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自然散策部ではなく異世界調査部だったりします  作者: 雪だるま弐式


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第76回活動報告:パン屋の今後

パン屋の今後



活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員



僕たちは、改めて詳しく、ツーチたちが教えていた弟子というか、お手伝いさんのことを聞いている。


「……ふむふむ。話を聞く限りは、もうパン屋は僕たちの手を離れてもやっていけそうな感じだね」

「みたいですね」

「でもさー。ツーチたちを疑うわけじゃないけど、ゼイルさんとかにちゃんと話を聞いた方がよくない? それに、試食も」

「まあ、そこは越郁君のいう通りだね」

「とりあえずは、ツーチたちからの評価は上々ってことでいいんじゃないか?」

「そうだねー。まずはツーチたちからの評価はOKっと」


何やら越郁はノートに書き込んでいる。

のぞき込んでみると、弟子評価表とか書いて、さっき言ったツーチたちからの評価はOKで書きこんでいた。

……なにを馬鹿なことをと思ったけど、この家を預けることになるんだから当然のことかな?

下手な人にはこの家を預けられるわけがない。


「で、ゼイルさんや本人たちの評価をする前に、とりあえず、3人に聞いておき回事がある」


先輩はそういって3人を見る。


「ツーチたちは、未だに僕たちについてくるかい? まだ間に合う。普通にこのパン屋を経営する店長をやるって方向もまだ残っているよ?」


そう。これが最後のチャンスとは言わないけど、ツーチたちはこの機会を逃すと、里中先生の地獄の特訓が続くことになる。

まあ、どういうふうに継続するかは、学校は始まる以上わからないけど、先生が、楽な訓練をしろと言うことはないと思う。

それが越郁もわかっているのだろう。余計な口出しをせずに、先輩とツーチたちの様子を伺っている。

だけど、ツーチたちは少しもためらうことなく……。


「格別のご配慮に感謝したします。ですが……」

「私たちにそういうのはいいよ。だって……」

「ずっと、ゆーやさまたちについていきます!!」


アンの言葉に2人とも頷く。

やっぱりというか、3人に迷いはない。


「うん。おそらくはそうだろうとは思っていた。だけど、僕たちは信頼しているのとは関わらず、節目とか機会があれば何度も聞くよ。ずっと同じ状況なんてのはありえないからね」


先輩のいう通り、何が起こるかわからないのが人生だ。

いつまでも、ツーチたちが付き従ってくれると思ってはいけない。

彼女たちだって、一個人だ。彼女たちの人生がある。


「そんなことはありえません!! 絶対の忠誠を捧げます!!」


先輩の言葉にツーチだけが激しく反応する。

何か鬼気迫るものがある。


「お、おちつけよ。ツーチ。私たちが何度聞かれてもついていきますって言えばいいだけだろう?」

「そ、そうですよ」


その様子に、ファオンやアンも驚いているようだ。

僕や越郁も絶叫するようなツーチの反応に驚いて何も言えないでいたけど、先輩だけは違って……。


「ツーチ。別に私たちから離れることは、裏切りじゃないんだよ?」

「ですが……!!」

「ま、そういう所も含めて、色々考えるといいさ。人は成長するからね」

「……」


なんか、先輩はツーチのことを色々知っているような感じで、ツーチもそれ以上は何も言ってこなかった。

……うーん。僕も事情を聞いておくべきかな?

普段冷静なツーチがあれだけ取り乱すのはおかしいし、なにかフォローできるかもしれない。

そんなことを考えている間に、先輩は話を続ける。


「さて、気持ちは分かった。だけど、ツーチも、ファオンも、アンもだけど。先生の訓練は甘くないよ? やるんだね?」

「「「はい」」」


3人は変わらず、即答で返事をする。

とりあえず、この調子なら、先生の訓練は続けられそうだ。

ああ、あそうか。僕たちの不安は少しでも弱音が見えると、きっとそこから彼女たちが折れてしまうんじゃないか? って言う不安があったんだ。

だから、先に楽な道、といってもパン屋も厳しいとおもうけど、それを提示して決意に乱れがないか確認したんだ。

途中で投げ出すと、先生がどんな対応とるか想像つかないからね。

監督責任の僕たちに何かお咎めがあるかもしれないし……。

と、そういう話はいいとして。


「じゃ、これからゼイルさんの所に行きますか?」

「そうだね。お礼と、売り始めた経緯とかちゃんと聞かないといけないし」

「うえー。面倒そう。でも、いかないとねー」


越郁も面倒といいつつも、ちゃんとしないといけないというのはわかっているのか、ちゃんとゼイルさんのとことについてきて、僕たちと一緒に、ツーチたちに店を任せたときのことや、派遣してくれた店員たちの話をちゃんと聞いていた。



「……と、あんな感じで、店で働いた連中は、しっかりしている。元々、そういう所で働いていた連中だからな」

「なるほど。で、販売したパンとかはゼイルさんから見てどうでしたか?」

「こういってはなんだが……。正直、あの連中の方が、パンは作りは上手いな」


ゼイルさんは言いにくそうにしていても、はっきりとその事実を言う。


「な!? なにを!!」

「なんだよ、おっさん!!」

「ひ、ひどいです!!」


僕たちが反応する前に、ツーチたちがゼノンさんのはっきりとした答えに怒るが……。


「いや、そりゃそうでしょ。私たちは本職パン屋なわけないし、前パン屋をやってた人たちなら、数日やれば、私たちより上手く、美味くなるに決まってるじゃん」


その通り、どう考えても、同じ材料を使ってパンを作るのならば、パンを作り続けた月日がものをいう。

僕たちのように、付け焼刃で対抗できるわけがないのだ。


「って、あれ? ツーチたちってパン屋さんになるの?」

「あ、いえ、そういう意味では」

「……えーと、言われてみればその通りだよな」

「でも、私たちのしゅーにゅーが……」


ああ、アンの心配は尤もだ。

一応、パン屋は僕たちがこのリーフロングで安定した収入を得るために作ったものだ。

いくら、冒険者として稼げるからと言って安心できないし、噂集めの拠点として用意したのだ。

まあ、元々、アンたちが僕たちについてこれないってなった時にちゃんと食べていける働き場として用意した意味合いが今では強いけどね。


「お金のことは気にしなくていいよ。君たちが、これからも私たちに力を貸してくれるなら、先生の方から色々とりなしてくれると思う。雇用制度で色々話を聞いてみるよ」

「ああ、そんなのあったね。というか、せんせい自身がその雇用制度での採用者みたいな話だったし」

「なるほど。ツーチたちもその方向でってことですね?」

「まあ、それは最終的な目標かな? 僕たちでさえ、まだ見習いだからね。まずは話をするだけだよ。ただ、一緒にいたいだけじゃ、話は通らないだろうからね」

「「ああ」」


2人で納得する。

子犬や子猫を拾う感覚じゃダメだよな。

だからこその、再度意志確認か。

これからの訓練はおそらく、異世界管理局の一員としての訓練になるかもしれないからだ。

ただ、僕たちの後をついてくればいいという話ではないのだ。


「ということで、ゼイルさんの話はこっちにとっては喜ぶべきことで、好都合です」

「ふむ。よくわからんが、マンナ様の所で、ツーチたちは色々訓練をするわけか。だから、パン屋のことはパン屋にということでいいか?」

「ええ。ですけど、問題はパン屋というか、僕たちの拠点でしか使えない道具があることですかね?」

「ああ、見事な魔道具のことだな。あれはまさにパンを焼くためにだけに作られたような物だったな」


いえ、本当にパンを焼くためだけに作られたオーブンです。

と、素直にいえないのがちょっとアレだな……。


「あれを使わずに、彼らが同じようなものが作れるかというと……」

「うむ……。難しいだろうな。あの魔道具は一度に沢山作ることにも特化している。同じような窯は今の所存在しないし、火加減もある、この5日間のように生産はできないか」

「ですよね。ということで、一階部分を貸し出して、そのままパンの生産に使うというのはどうですか?」

「こっちとしては、貴重な魔道具を使わせてもらってありがたい話だが、何か条件があるのか?」

「ええ。魔道具の貸し出し、使用料、家の維持、それに新しいパンを作ったということで、利益の何割かもらえますか?」

「ふむ。なるほど。そうすることで、一定の収入と、家の管理もということか」

「ええ」


これは、家を出る前に3人で話していたことだ。

ツーチたちが、僕たちについてきて、しっかり訓練をするとなれば、一応異世界管理局の技術で家は保護してはいるが、人の住まない家は劣化が早いし、もったいないということで、話を聞いて問題ないと思えば、パン作りの拠点として、魔道具というかオーブンやパン作りの道具一式を含めて貸し出すということで話がまとまっていたのだ。


「金額にもよるが、受けていいとは思っている。なにせ、今まで色々お世話になっているからな。リーフロングとしても、商業ギルドとしてもだ。いい商品をさんざん回してもらっているからな。これからも、頼めるんだろう?」

「もちろん」

「なら、喜んで引き受けよう」

「上の私たちの私室は立ち入り禁止でお願いします。まあ、魔術的な鍵もかけていますから問題ないでしょうが」

「わかっている。そこらへんは厳命しておこう。で、具体的な金額だが……」

「それは……」


そこからはしばらく、金額の提示と契約という感じで進んでいった。

ちゃんとした書面で残すから、そういう意味でもゼイルさんは信頼がおける。


「よし、これで契約は結んだ。これで、ヒビキ殿たちの家やお金の方は問題ない」


契約書類の確認が終わって、僕たちの分を渡してくれたのだが、余り優れない顔で、話を続ける。


「だが、陸竜の件は色々きな臭いな」

「あ、聞いたの?」

「ああ。昨日の報告会には私も顔を出したからな。リーフロングの主要人物は参加している」

「ということは、ガーナンのおっちゃんももちろん知ってるのか」

「ああ。ナラリー様の報告を聞いてご満悦だったな。コイク殿が上手く周りの繋ぎをやってくれて、スムーズに調査が出来たと言っていたぞ」

「そっか。それならよかった。でもさ、問題は陸竜の話でしょう? どうなりそうなの?」

「……一応、足跡を追う調査隊を別に送るそうだ」

「冒険者の出番はなし?」

「冒険者を雇うと高くつくからな。陸竜は1体だけだったようだし、草原を移動するのに、大人数はいらない。ついでに、他の領地だったりすると、冒険者よりも、リーフロングの兵士であるほうが動きやすいからな。領主などから情報を集めるのにもな」


なるほど。

僕たち冒険者だと手間取りそうなところをすんなりいけると。

まあ、そもそも、この辺りの勢力図を知らない僕たちに追跡を任されてもどうしようもないんだけど。それに、追跡する時間もない。


「じゃ、僕たちはフリーってことかな?」

「ああ、そうなるはずだ。というより、リーフロングの町にいる兵士や冒険者たちはもともと不帰の森からくる魔物に対抗するためのモノだからな」


ああ、そういえばそうだった。


「なら、よかったです。ゼイルさんに言ったように、しばらく戻ってこないので」

「ああ、任せてくれ。で、明日から使ってもいいのか?」

「はい。これが一階のカギです」


そういって、先輩がパン屋のカギを渡す。


「確かに受け取った。問題があるとすれば、ジャムか……」

「ジャムの方は、まだおばあさんは元気そうですし、とりあえず、数日いない程度ですから、足りなくなるとは思いませんが?」

「そうだがな……。あの年寄りだ。いつぽっくり逝ってもおかしくないだろう? 結局、ヒビキ殿たちは定住はしてくれそうにないようだし、まあ、そちらがちゃんと定期的にジャムや薬を仕入れてくれることを祈る」

「うーん。そこらへんも含めて先生と話してみますね」

「ああ、頼む。特に薬はリーフロングで何かあったときには死活問題だからな」


そんな感じで僕たちは、今後の家の管理などを任せて、各所に挨拶を済ませたあと、一路、先生の所へと戻るのであった。




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