第74回活動報告:帰還
帰還
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
「思ったより続ているねー」
「そうだなー」
そんなことを言いながら、越郁君と勇也君は馬車が通ったであろう道を進んでいく。
あのあと部隊をまた二つに分けて、調査することになり、僕たち3人は馬車の跡を追うチームへと分けられた。
森の近くの調査は、ラナさんとサラさん、ドーザさん、領兵の皆さんが引き受けてくれた。
そこを合流地点として、僕たちが遠征しているような感じだ。
まあ、それも仕方のないこと。
ナラリーさんたちが持ってきた馬車で背の高い草原を進むのは一苦労だからだ。
なので、簡易テントをもってアイテムボックスを使える私たちが選ばれたのは当然だろう。
ちなみに、今回の僕たちのチームの詳細は、ナラリーさんをリーダーをして、僕たちに輝きの剣のみんなだ。
森の方には陸竜はもういないだろうという判断からだ。
やっかいなのは、この馬車の跡を追うほうなので、戦力を集中させたのだ。
「そういえばナラリーさん。この方向に、町とかはあるんですか?」
不意に思ったが、馬車の跡があるということは、人がいるころから運んだということだ。
つまりは、村や町から調達してきたということ。
陸竜自体は分からないが、馬車を手に入れるには村や町でないと手に入らないだろうし、長旅をするにも、どこかで食料の補給はしないといけないのだ。
つまり、この馬車の跡を追えば、どこかの村か町に必ず着くことになるはずだ。
それで、近隣の村や町をナラリーさんが知らないわけがないだろうと思って聞いてみたのだ。
「えーっと……。申し訳ないですが、よくわかりません。しばらく、リーフロングを離れてもので、新たに村が出来たとなどの報告は受けていないので、何もなければこの方向には、かなり行ったところに町があるだけです」
ああ、そうか。
ナラリーさんは王都へ勉強をしに行ってたんだったか。
となると、ここ近年のリーフロング一帯の事情は知らないか。
あくまでも、今回の仕事は森の中に陸竜がいないかって言う調査だし、他の村や町まで調査をするという話ではない。まあ、陸竜がどこから来たかというのをはっきりさせることも含まれるけど、森の中で自然発生したわけでなく、誰かが持ち込んだというのは確定だから、今のままでも十分の調査しただろう。
というか、物資的に森を一周分しか用意していないし、この調査は余計なのだ。
「かなりってどのぐらい?」
「確か、約2週間は行ったところで、リーフロング外の管轄になります」
「あ、違う管轄なんだ。となると、調査はしにくい?」
「ええ。そこの領主と一度話をしてということになります」
それはずいぶんと面倒なことになりそうだな。
他の領主の町から陸竜を乗せた馬車が来たかもしれないのか……。
「今深く考えてもしかなたいよ。別の方向に続いているかもしれないし、まずは後を追おう」
「そうね。アノンのいう通り、まだその町に向かっているってわけじゃないし」
「だな。まずはどこまで続いているか確認だ。思わぬ方向に向かっているという可能性もある」
輝きの剣のみんなのいう通りだ。
まだ、隣町から馬車がきたというわけでもない。
憶測で考えても仕方がないのだ。
「そうですね。まずは、できる限りこの馬車の跡を追いましょう。制限時間は片道3日です。森の方に残っている人たちも詳しく色々調べているのですから、私たちがあきらめるわけにはいきません」
そう。残っているラナさんたちも地道な調査をしているのだ。
あれこれ勝手な推測を建てて戻るわけにはいかない。
ちゃんと、時間いっぱいまで、調べないといけない。
それから、3日間ほど馬車の跡を追ったのだが……。
「ここまでですね」
ナラリーさんは残念そうに、馬車の跡が続く道を見ながらそういう。
結局の所、馬車の跡を追ってみたが、3日以上、草原の中から出ることはなく、未だに馬車の跡は続いていくだけだった。
正直な話、すぐにとは言わないけど、近々どこかの道へ出るかと思っていたんだけどそうならなかった。
馬車の速度とはいえ、なにせある程度道を切り開きながら進んでいるのだから、そう長い間そんな面倒なことをしていないだろうと思っていたのだ。
だが、結果は僕たちが軽く走って3日も経つが、未だに草原の中。
まあ、よくよく考えれば、当然だといえる。
なにせ、陸竜を森に解き放つという行為は、犯罪行為だ。
そう簡単に足をつかませるようなことはしないだろう。
「みなさん引き返します。これ以上の追跡はできません」
そう言われて、僕たちは森の方へと戻ることになった。
「でさ、よく分からないんだけど、結局あの馬車のあとはどこに続いてたの? 隣町?」
「……いえ。隣町ではありませんでした」
「ナラリーさまのいう通り。隣町から馬車がきたのなら、既に町が見えておかしくないからな」
「私たちが走ったんだから、それぐらいの距離もう走ってるのよ」
「そうそう。だから、恐らく他の所から来たんだろうね」
帰り道、越郁君が気になっていたことを質問したが、町は近くなく、知らないところをずっと走っていたようだ。
となると、隣町ではなくまた別の所から陸竜が引っ張られてきたというわけだ。
「でも、よく陸竜はそんな長い間大人しくしていましたね」
「ああいう魔物は基本的に一か月は食べないでも平気だからな。それに、寝かさ手いなければ馬車で作った檻なぞ、すぐに壊しているだろう」
「スィリナのいう通りではあるんだけど。そんな危険物をわざわざ運ぶって言うのが不思議よね? 寝かせられるなら、倒すのも簡単でしょうに」
「あー、ナーヤのいう通りだね。ふしぎー」
勇也君の疑問にはスィリナさんが答えるが、逆になぜそんなことをしてまで生かして運んできたのかという疑問に突き当たる。
「……とりあえず。森のラナさんたちと合流して、戻ってから考えましょう」
ナラリーさんのいうように、ここで考えても何も進まない。
何か、他に情報が集まっているかもしれないし、まずは戻ってからだ。
そういうことで、駆け足で戻り、1日半ほどでラナさんたちと合流を果たし、全員かけることなく、一度村へと帰還した。
「おお。皆さまよくご無事で」
村の人たちは、村長を筆頭に普通に暖かく迎え入れてくれた。
村の方も、この調査の期間、約10日ほどだが特に何もなかったようだ。
とりあえず、森の中に陸竜の姿はないことや、ゴブリンなどの脅威の低い魔物や動物が戻ってきていることをいうと、喜んでくれた。
「喜んでいるところ申し訳ないのですが、あくまでも私たちが見た限りです。この森全域をくまなく調べたわけではありませんので、まだまだ安全とは言えません」
「ええ。それはわかっております。ですが、どう考えても以前よりはましでしょう。これで浅い範囲での狩りも再開できます。これを喜ばすに、そしてお礼を言わずにはいられません。本当にありがとうございます」
そう、お礼を言われたナラリーさんは少し恥ずかしそうで、心配そうにしていたが、これ以上何かを言っても仕方ないとあきらめたのか素直にお礼を受け取っていた。
「何かあれば、私、ナラリー宛に陸竜の村からということで、連絡をしてもらえればすぐに対応できると思います」
「冒険者ギルドの方でも構いません。ラナという名前で同じように陸竜の村と言ってもらえば、すぐに対応してもらえます」
「色々なご配慮本当に感謝いたします。と、今日はお疲れでしたな。ささ、お早くお食事を済ませてお休みください。明日はすぐに町へと戻られるのでしょう?」
「ええ。そのつもりです。本日はお世話になります」
「どうぞ、ごゆっくり」
そんな感じで、僕たちの調査は村の人たちにとっては嬉しい出来事だったらしく、笑顔があふれていた。
話を聞く限り、陸竜の危険がないってわかったから、当然だよね。
これで狩りができるようになるんだから。
そんな風に村長さんとナラリーさん、ラナさんのやり取りを眺めていると、村長さんがこちらに近づいてきて……。
「輝きの剣のみなさま、そして、ヒビキ様たちのおかげで、迅速に森の安全が確保されました。本当にありがとうございます」
「いえ。お気になさらず」
「そうだよー。というか、これからどうなるかは村長たち次第だしね」
「ははっ。そうですな。しかし、何かありましたら遠慮なくご相談ください。出来うる限り協力させていただきますぞ」
僕たちはどうやら、村の信頼も勝ち取れたらしい。
異世界に来てから、リーフロングだけの活動だったけど、これでそれ以外の交流もできたわけだ。
最初は、ただの仕事と思っていたけど、案外、異世界調査員としては大きな収穫かもしれないね。
これからは、大きく活動範囲が広がるきっかけかもしれない。時間とは要相談って感じになるけどね……。
まあ、そこはいいとして、その日は村の厚い歓迎で休んでから、僕たちは町へと戻るのであった。
「おー、懐かしき、我が家だー」
越郁君の声で、僕たちはリーフロングへと戻ってきたと自覚する。
草原の先に、ぽつりとそびえる石の壁。
リーフロングの防壁だ。
しかし、今更だけど、こんなだだっ広い草原のどこに岩があったんだろうと不思議に思う。
これだけの防壁を作るには、それなりどころか大量の石が必要だ。
つまり、どこか大規模な石切り場から持ってきたということになる……。
今更ながら、本当に外にでてから見えるものがあるんだなーと思う。
後日聞いた話だが、石をどこから調達したのかについては、このリーフロングが大きな岩山だったらしく、それを切って、リーフロングの城や防壁に使ったそうだ。
だが、今はそんな話より……。
「皆さん。今回の調査に協力いただき本当にありがとうございました。おかげで貴重な情報が手に入り、物資の消費も抑えられました。冒険者の皆様はギルドで報酬を受け取りください。領兵の皆は、城に戻ってから存分にやすんでくれ。少しではあるが、父上に掛け合っていい物を用意させてもらっている。まあ、コイクたちのモノよりはランクは落ちると思うが」
「「「あはは……」」」
そんな会話で多少は空気は柔らかくなったし、ナラリーさんの言っていることは事実ではあるが、問題が解決したわけではない。
より面倒な事実が浮き彫りになったので、ナラリーさんにラナさんはこれからさらに忙しくなるだろう。
しかし、今は仕事が終わったということでみんな明るい。
私がわざわざ水を差す必要も感じないので、ナラリーさんたち領兵のみんなとは、門で別れて、私たちはラナさんたちと一緒にギルドへ報告に戻る。
「特に町に変わりはないようですね」
ラナさんは街並みを見てそう呟き、僕たちも辺りを見回して、ほっとする。
森で見た得体のしれない状況から、何か町にあるのでは? という不安が内心拭えなかったんだろう。
僕たちはいつもと変わらないリーフロングの街並みを確認しながら、冒険者ギルドへと戻る。
「みんな、よく戻ってきたな」
そういって出迎えてくれたのはモッサギルド長だった。
「ラナ。どうだった?」
「色々と報告することは多いですが、冒険者の皆様は立派に仕事をこなしてくれました。追加報酬などは話し合って決めるとしまして、まずは旅の疲れがあるので……」
「わかった。詳しい話を聞くのは、後日というこだな。では、成功報酬を受け取ってくれい。今日は、もう帰ってゆっくりと羽を伸ばすとよい」
最初からそのつもりだったのか、他の職員がすでに報酬を用意していて、僕たちに渡してくれ、ギルドカードに仕事完了の処理をしてくれた。
とどまる理由もなかったので、僕たちは、そのまま家に戻り……。
「おかえりなさいませ」
「おっかえりー」
「おかえりなさい」
久々のツーチたちの元気そうな顔をみて、スィリナやサラたちと一緒に、仕事完了のお祝いをするのであった。




