第20話 威厳
翌日。
オレは本を返すために『ユグドラシル』ギルドホームへ向かっていた。オレの手には『妖精王の物語』と書かれた本が握られている。
「……私なんかがお邪魔してしまってもいいのでしょうか」
「心配はいらないさ。Aランクと言っても殺伐としているわけでは無い。オレも自分のギルド設立前からよく顔を出して、本を借りたもんだ」
「それで、そのまま借りパク、という訳ですわね」
……貴族なのにそんな言葉良く知ってるな。
「今日返せば無実だ。人聞きの悪いことを言うな」
話しながら歩いていると、巨大な建物が見えてきた。
Aランクギルドともなると、ホームもスペシャルサイズだ。要塞のような建物の外壁には、木の根がまとわりついている。
「さて、入るか」
*
「うわあ、すごい……!」
「本がたくさんですわ……!」
2人はは建物内に入ると感嘆の声を上げる。
ホーム内はまるで図書館で、壁中に本棚が立ち並び、そのすべての棚にびっしりと本が詰まっている。
本棚は見上げるほどの高さまであり、本を取るだけでも苦労しそうなほどだ。全部数えると50万冊ほどと聞いたことがある。
図書館の中心にいた少女がこちらに気付き、読んでいた本から目を上げる。
「ついに来たですね、本泥棒」
「おいおいルナちゃん、今日返しに来たからセーフだろう?」
「完全アウトです!」
オレはジト目の少女に怒られてしまう。
「そう怒るなって、面白かったぞ、『妖精王の物語』。特に最後、妖精王が命を懸けて魔法で一族を逃がすシーンなんか感動した」
「わー! ルナがまだ読んでないのにネタバレは止めるです! このバカ、アホ、人間の屑!」
どうやら火に油を注いでしまったようだ。とんでもない罵詈雑言を浴びせかけられる。
「ルナや、それは客人に投げかける言葉ではないぞ」
「あ、マスター! でも……」
階段の上から声がして、別の人間が降りてきた。……これは驚いた。
「クロード様、貴方も帰ってきておられたのですか……!」
「久しぶりじゃな、フリード」
「嘘……! 御主人様が、敬語を……!?」
エミリアも別の意味で驚いているようだ。それも主に失礼な方向で。
そこにいたのは、『ユグドラシル』ギルドマスター、クロード・マクスウェル様であった。
*
「フリードや、ついにギルドを設立したと聞いたぞ。その若さで設立するとは、やはりわしの眼に狂いはなかったようじゃ」
「はい、ありがとうございます。……クロード様も王都にいらしたのですね」
「つい先日、ローズと共に戻ってきたとこじゃ。まあ、また明日には別の支部に出発せんといかんがの」
クロード様は白いひげを撫でながらほっほっほと笑う。
Aランクギルドレベルだと、各都市に支部を抱えている。クロード様は各地を巡りながら、仕事の様子を見ているのだとか。もう相当な歳のはずなのに、老いを感じさせない方だ。
「しかし、本当に惜しいのう。お主ほどの男がギルドに加入してくれれば嬉しいんじゃが」
「評価いただいて、感謝いたします。ですが、私にはやりたいことが……」
「ほっほっほ、わかっておるよ。……出発の準備があるのでな、すまんがそろそろ失礼する。ルナも寂しがっておるし、たまに会いに来てくれると嬉しいぞ」
「マスター、ルナは別に……」
反論しようとするが、頭を優しく撫でられて、声を失う。
クロード様はまたゆっくりと階段を昇って去って行かれた。
「……撫でて貰えてよかったな」
「大きなお世話です!」
*
「さて、本も返したことだし、新しいのを借りていくか」
「この期に及んでまだ借りていくですか……」
「2人も借りてみたらどうだ? 家事ばかりだとやることないだろう」
「勝手に貸すなです!」
「あはは……。私たちは今回は遠慮しておきますね」
どうやら調子に乗りすぎたか。
「やれやれ、じゃあオレだけ借りるか……。ルナちゃんは今何を読んでるんだ?」
本をちらりと見ると、『人竜戦争・上』と書いてあった。
「面白そうだな。じゃあオレは『中』と『下』を借りていくか」
「くだらない嫌がらせは止めるです! もう、とっとと帰れですーっ!!!」
少女はついに怒りの声を上げる。どうやらからかい過ぎてしまったようだ。
今度は詫びを持ってこなければだな。
*
オレたちは追い出され、自分たちのホームへ帰っていた。
「結局、一冊も借りれなかったな」
「御主人様、あれは怒られても仕方ないですよ……」
「それにしても、クロード様はなんというか、凄い方でしたわね。優しそうなのに威厳があるというか……オーラが違いましたわ」
……それは、オレと比較してなのだろうか。
「まあ、そうだな。オレが尊敬する数少ない人物の一人だ。魔法も間違いなくオレより強いしな」
「ご、御主人様より強いんですか!?」
オレの言葉にエミリアが驚く。
「学術系ギルドだから、戦闘は苦手に見えたか? あの方の魔法『天地創造』は確実に国の5本指に入るぞ」
「『天地創造』……。名前からして凄そうですわ」
ルイーズはごくりと唾を飲み込む。
「……御主人様は本当に最強ギルドを目指しているんですか?」
「なんだ、怖気ついたのか? まあ、武力のあるギルドが最強ギルドではないとオレは思っているがな」
「最強のギルドとは何なのでしょうか」
「オレは最強ギルドは、人に最強と認められたギルドだと思っている」
「???」
「ふっ、その意味はそのうちオレが教えてやろう」
疑問符を浮かべるエミリアにオレは含みを持たせて笑うのであった。




