第18話 2人目
「ご連絡、ありがとうございます、フリード様!」
「ああ、来てくれてありがとう」
オレはエミリアが呼んでくれた衛兵たちと話をしている。
ハンスのおかげでオレたちのことは知られており、詰所からすぐに飛んできてくれたようだ。やはりコネクションは大事だな。
……30人は来すぎな気がするが。
「では、連行しますので、これで!」
「よろしく頼む」
「ははっ! ……来い、セルバンテス・チャンドラー! 貴族への暗殺未遂で、取り調べさせてもらうぞ!」
「……くそっ」
お前、そんな本名だったのかと突っ込みたくなったが、もう顔も見たくないのでやめておく。
兵士たちがぞろぞろと慌ただしく出ていくと、屋敷に沈黙が広がる。
「……ルイーズ、オレたちも帰らせてもらうぞ」
「ええ……」
ルイーズは涙は止まったようだが、表情は暗い。後ろ髪を引かれる思いだが、エミリアとその場を後にする。
「ルイーズ様、大丈夫でしょうか……」
「気になるが、どうしようもないな。心を落ち着けるには、時間をかけるしかない。……また明日、顔を出してみるか」
*
帰り道。
特に長くもない道を歩きながら、まだルイーズのことを考える。
……そういえば、使用人も居ないのに置いてきてしまったな。夕食ぐらいは誘うべきだったか?
「フリード!」
思案していると、後ろからルイーズの声が聞こえる。
どうやら追いかけてきていたようだ。
「ルイーズか、どうした?」
「その、私……!」
何かを言いに来たはずだが、言葉が止まってしまう。
一瞬の沈黙が苦しくなったので、こちらから声をかけることにした。
「そうだ、言い忘れていたことがあった」
「え……?」
「ルイーズ、うちのギルドに来ないか? 使用人もいないのだろう? 今なら3食昼寝付きだぞ」
せめて、使用人を雇うまでだけでもと思ったが、その言葉を聞いて目に涙を浮かべている。
「なんだ、また泣くのか? オレに誘われてそんなに感動したか?」
「な、泣いてなんかいませんわ! そ、それに、私なんか迷惑をかけるだけで、何の役にも……」
執事の言葉がまだ胸に刺さっているのだろう。勝気な性格はしおらしくなってしまっている。
「狼男と戦った時、最後に助けてくれただろう。お前の魔法は魅力的だ。オレの最強ギルドにふさわしい。また、オレを助けてくれ」
これは励ましでなく、本心だ。
今後、オレの魔法だけでは勝てない相手が、必ず現れる。そんな時、助けてくれる仲間がギルドには必要だ。
ルイーズはごしごしと目を擦る。
「……わかりましたわ。このルイーズ・リシャール、貴方のギルドに力をお貸ししますわ。だから……」
「だから?」
「だから、これからも私を、護衛してくださいませ!」
顔を真っ赤にして、ルイーズが叫ぶ。
「おいおい、オレが助けるのか? ……まあ、わかった。これからもよろしくな」
オレが右手を差し出すとルイーズは少し逡巡するが、ギュッと力強く握り返してくれた。
「御主人様、ルイーズ様もいることですし、せっかくなので豪華な夕食にしませんか?」
「そうだな、帰りにたくさん食材を買って帰るか。ルイーズ、早速オレを助けてくれ。食材はオレが選ぶから、荷物を持ってくれるだけでいいぞ」
「ちょっと、なんで私が力仕事ですの!?」
ルイーズはいつもの調子に戻っている。元気になったようで良かった。
「仕方ないな、魔法を使っていい。オレがお前の腕を操作して荷物を持ってやる」
「結局一緒ですわ!」
くすくすと笑うメイドを尻目に、オレたちはくだらないやり取りをしながら歩くのだった。