第19回活動報告:ギルドの説明と仕事の確認
ギルドの説明と仕事の確認
活動報告者:山谷勇也 覚得之高校一年生 自然散策部 部員
「いやー、参った参った」
「本当に強いですね」
清々しい表情でそんなセリフをいう2人は、ドーザさんとサラさんといって、このリーフロングの冒険者ギルドで名の通った冒険者たちだ。
彼らは地面に座り込んで肩で息をしていた。
「まさか、3人とも息を切らさず、逆にドーザとサラが息を切らせる結果になるとはな」
モッサギルド長がそう驚きの声をあげる。
そう、結局腕試しは問題なく、3人とも終了。
越郁はサラさんやドーザさんと勝負を楽しんでいたから、時間は気にせずやっていたけど、僕や先輩はちゃんと最初の試験の意図である技量と体力を見せるため、ガンガン動いて技量と体力を見せた。
といっても、越郁の勝負の時でわかったが、この人たちはそこまで強くはない。
まあ、強くはないといっても、日本の一般人からすると強い。
あんなに軽々と鉄製の武器はもてないし、振り回せない。
基礎体力というと雲泥の差だろう。
しかし、それは文明のよる差異なだけで、地球でもしっかり武道などをやっている人が相手をすれば負けることはないと思う。
僕たちや里中先生のように人外ではないと思う。
いや、いけないな。
ここには魔術があって、身体能力強化とかもあるから、基礎的なことも違うんだ。
ちゃんと認識を改めないとな。
ドーザさんやサラさんだってリーフロングの冒険者ギルドで有名なだけであって、冒険者全体から見ればまだまだ上の人がいるのは分かりきっている。
僕たちはこの程度でおごらないようにしないとな。
でも、これがここ一帯の名が通った冒険者の実力か。
あとで先輩と相談してどれぐらいの実力を見せるかを考えないとな。
と、そんなことを考えている間に、越郁がモッサギルド長に話しかけていた。
「よーし。これで試験はおわりだねー。で、僕たちのランクはどうなるの?」
「あ、ああ。そうじゃな。不帰の森が主な仕事場だから、基本的にはランク5からなんだが、冒険者になりたてで経験はないし、そうだな一つしたのランク4からといったところかな?」
「うん。ランク4って言われてもよくわかんない」
「まあ、そうだろうな。そこら辺の説明は受付のラナにまかせるか」
「えっ!? 私ですか!?」
「うむ。私もダザン殿もこれから、コイク君たちと交わした約束を履行するために動かなくてはいけないしな。受けてもらいたい依頼も選別しなければいかん」
まあ、そうだろうね。
僕たち新人にずっとお偉いが対応するわけもいかないだろうし。
こうやって約束を守るためにすぐに動いてくれるのはありがたい。
「はぁ、そういう事でしたら、どうぞ、こちらへ」
「よろしくー。おねーさん」
そういうことで、受付のお姉さんに冒険者の説明をしてもらうことになった。
こういう知り合いでパーティーを組んで冒険者になる人もいるみたいで、カウンターには3、4人が座れる場所も存在していて、そこに僕たちは座って話を聞くことになった。
「では、これから冒険者ギルドについての説明をさせていただくことになりました、受付のラナと申します」
「よろしくー。ラナさん」
「よろしくお願いします」
「お世話になります」
「はい。ご丁寧にありがとうございます。では、さっそく説明させていただきます」
流石に受付をやっているだけあって、説明は何度もやっているのだろう。
よどみなく、わかりやすく説明をしてくれた。
『冒険者ギルド』
冒険者ギルドは為政者の手の届かない仕事を処理するために生まれた所謂、万事屋、何でも屋を祖としております。
その仕事は多岐にわたり、ギルドが置かれている場所の村や町の雑用などはもちろん、魔物の討伐、特殊な素材の回収、未知の領域の探索など、冒険者ギルドならではの仕事もございます。
そして何より冒険者ギルドのすごいところは、国家を超えて存在する組織であり、各村や町にあるギルドとの繋がりがあり、有事の際には各ギルドから援軍も呼べ、国に関係なく人材が数多存在するところです。
基本的に国と国との争いには不干渉を貫いており、冒険者が国の要請により出動するのは魔物による防衛、討伐が主であり、他国の侵略からの防衛、または攻める場合は傭兵として個人個人で参加することになりますので、そこに冒険者ギルドの支援はありませんのでご注意ください。
『冒険者のランクについて』
冒険者にはランクというものがあり、1から10までの数字で表されます。
このランクはどれだけ仕事ができるのか、実績、実力があるのかを示すもので、身の丈にあうお仕事選びができます。逆に、身の丈に合わない仕事を受けさせないためのモノでもあり、初心者冒険者が無謀な仕事に挑戦をして命を落とすなどといったことがないようにするための措置でもあります。
細かいランクの説明につきましては……。
ランク1 新人冒険者
戦闘力は皆無として判断され、仕事はギルドがある村や町の中に限ることが多い。
ランク2 駆け出し冒険者
戦闘訓練を受けて、魔物が生息する地域での仕事を受けられるようになるが、魔物が弱い地域に限るため、仕事は主に採取系が多い。
ランク3 冒険者
十分な仕事と戦闘経験を積みそれなりの仕事を任せられると判断されるランク。
ここでようやく普通の冒険者といわれるようになる。
このランクから、町から町への移動など、護衛の仕事などを受けられるようになる。
ランク4 上級冒険者
俗にいう仕事慣れした冒険者で手際もいい。
仕事もさらに難易度の高いものを選べるが、それに伴い危険度も上がる。
ランク5 熟練冒険者
基本的にここが一般の冒険者の到達点といわれるランクで、通常の試験で上がれる最高ランク。
仕事もさらに高い難易度が選べるようになる。
ランク6 ギルド指名冒険者
その名の通りそのギルドが指名でなれるランク。
仕事がなくても一定の給料が入るようになる。
代わりに、色々試験官やギルドの意向で危険度の高い仕事を請け負うことがある。
これはギルド長が任命できるもので、そのギルドの財政の許す限り任命ができる。
ランク7、8、9、10
これ以降は、複数ギルド長の推薦、認可。及び、領主からの認可や、国王などの有力者の支持によりなれる特殊なランクである。
最高ランク10は各国の王などからの支持がある必要がある、所謂英雄といっても過言ではないが、現在は存在しない。
となっている。
なるほど。
モッサギルド長が僕たちをランク4と言ったのはなかなか妥当な線かもしれない。
不帰の森がランク5からとか言ってたし、あそこは難易度が高い仕事ばかりなんだろう。
そこにランク1で行かせると、他の新人冒険者が自分でもやれると勘違いしてしまう可能性がある。
だから、ギリギリランク4にして、不帰の森で仕事をしても問題ないようにしているのだろう。
問題としては僕たちが一度も仕事をまともに受けたことがないことからくる、冒険者の仕事の経験不足というやつだな。
まあ、仕事慣れをランク4でやって、十分だと思われたらランク5に引き上げられるんだろうな。
「……と、コイク様たちは、ギルド長からランク4からといわれておりますので、ランク4からの登録となります」
「それって、やっぱり珍しいの?」
「いきなりランク4というのは珍しいですが、ランク2、3というのはよくあります」
「あれ? そうなんだ」
「はい。ランク1になるのはまだ働いたことのない子供や戦闘経験のない大人ぐらいですね。そもそも冒険者という職業に腕っぷしや基礎知識無しでなろうとするのはそうそういないんです。まあ、一攫千金を狙って夢を追う若者はいますが、他は、元々騎士だったり、兵士として戦争経験があったりという人が多いですから」
「ああ、そうかー。でも、ほら貴族様とか平民がーとかの問題はおこらないの?」
「なくはないですけど。そんなことを容認していたらギルドの信用はがた落ちですからね。そういう試験を行いちゃんと礼儀がなっているかを判断しています。苦情があれば指導、最悪冒険者の資格はく奪というのもあります」
「はー。てっきり、冒険者ギルドって、おらガキは家に帰んなとか言われて、そのままバトルになるかと思ってたんだけど、違うんだ」
「えーっと、血の気の多い人は確かにいますけど、仕事を依頼してくる人や新人にそんなことをしていると、仕事がなくなりますからね……」
尤もな話である。
世の中勝手に仕事が舞い込むなんてのはありえない。
ちゃんと営業というのが必要なのだ。
だから、ちゃんとした対応と仕事をしていますという姿勢は生きて行くうえで必要不可欠。
というか、仕事をくれる人たちを脅すとか本末転倒だ。
そんなことを容認していれば、そのギルドは仕事がなくなって潰れるしかない。
物語でよくある、平民を搾取する貴族や大商人の話しは極まれ。
あんなことをやっていては、すぐに平民が干上がるし、逃げてしまって後に続かない。
そしてそんな統治をすれば他の貴族からの格好の攻撃材料になりかねない。
だから、悪事をやっても生活を脅かすレベルとうのは稀だ。
さらに、この世界は魔物という脅威がいるのだから、人の生活圏は小さく、生産活動をする平民を守らなくては領地経営が成り立たない。
簡単にいうと、異世界であっても世知辛いということだ。
説明を聞いた越郁もなんとなく理解しているみたいでうんうんとうなずきながら話を聞いている。
「確かにねー。そんなところにお仕事頼みたいとは思わないよねー。で、仕事とかはどこで選ぶの?」
「はい。仕事はこのカウンターで、ご希望を聞いて出すことになっています」
「あれ? あっちの掲示板みたいなところに依頼って貼ってあるけど?」
「あちらは常時受け付けているものですね。畑を荒らすロックラビットやゴブリンなどの魔物とかの討伐依頼や、薬草系の採取などですね。あとは緊急依頼などが貼られますが、今はありませんね」
「ほかの依頼も貼っておけば説明する手間が省けるんじゃない?」
「昔、勝手に依頼書をはがして確保してしまう迷惑な冒険者がいましてギルドの依頼が滞ったことがありまして、あとは金額に目がくらんて新人が勝手に飛び出ないようにする措置や、仕事、依頼の取り合いなどを避けるためでもあります」
「はー、なるほど。尤もだね」
聞けば聞くほど納得のルールだ。
こういう所はしっかりしてるんだな。
今日の報告書の内容は冒険者ギルドについてでいいかな?
そんなことを考えている間に話は進む。
「あ、そういえば、魔物の討伐の証とかはどうするの?」
「それは基本的に魔物の中にある魔石を持ってきてもらえればわかります。魔力の流れや質が魔物によって全く違いますからね」
「はー、魔石か。なんかそういえばそんなのあったな。てっきり、こう耳とか、部位を持ってこいっていうのかと思ってたよ」
「生ものは上位アイテムバッグなどがなければ腐りますからね。あとは戦闘で必要部位がなくなることもあるしますし、体内にある魔石が一番安全なんです」
「ふむふむ。じゃ、魔物の死体とかはあんまり需要ない?」
「そうですね、物によります。ゴブリンは肉が臭く潰して肥料にするぐらいしか価値はありませんが、ロックラビットなどはウサギと同じように食べられるおいしいお肉に毛皮に価値がありますので、相応の値段でお引き取りします。あ、ゴブリンは武器を持っていることがありますので、程度によればいい値段で買い取れる可能性もあります。ボロボロでも再利用すればいいので値は落ちますが、ちゃんと引き取れます」
「その言い方だと、やっぱりこの冒険者ギルドで買い取りしてるんだ」
「はい。一応、村や町にある個人のお店でも売れますが、全部が全部買い取れるわけではありませんからね。武具にしてほしい素材などの持ち込みはしても売却交渉などは親しくないと足元をみられますし」
「つまり、ギルドにそれなりの価格で買い取ってもらった方が安定するってことかな?」
「その通りです。こちらから商業ギルドの方へも卸しますし、供給過多になることはほぼありません」
まあ、僕たちが個人個人のお店に持ちこむ手間を考えると、ここで一気に売りさばいた方がいいな。
「で、素材の買い取りなどはこちらのカウンターではなく、あちらの買い取り窓口でお願いします。こちらは依頼の受注や依頼達成料の支払いのみとなっておりますので」
素材の鑑定とかもあるだろうし分けているのは当然だな。
「これで冒険者ギルドの説明は終わりますが、何か質問などはありませんか?」
「うーん。今は特にないかな。ゆーやや先輩はなにかある?」
「そうだなー。今日はダザンさんの案内がまだあるし、仕事とかを見るのは明日でいいよな」
「ああ、勇也君のいう通りだけど、仕事の確認とかはできるのかい?」
「あ、はい。次の日にはなくなっているというのはありますが。確認することはできます」
「じゃあ、ランク1と4の仕事をいくつかと、モッサギルド長がやらせようとしている不帰の森の仕事を見せてもらえるかな?」
「はい。少々お待ちください」
そういって、ラナさんは仕事を見繕うために席を立つ。
「せんぱい。ランク4と不帰の森の仕事はわかるけど、ランク1はなんでまた?」
「そうだね。この町の仕事の内容とかを確認できればと思ったんだよ」
「仕事の内容を確認してどうするんですか?」
「そうだねー。単純にどういう仕事があるのか興味があるんだけど、お店とか、倉庫とか、あるいは何か予想もつかない仕事があるかもしれない。僕たちが予想もつかないような仕事がね。この地域特有のものだったりするかもしれないから、こういう所も報告書にはつかえるかなと思ってね」
「あー、なるほど」
先輩のいうように、依頼の傾向をまとめるのも報告書にはいいな。
そんな会話をしているうちに、ラナさんが紙の束を持ってやってきた。
「こちらの茶色がランク1で、青色がランク4、白色がランク5の不帰の森の依頼書です」
「へー、見た感じこの紙って、草から作ったやつかー」
「はい。リーフロングの特産品ですね。一帯に生える草の種類でいろいろな色の紙ができるんです。まあ、そこまで丈夫ではありませんし、見ての通り不純物がおおいですから、正式な書類は羊皮紙が多いですね」
「あー、そうか灰汁で作るほうが一般的だよねー」
「……なんで作り方を知っているんですか? 機密のはずですけど……」
そういってラナさんの視線が鋭くなる。
あ、越郁の馬鹿!?
そりゃ、この町の主要収入源だろうし、知っている相手は警戒するよな。
本人も迂闊なことを言ったと自覚があったのか、慌てて適当なことを口にする。
「そ、そりゃー、不帰の森で勉強していたし、自前で紙ぐらい作るよ。だから怖い顔しないでラナさん」
「あ、そういわれるとそうですね。不帰の森で修業をするからには、ある程度自分たちで道具を作る必要はありますし、紙も作れるのですね。しかも、他の紙の作り方もご存知のようですし……」
「そこは秘密ってことで」
「……まあ、当然ですね。と、話がそれましたが、依頼の確認をお願いします」
「あ、どうも」
カウンターに置かれた依頼書を3人で確認していく。
僕はランク5、不帰の森の依頼書、仕事内容を確認していく。
内容はオークを討伐して死体を持ってきてほしいとか、森の中にある植物の回収とか、まああまり想像していた内容とはかけ離れていなかった。
「こっちは、魔物の討伐と採取系だな。越郁の方はどうだ?」
「ランク4もあまり変わらないね。ああ、洞窟の中に魔物が住み着いたから調査してくれってのが変わり種かな? せんぱいは?」
「そうだね。ランク1は色々仕事があって飽きないよ。倉庫の整理手伝いとか、教会から炊き出しのお手伝いとか、果てはさっき話した紙の制作の手伝いだね」
「へー。いろいろあるんだ」
「お、これは面白いかもね。発明品に意見が欲しいってのもあるね」
「ほほー、それは楽しそうだねー。ゆーや、その発明品の仕事受けてみたい」
「まあ、後日受けてみればいいんじゃないか?」
「そういえば、勇也君。不帰の森の仕事のほうはすぐに達成できそうな内容はあるのかい? ほら、ガーナン様が言っていたオークって高いみたいだし、依頼があるんじゃないかい?」
「ああ、そういえばありますね」
「でも、それって退治したわけじゃないし、依頼的にはダメなんじゃない?」
「あ、そうか」
討伐って書いてあったしな。
と思っていたらラナさんが間に入って説明をしてくれる。
「いえ、それは討伐して死体を持って帰ってきてほしいという依頼ですので。死体のお肉が目的の依頼であり、死体があれば大丈夫です」
「あ、そうなんだ」
「不帰オークは討伐でもしないと死体は手に入りませんからね」
そういえば、オークたちの野垂れ死にってはの見たことがないな。
回収でもしてるのか?
そんなことを考えていると、先輩がラナさんと話し込む。
「じゃ、死体を持っているんだけどこれで依頼は完了になるのかな?」
「あ、いえ。まずは受注をしていただかないと」
「ああ、そうか。一連の流れも確認したいし、この依頼の受注を頼めるかい?」
「はい。お待ちください」
そいうことで、一旦冒険者ギルドでの仕事の流れをやってみようということになった。
ま、何事も経験だよな。
5日ぶりの投稿です。
大体こんな感じで週一ぐらいで投稿していきますのでよろしくお願いいたします。




