさぎ狩りの依頼がありますよ?」
隣を見ると、同じような依頼書が掲示してある。
「いや、微妙に違うな。どれどれ、金毛うさぎの毛皮、一匹……100万ベル!?」
金毛うさぎってなんだ? いや、この金額はなんだ?
どうやらうさぎ社会も格差社会のようだ。
……よし、オレはうさぎ富豪になるぞ。
*
……そう思って意気揚々と魔獣の森を訪れたのだがな。
オレの魔法で鉄のワイヤーを生み出し、罠をあちこちに仕掛けたがこの一週間、収穫無し。
「御主人様、そろそろ戻りませんか?」
「もう歩くのも疲れましたわ」
「はあ、そうするか」
その時、遠くの茂みががさがさと大きく動く。
「何!? うさぎか!?」
「いや、これは絶対もっと大きい生き物です!」
ナイフを生み出し茂みに投げ込むと、そいつは姿を現した。
「ぐおおおぉぉ!」
「フリード様! く、く、熊ですわ!?」
そこには人の背丈を超えるほどの大きな熊がいた。
「なんだ、熊か。つまらんな。だが、そういえば熊の胆は高値で取引されると聞いた気が……」
「御主人様、前! 前!」
熊は意外な俊敏さで目前まで迫っていた。
オレは、ばね状の鉄を生み出し、反力を利用して突進を空中へ回避する。
標的を見失い戸惑う熊の首を目掛けて、槍状の鉄で全体重をかけた一撃を見舞う。針と言ってもいいほどに細くした槍の先端は容易く熊の毛皮を破り貫いていく。
「ごぉぉぉ……!」
熊はしばらく暴れていたが、やがて動かなくなった。
「御主人様。すごいです……!」
「もう、ギリギリまで動かないから心配しましたわ!」
「向かってくるだけ熊の方が楽だな。さて、今日はこいつを持って帰ろう。」
オレは、総鉄製の台車を生み出し始めた。
*
オレたちは森から一番近い町、ディアレンツに来ていた。うさぎ狩りの間、ここをしばらくの拠点としている。
「熊一匹で8万ベルは、さすがに吹っ掛け過ぎですわ!」
「こちらが下処理できないからって、足元を見られましたね」
「まあ、仕方ないな。……夕食にするか」
オレ達は熊を買い取って貰おうととしたが、スズメの涙ほどにしかならず一週間の宿代すらペイできなかった。
これが初心者ハンターへの洗礼だろうか。
気を取り直し、食事をしようと酒場へと足を運ぶ。
まだ夕方になったばかりだが、店内はそれなりに人がいる。オレたちは3人並んでカウンターへ腰かけた。
「おう、兄ちゃん! 今日はうさぎは取れたか?」
「いや、今日もダメだった。この汚辱は酒で洗い流すしかない」
「はっはっは! ダメだったもんは仕方ねえ、今日もたっぷり飲んでいきな!」
マスターが目の前にエールをドンと置く。2人の前には度数の低い葡萄酒が置かれる。
もうすっかり顔なじみだ。
「だが、今日は熊を一頭捕まえて臨時収入があった。金も入った事だし何か肉も食わせてくれ」
「熊? はっは、おもしれえ冗談だ! だが、それだったらうさぎ肉でも食うか!?」
「うさぎ? マスターが捕まえたのか?」
「いや、この町には何人も狩猟で生計を立ててるやつがいるからな。ほら、丁度あそこに座ってやがる。あいつから買い取ったのさ」
オレは、マスターが示す方を見る。
「なっ!?」
そこには、小さな丸テーブルの席で一人の女性が足を組んで座っていた。
驚くべきはその装いだ。袖が無く胸元が大きく空いたシャツは、横からも上からも胸がこぼれそうだ。丈は短く臍が丸見えであり、スカートも短く太ももが8割以上露出している。
半裸と全裸の境界線を探るかのような挑戦的な衣装だ。
「……痴女?」
それがオレの第一印象だった。




