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ジェノヴァの瞳 ランシィと女神の剣  作者: 河東ちか
第四章 剣士ランシィの章

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19.女神の瞳、裁きの剣<1/6>

 先導するオルフェシアの手にある小さなランタンが、濃い闇を裂いていく。

 上も下も石で覆われた、細い通路だった。人が並んで歩ける程度には幅があり、大人が頭をつかえない程度の高さがあった。水路と一枚岩を隔てているだけだから、水滴に近い湿り気が肌にまとわりつき、こけのついた床で足下も危うい。だが風を感じるので、やはりどこかに通じているようだ。

 重厚な石壁の内側に、こんな通路が作られているのだ。

「水路とは別に、こうした通路があるのです。最初は水路の整備のために作られたものを、当時の領主が秘密の出入り口として転用し、それを更に後代に手を加えたようです」

 話ながらも、オルフェシアはランタンをかざし、自分の行く方向を確かめている。後は小走りに、まっすぐな通路を進んだ。

 面白いことにこと通路はすべて一本道で、普通にまっすぐ進んだらいずれただの行き止まりになってしまう。分岐になる部分の出入り口は、行き止まりにあるわけではなく、通路の途中にある柱のどれかに、最初と同じような仕掛けが施してあるのだ。ランシィはオルフェシアが選ぶ柱を注意深く見たものの、なにをもとに見分けているのかは判らなかった。

 通路を移動して三回目で、あたりから湿気が薄れた。こころなしか、壁岩の種類も変わった気がする。緩い上り坂になったらしく、足の動きに重さがかかる。

「神殿の地下に入りました。次の出入り口で、内部の隠し通路に入ります」

 手をつくと無骨でざらついていた岩壁が、なめらかな肌触りに変わった。壁に映るランタンの光に、白い艶が見える。足音にも堅さが加わった気がする。

 次に出入り口となった柱は、今までとは形も素材も違い、ランシィの肩幅よりも広いほど立派なものだった。柱の縁には複雑な文様が刻まれていて、それぞれ微妙に違いがあるようだ。

 オルフェシアはそれらから位置を読み取れるらしい。歩きながら刻まれた文様に目を走らせていたオルフェシアは壁際に耳を寄せると、人の気配ないことを確認し、柱の表面に手をかけた。縁飾りに囲まれた一枚岩が、そのまま押し扉になっていた。

 その先は今までよりも幅が狭くなり、並んで歩くことはできなくなったが、周り中の石壁は白く艶のあるものになった。ここからは、神殿の内部の隠し通路なのだ。

 入ってしまうと位置を入れ替えることはできないので、オルフェシアが先に入り、後から入ったランシィはしっかり扉を閉める。

 足音を殺しながらも早足に歩いた。ここもやはり、分かれ道などはなかった。分岐はすべて、今までと同じように、柱の隠し扉として設けられているのだろう。

「見取り図上、ルベロクロスの安置されている部屋には、神殿正面からまっすぐ奥、いくつもの扉と部屋を通らないと入れないようになっています。反乱軍が正面を突破しようとしているのはこのためでもあるのです」

 その神殿正面の扉は、そろそろわざと開かれて、中に押し入ろうとする先陣と、後背で奇襲を受けて混乱している後陣が分断されつつある頃合いだ。

 壁の向こう側、見取り図では広間の外周に沿った廊下となっている場所から時折、複数人の足音が聞こえ、通り過ぎていった。走り過ぎる際に、金属のこすれ合う音が聞こえたから、武装しているものと思われた。

 神殿に元から暮らすものに、ああした金属鎧で重装備しているものはないはずだ。敵の何者かが、外側の回廊から祭壇の間に続く扉がないかを探っているのだろう。敵の主力部隊とは別に、既に建物内部にも、入り込んでいる者がやはりいるのだ。

 オルフェシアなら、この狭い隠し通路でも、ルベロクロスだけを手に脱出できるが、他のものは持つことができない。数人がかりで台座ごと持ち上げないと動かせないから、バルテロメ側は、ある程度の幅のある出入り口を使う必要があるのだ。

 途中、最初に入ったときと同じような、柱に偽装された扉を三つほど通り抜けた。その三つ目の扉から、比較的広い空間に出たのが、灯りの伸び方だけでなく、風の動きと音の響きの違いで判った。オルフェシアは、すれ違えるほどの幅のある横長の空間の壁を探り、今までとは倍ほど立派になった柱の一つに手をかけ、外の気配を探ってから、押し開けた。

 ひどくまぶしく感じたが、実際にはそれは、天井付近にある壁に作り付けられた細い細い窓から差し込む、わずかな昼の光だった。

 自分たちは広い部屋の側面にでたようだ。陽光が伸びて落ちた先が、一段高くなっている、その高くなった場所に、棺を思わせる細長い箱が横たわっているのが見えた。祭壇の間に出たのだ。

 その反対側を見ると、部屋の大きさの割に慎ましい扉があった。扉と祭壇との間には、緋色の敷物が敷かれ、その敷物を挟んで等間隔に立派な柱が連なっていた。

 向こう側の壁には、等間隔に様々な絵画が飾られている。暗がりの中、はっきりとは見えないが、物語めいたそれらは、サルツニアの歴史の一部を切り取ったものなのだろう。

「……後ろをご覧なさい」

 オルフェシアに言われて、ランシィは自分が今出てきた壁に向けて振り返った。

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