第65回活動報告:お嬢様のやり方
お嬢様のやり方
活動報告者:海川越郁 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
なんか、ガーナンのおっちゃんの娘であるナラリーは私のことが気に入らないらしく、怒られて謝りはしたものの、その目は絶対認めねーぞという視線が飛んできていた。
まあ、学生やっててこの手の視線はよくある。
私が彼氏持ちだからって妬んでるやつに似ている。
ああ、それか、ちびっこだからってバカにしてて、運動でまけたやつとかね。
話の流れから察するに、私の実力を知らないからあんな感じになっているんだろうから、あとで実力を見せればいいだけだ。
それで態度が変わらなければまた別の理由と。
ともあれ、今すぐ解決できる問題でもないし、話を進めよう。
「ま、こんななりだからね。疑われるのはよくあることだし、気にしてないよー。で、人数は18名って決まったけど、日数とかはどうするの?」
そう私が話をふると、すぐにガーナンのおっちゃんたちは話を開始する。
「そうだな。あの森を全部探索するというと、一か月では足らんだろうしな」
「一か月どころか、森の地図を作ろうとなれば、一年あってもたりませんな」
「それだけの物資を持っていくのも一苦労ですし、費用も掛かります。あまり長期的な調査は現実的でないでしょう」
確かに、あの森を細部まで調べるっているのは、あまり現実的じゃないね。
それに、僕たちもそんな長期的な調査は手伝えない。
あ、いや、一日置きなら良いんだけど。
そんな怒られそうなことを考えていると、ガーナンのおっちゃんは、席に着いたナラリーに視線を送って口を開く。
「ナラリーならどうする?」
「私なら、ですか?」
「そうだ。この領地経営の役に立つために勉強してきたんだろう? 学者としての意見を聞かせてくれ」
その言葉で、この場全員の視線がナラリーに集まる。
これはアレだね。
娘がどれだけ本気で勉強してきたかためしているんだ。
だって、こんだけの人たちがいて、森の探索をどうしたらいいか分からないとかないもん。
「状況は先ほど向かいの部屋で聞いたな?」
「はい。近くの村の森で、本来存在しないはずの陸竜が出てきて、その陸竜がどこから来たのかなどの詳細を調査するということですね?」
「ああ、その通りだ。調査隊の人数は18名を使って森の調査をする。それにあたって、必要な日数は? 物資は食料以外に何か持っていくものがあるか? 森の調査方法はどうする? 悩むな。すでにこの話は昨日聞いていただろう? ご情報もない。お前の考えを聞かせろ」
おーう。言い訳は許さぬ怒涛の攻め。
さあ、ナラリーはどうするのかなーと見ると、最初は怯えがあったが、それを引っ込めて、私に注意してきた時の力強さを目に込めて、口を開く。
「では、若輩者ではありますが、私の案をお聞きください。まず、調査日数は20日とします」
「20日? 随分と少ない調査期間だな。理由は?」
「はい。一か月程度では森全てを探ることは無理だというのはモッサギルド長が言った通りです。では、一年ずっと森を調査するのか? というのも物資の補給問題や、予算の問題もあります。しかもそれで陸竜の問題が解決するわけではありません。ならば、短い期間で、調べるべき点を絞って調べることで、陸竜の出現理由や、日数、物資、予算を抑えることになります」
ま、それしかないよね。
時間も予算も無限にはないから、絞ってやるしかない。
あとは、その絞ったところにちゃんと理由付けができるかってことだよね。
「ふむ。では、ナラリー様、その調べるべき点というのは?」
次に質問をしたのはモッサギルド長だ。
さて、どんな理由を言うのかな?
「具体的には、森の外周を調べます。理由としては今回の要点は陸竜がどこから来たのか?ということです。つまり、外部から来たのなら、森の外周を調べて行けば、あの巨体です。なにかしら痕跡が見つかるのではないでしょうか?」
「しかし、すでに陸竜を発見して一週間以上。しかもそれはコイク殿たちが発見してからのこと。実際、陸竜が来てからどれだけ時間が経ったのかはわかっていない。それでも痕跡は見つかるとお考えでしょうか?」
「私個人としては、陸竜があの森からきて、間もないと思っています。理由としては、森から魔物及び動物がいなくなったと感じたのは、そちらの冒険者たちがオークの調査をしている間です」
「なるほど。オークの集団の移動を見たときは、まだ陸竜がきて間もなく、他の魔物や動物はようやく逃げ出しているという状態だとみたわけですな」
「はい。ですが、絶対ではありません。まあ、陸竜の巨体から考えると、森にはいるには、多少の木々をなぎ倒さなければいけませんし、跡を探すのはそれほど困難だとは思いません。見つけられないときは、自然に森で発生したという可能性も考えるべきでしょう」
これも納得できる説明だ。
森の中をやみくもに探しても情報が見つかるとも限らないし、足跡などを見つけたとして、同一個体の者か、別個体の者か判断できないし、先輩がトイレで少し離れたときに出くわしたこともあるから、調査隊に危険が出てくる。下手に森の中を調査するのはやめておいた方がいいと思う。
でも、森の外周を調べるとなると、視界不良で不意打ちされることはないし、森の中に入るっている行為から考えて、足跡が同じ物か別物かの判断はしやすいと思う。
で、あとは、物資の細かい仕分けだけど……。
「食料は万が一を考えて、5日分多く持って行くことにします。25日分ですね。他の物資に関しては、替えの靴があればいいぐらいでしょう。武器は各々と言いたいですが、冒険者の方々がいるというのであれば、兵士が使う剣と槍ということになりますが? どうされますか?」
「ふむ。コイク殿、スィリナ殿、サラ殿、ここは兵士の武器を貰っておいた方がいいだろう。陸竜と万が一戦闘になって自前の武器を損耗するのはあまりよろしくない。装備を用意してくれるというのであれば、武器ぐらいは貸してもらったほうがいいだろう。無論、終われば返してもらうことになるがどうだろうか?」
私たちは顔を見合わせたが、武器を貸し出しについてはゼイルさんのいう通りだと思ったので、全員頷いて、兵士たちが使う武器を貸してもらうということになった。
あとは、細かい作戦だけど、現場に行ってからだろうし、ナラリーも説明が終わったらしく、ガーナンのおっちゃんを見つめて……。
「以上が、私が考えた陸竜調査についての案です」
「ふむ……」
ガーナンのおっちゃんは少し考える素振りを見せる。
特に問題はないと思うんだけどな。
そう考えていると、顔を上げたガーナンのおっちゃんは私たち全員を見て……。
「では、ナラリーの案でいいと思う者は?」
そう聞いてきた。
まあ、これも当然か。
賛同を得られないまま勝手に物事を進めると、反発が大きいからね。
「私は特に依存はありませんな」
「私の方も、理にかなっていると思います」
モッサさんとゼイルさんも問題ないと思っているのか、すぐに賛同する。
「コイクたちや、輝きの剣、サラにドーザはどうだ?」
「ん? 特に問題はないと思うけど」
「私も妥当だと思います」
私とスィリナがそう答えて、他のみんなは頷くだけ。
ナラリーの案は満場一致で可決ということだ。
それを見たガーナンのおっちゃんはようやく頷く。
「よろしい。この案で行こう」
「ありがとうございます」
提案が認められてほっとするナラリーだったけど、まだ終わっていなかったみたいで、ガーナンのおっちゃんはにやりと笑って口を開く。
「では、最後にこの調査団のリーダーはコイクとラナとする」
「はぁっ!? ど、どうしてですか!? 作戦を立案した、私がリーダーとなるべきでは!?」
「お前に、陸竜が倒せるほどの実力があるのか? ラナのように、調査場所をしっかりと探索できるのか? いざというとき、みんなをまとめて行動できるのか? 実績は?」
「ぐっ……」
おー、そこでいじめてくるか。
いや、言ってることはこれも尤もなんだけどね。
「戦闘指揮はコイクたちと輝きの剣。そして調査指揮はラナで文句はないな?」
「「「はい」」」
私たちはそう返事をするけど、どうみてもナラリーは不満一杯な感じだ。
「さて、話は大体こんなところだな。ゼイル、商業ギルドはいつまでに物資を集められる?」
「今日中にでも揃えられますが、慌てて出る案件でもないですので、しっかり検査をして、明日の朝でどうでしょうか?」
「よし。それで構わない。みんな明日の朝に集まってくれ。出発だ。他に何かあるか?」
そういって、ガーナンのおっちゃんは私たちを見回す。
「あ、おっちゃん。そういえば、そうなるとパン屋のパンは生産間に合わないよ?」
「流石に、パンを作るためだけに出発は遅らせるわけにはいかないからな。今日適当に作った分を商業ギルドに回しておけばいいじゃないか? どうだゼイル?」
「今回は仕方がないでしょう。コイク殿それで頼む」
「はーい。あーそういえば、話しておかないといけないことがあるんだけど、私たちは、あと30日前後で一旦、不帰の森の先生のところに戻らないといけないから、長引くと一旦離脱って形になると思う」
ただ普通に、パン屋の相談ついでに、長くは付き合えないよーといったんだけど、それにナラリーが反応する。
「何を勝手な!!」
「いや、勝手って言っても、こっちにも用事があるからねー。というか事前に話しているんだし、勝手かな?」
私がそういって、ガーナンのおっちゃんに視線を向けると……。
「いや、勝手じゃなくて当然の話だと思うぞ。ナラリーは何が勝手だというのだ?」
「え? これは、領主からの依頼ですよ? それ以上に大事な用事があるわけないじゃないですか!?」
「「「……」」」
あー、ナラリーはそういうタイプなのね。
偉い人の言うことは絶対聞けってことか。
だが、他のみんなは賛同することなく沈黙している。
「とりあえず。ナラリーがリーダーになることは絶対になしだ」
「な!?」
「ナラリー。お前、リーフロングの在り方を忘れているようだな。まったく、王都に行って多少は勉強ができるようになったかと思えば、代わりに頭が馬鹿になったな」
「なにが不満だったのでしょうか!?」
「不満も何も、そんな態度で人が従うと思うのか? 普通の人なら、このリーフロングの民ならまだお前のそのふざけた態度には、俺の娘ということで従うかもしれんが、他所から来ている冒険者や旅人なんかは、こう思うだろうな。なんて理不尽な貴族の娘だと」
「……」
「それで、冒険者などは去っていくだろう。無駄に命を懸けることになりかねないからな。そして、そんなことが続けば商人や町の人も不安に思う。こんな不帰の森という驚異の隣に町を構えているのに、話を聞いてくれない領主の元にいようとは思わない。いいか、俺たちが領主でいられるのは民あってのことだ。人のいない町の領主などいないぞ。お互いに礼を尽くし、協力し合うのは、このリーフロングのやり方だ。いや、どこの町や国も同じだ。それを忘れれば滅びるしかない。私たち貴族は多くの人を守るという役目を与えられただけだ。それを再び覚えておけ」
「……」
ガーナンのおっちゃんの正論に何も言えなくなったナラリーは俯いてしまう。
あー、でも、何も言えない。
「と、すまないな。バカな娘が済まなかった。この通り、色々世間知らずでな。今回の調査は経験を積ませるということで連れて行ってくれないか? この通りだ」
別にガーナンのおっちゃんだってナラリーが嫌いでそういうことを言ってるわけではなく、こうやって頭を下げて同行を願い出ていることから、ナラリーの成長を願ってということなんだろう。
そして、そう頭を下げられれば嫌とは言えないし、リーダーは私たちやラナさんだし、特に問題がないとして、同行を受け入れることになる。
こうして、ちょっとしたトラブルはあったが、明日出発と話はまとまった。
ちなみに、私たちの帰還については、一日置きにその場に戻ってこれるというと、特に問題なしということになった。
よかったよ。
これで学校に行ける。
……ん? これってよかったのかな?




