第66回活動報告:不安は色々
不安は色々
活動報告者:宇野空響 覚得之高校二年生 自然散策部 部長
とりあえず、お城での話し合いは表向き問題なくおわった。
僕たち冒険者たちは先にお城を出て、明日の準備を始めることになったのだが……。
「ねえ、サラ、スィリナ、ちょっといい?」
「何、コイク?」
「どうした?」
「ナラリーのことどう思う?」
「「……」」
道中不意に越郁君がナラリーのことを聞かれて、2人だけでなく、全員が沈黙する。
「……流石に、こんな人の多い所では言えないわね」
「……サラと同意見だな」
「そっか。じゃ、うちで話そう。と、その前になにか準備するものとかある?」
「そうね。足りないものは多少あるから、買い物が終わったあとにコイクの家に行くわ」
「そうだな。私たちも先に買い物を済ませる」
「あいよー」
そういって、輝きの剣やサラ、ドーザと別れて家に戻ってくる。
「あ、おかえりなさいませ」
「おかえりー。話はどうだった?」
「お水をお持ちしますね」
家に帰るとツーチたちがパン作りをしていて、ばたばたしている。
だが、なんというか、こっちの方が正直安心できる。
アンがお水を持ってきてくれる姿には癒される。
「おー、ありがとう。あ、そうそう。ゼイルさんには、パン屋の方へのフォロー頼んでおいたから。後日、人が来て教えてくれって言うと思う」
「はい。かしこまりました」
「だけど、今日はたくさん作って、その在庫を数日売るってさ」
「うげー。どれだけ作ればいいんだ?」
「沢山は作れませんよ?」
「うーん。正直な話、ツーチたちは残るし、自信があるなら、ゼイルさんに見てもらってパンを卸してもいいと思うけど、ゆーやにせんぱいはどう思う?」
「ゼイルさんを通すならいいと思う。先輩はどうですか?」
「僕はどうかと思うな。だって、人に教えながら、販売用のパンを拵えるってのは結構大変だよ?」
「「「あー」」」
僕の意見にみんな同意したので、結局ツーチたちが残っている間は、パン作りを教えることだけに集中してもらうことになった。
まあ、約一か月もあるから、商品になりそうなら、そのまま販売はしていいという話もしておいた。
ゼイルさんのOKが出ればの話だけどね。
「ま、パンの方はそれでいいとして。森の調査の件だけどねー」
「はい。どうなりましたか?」
「約一か月、20日間ほど調査に行くことになったんだ」
「20日ですかー。長いですね。私たちはどうしましょうか?」
「パンの方の作り方を教えつつ、夜は先生に色々教えてもらうといいよ。事情は説明して、時間は短くするようにはいってあるから。無茶な訓練はしないと思う。たぶん」
「「「……」」」
皆なにも言わなかったけど、それは淡い期待だと思ったんだろうな。
僕も、無茶な訓練はしないといっても、時間に間に合うだけで、内容はハードな気がするからね。
まあ、そこはいいとして、なにかあれば、先生に相談するといいとも言ったから、トラブルがあっても解決できるだろう。まあ、先生を頼る前に、ゼイルさんやモッサさん、ガーナンさんを頼るだろうから、そこまで問題はないだろうけどね。
先生が出てくるようなトラブルなんて、軍隊でも来ない限りないんじゃないかな?
「ともかく、パンのことや先生の訓練はツーチたちの頑張り次第ということで」
「「「はい」」」
そんなことを話していると、スィリナたちやサラたちがやってきた。
どうやら準備が終わったようだ。
「思ったよりも早かったね」
僕はそういって、スィリナたちの様子を見るが、特に大荷物を抱えてることはない。
何の準備をしに行ったのだろうか?
「まあ、今回は食料などは領主持ちだしな。武器も村の仕事では出番もなかったから、鍛冶やに見てもらったぐらいだな」
「多少、自分の好みの干し肉とかを買っただけだね」
「あとは、サラたちを連れて、アレの情報収集ね」
ああ、アレね。
僕たちが苦笑いしていると、ドーザが口を開く。
「アレとは言いたくないが、流石に会議の席であれはなー」
「ドーザのいう通りだな。それで、普通なら一応自分たちの食料は用意しておくのだが、今回はわざと無しで行こうということになった」
ああ、なるほど、それはいい。
僕はサラとドーザの意図を理解したが、越郁君はよくわかってないみたいで……。
「なんで?」
と、聞き返していた。
僕が説明しようかと思ったが、勇也君がすぐに説明を開始した。
「アレだよ。コイク。いじわるで御飯を僕たちにわけないとかするかもしれないってこと」
「ああー。それで、私たちは食料を持ってきてないって理由で帰るんだね」
「そうそう。そんなことでいじわるされたら、とてもじゃないけど、森で調査とかできるわけないからな。ですよね?」
勇也君が周りにそう聞くと、全員頷く。
「ユーヤのいう通りだ。そんなことをされると、背中の心配もしないといけないからな。そんな相手と仕事はできない」
「いるよねー。お貴族様の指示に従えっていうの」
「まあ、若いからと思いたいわね」
スィリナたちはどうやらあの手の人を見たことあるようで、不快だという態度を崩していない。
実害があったんだろうなー・
「無論、モッサギルド長にはそう伝える。というか、同じような手を打っているかもしれない」
「ラナさんもいるし、問題があれば、冒険者ギルド側で勝手に調査ってことになるかも。ナラリー様が率いる領主兵は私たちのことをしっているから、そう無茶なことはしないと思いたいけどね」
「僕たち冒険者たちだけで調査ね……。それはちょっと厳しいね」
「でしょう? かといって、ナラリー様がいやがらせしたからって調査をしないってわけにはいかないからね。まあ、何も問題がないことを祈りましょう」
「「「はぁー……」」」
そういって、冒険者全員でため息をつくと、ツーチたちだけが首を傾げることになった。
「あの、そのナラリー様が何か問題でも?」
「なんかトラブったの?」
「危ないんですか?」
「ええとね……」
流石に、ツーチたちは身内だし、これからナラリーさんとも顔を会わせる可能性があるから、会議でナラリーさんが起こした行動を説明する。
話を聞いていた、ツーチたちは徐々に不安そうな顔になる。
「それは、仕事を引き受けて大丈夫なのでしょうか?」
「いるよなー。そういうの。コイク様たちも気をつけなよ?」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「ごめんね。かえって不安にさせちゃったかな。でも僕たちなら大丈夫さ。ほら、先生の教え子だしね。問題は、僕たちがいない間にツーチたちに嫌がらせがあるかもってことだね」
僕がそういうと、納得した様子になり、次に顔が青ざめる。
何かあるとしたら、僕たちではなくツーチたちにということを理解したんだろう。
「せんぱい。そんなに脅かさなくても。ま、初めての調査指揮とかをお父さんに任せられて、ちょっと空回りしているだけだよ。案外、調査に出れば素直になるかもよ?」
「だと良いがな。と、それよりだ。食料はもっていかないとは言ったが。流石に何も持って行かないのは心配でな。コイクたちに荷物を隠し持ってもらおうと思っている」
「ああ、スィリナと話し合ったんだけど、私たち5人の飲食料も追加でアイテムボックスに入れててくれない?」
「おっけー」
話は理解できるので、5人の分の食料を入れて置く。
ちなみに、買ってきたのではなく、僕たちの食料から供出ということになった。
使うかどうかわからないからね。
使った分だけあとでお金を支払うという約束。
まあ、そういう理由のほかに、最初に言ったナラリーさんの動きを見るって言うのが一番の目的なんだけどね。
まあ、ここらへんでこの話は終わって、今日の話をするとしよう。
「さて、難しい話はいいとして、晩御飯の準備と、明日納めるパンを作ろうかな。スィリナやサラたちはどうする? 今日は泊まるんだろう? 外で食べてくるかい? それとも一緒に食べるかい? 見ての通り忙しい食事になると思うけどね」
僕たちは夕食を食べたあとは、できる分だけのパンを作らないといけない。
残念ながら、スィリナやサラたちと食後にのんびり話している余裕はないのだ。
そんな慌ただしい中で食事しても落ち着かないだろうと思って言ったのだけれど……。
「外で食べるより、ヒビキたちの食事の方がいい」
「そうそう。私とドーザもスィリナたちからそれを聞いているから、食べていくよ」
「というか、明日荷物を持ってもらうんだ。パン作りでどこまで役に立てるかわからんが、手伝うぞ」
と、僕の予想とは違い、ドーザたちは手伝う気満々だった。
「ついでに、私たちの食べる分のパンも自分で作るかー」
「それいいわね。パン作りの下手な人は美味しくないパンを食べる羽目になるってわけね」
「それは待ってくれ、俺やサラはパン作りなんかしたことないから、上手くできる自信はないぞ!?」
「ん? 私はできるからいいけど?」
「サラ。勘弁してくれ」
「「「あははは……」」」
とまあ、結局みんなで晩御飯を美味しく食べて、そのあとはやっぱりみんなでパン作りをすることになった。
あ、ちなみにドーザのパン作りは思いのほか上手くて、逆にサラのパンがいびつになって不貞腐れたという結果がでたりでなかったり。
そんな風に夜は更けていって、明日の朝を迎えることになった。
「おはようございます。みなさん」
そういって、玄関にいるのはラナさんだ。
わざわざ迎えに来てくれたようだ。
「で、ラナさん。ナラリーさんのことだけど……」
「はい。その話の為に朝早くからよらせていただきました。中でお話してもよろしいですか?」
「あ、うん。お願いします」
越郁君が言いにくそうにナラリーさんのことを切り出すと、ラナさんも分かっていたのかそう答えて、話を聞くために家に招く。
「ナラリー様の件ですがすでにガーナン様に話を通しています。皆さまが帰られたあとで、そのことで話し合っていました」
「で、具体的にどういうことになってるんですか?」
「あ、失礼しました。最悪、ナラリー様が暴走するようであれば、調査でついてくる領主兵が取り押さえて連れて帰ることになっています」
まあ、妥当なところだろうね。
流石に捨てて帰っていいというのはあれだろうし。
「それで、皆様にはそのナラリー様に対して試すような真似。というか、挑発するような行為は控えていただければと思っています。ガーナン様はコイク様たちに挑発させて、鍛えればいいと思っているようですが、陸竜のことを考えれば無駄に労力がかかる様なことはしたくありません」
これも、また当然だね。
ナラリーさんを鍛えるためだけに、仕事を疎かにはしていられないということだね。
しかも、相手が大変だと言われる陸竜が絡んでいるんだから、なおのことだ。
こっちも断る理由がなかったので、承諾する。
「ありがとうございます。ということなので、なるべくナラリー様のことは私が受け持ちます。なにかあれば私にまず相談してください」
「「「わかりました」」」
とまあ、冒険者ギルドの方も、昨日の会議でナラリーさんに不信感をもったわけだ。
まあ、下手すれば冒険者ギルドにも被害が出るんだから当然か。
そんな感じで、私たちは多少の不安はありつつも、家を出て行くのであった。
「あ、ツーチたちはこのままパンの納品ね」
「はい。承知しております」
あ、忘れてた。
ツーチたちは話した通りに、今回は残って、ゼイルさんから派遣される人の教育に当たることになる。
僕たちは僕たちで大変だけど、ツーチたちも大変な20日になるだろう。
さてさて、何事もなく終わるかなー?
と、淡い期待を持ちつつ、僕たちは家を出るのであった。




