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もてなす心、もてなされる心 1

もてなす心、もてなされる心 1




「・・・い、起・・ろ」

遠くで聞きなれない男の声がする。

きっとこれはいつもの夢だ。行ってはいけない。声の方へは・・・。


「おい、起きろ!」

私はパチっと目を開けた。

唐突に目を開けたことに驚いたのか、私のすぐ目と鼻の先に立っていたおやゆび姫サイズの物影が動きを止めた。

次いで、ほっと息をつく。

「起きたか。ほら、ガッコウとかいうのに遅れるんじゃねぇのか」

そう言ってザイ王子は壁がけの時計を指差した。


「すみませんすみませんすみません!お客様に起こしてもらうなんて本当にもう」

パジャマ姿で平謝りする私。しかも相手を手のひらの上に乗っけて。

ベッドまで来れたのはいいが降りる術を失ったザイを持ち上げ、そのまま謝罪したためそうなってしまった。

「別に気にしてねぇよ。いいからお前は俺を置いてとっとと着替えろ」

手のひらの上のザイは胡坐をかいて困惑の表情を浮かべている。

持ち上げられてパジャマの女子に謝られるというのはきっと居た堪れないに違いない。私は慌ててザイを床に下ろした。

「おかしいな・・・目覚まし時計は何で鳴らなかったんだろう」

今時の高校生ならば目覚ましがなくとも携帯電話のアラーム機能などを駆使して目覚まし代わりにしたりするだろうが、私の場合は携帯を持っていないので選択肢にない。

この貧困生活に通話代だのパケット代だのに何千円も取られるなど言語道断だ。

「めざまし・・・?もしかして異常な音を発する箱型の時計か?」

気まずそうなザイと目が合う。

異常な音。目覚ましに対する何の知識もなければ確かにあれは異常な音だ。

しかも私が彼用に設置したベッド・・・とは名ばかりの家庭科の手芸で使ったあまりの布や毛糸、ハンカチなどを駆使した鳥の巣もどきは私より目覚まし時計に近かった。

私は夢見が悪いためか、夜中に起きることも多く朝はぐずぐずしてしまう。そのために目覚ましは立って歩いて行かなければ止められない位置に置いてあったのだ。

「・・・悪い。とりあえずうるさかったから床に蹴落とした」

「け、蹴落とした・・・」

周辺に目を凝らすと、床に落ちた時計は電池が飛び出た状態で転がっていた。


トースターに食パンを一枚セット。

紅茶のティーパックをマグカップに入れ、お湯を注ぐ。このティーパックは3回目の使用なので色が出るまで根気強く待つ必要がある。

その間制服に着替える。ここまではいつも通りだ。

さて、ここから。一昨日から新たに加わった作業がある。

「・・・お、お待たせしました。はい、乗って」

私が着替えるまでザイは空いている引き出しの中で待ってもらっている。

別に私は後ろを向いてくれるだけで良かったのだが、本人たっての希望でそうなった。

やましい気があるからと言うより居た堪れないのだろう。私のせいではないがちょっと申し訳ない。私が男だったらまだその辺は気が楽だったろうに。

「・・・・・・。」

「・・・?」

ザイがいつまでたっても手のひらに乗ってこないので私が引き出しを覗き込むと、ザイは慌てて目を逸らした。

「どうしました?」

彼は努めて素っ気無く言った。

「・・・・・・シャツのボタン、掛け違ってる」

「!!!!」

私は紳士ザイを入れた引き出しをそろそろと閉めた。


なんかこう、気まずい。私もザイも何かがぎくしゃくしている。

もちろん最初から気安い仲にとは思っていなかったのだが、元気なアインがいないとますます気まずさが浮き立ってしまう。

彼女は昨晩からヴィンキュラム王国に赴いている。彼女たちヴィンキュラムの花の妖精は<国王の試練>の運営委員のようなものらしい。国王には候補者の様子を伝え、候補者には国王の意思を伝える連絡係だ。

いなくなって初めて私は彼女の元気パワーというのは偉大だったことを思い知った。

彼女の場合、元気すぎて空気読めないに発展してしまうのが難点だが、むしろそれくらいでちょうど良かったのだ。今、この空間では。


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


じじじじじーーーーーっ。


「・・・っ?!何の音だ?」

「あ、と、トースターの音です。これ壊れ気味で時々変な音が出て・・・」

「・・・そうか。お、音が出るものが多いんだな・・・」

「・・・は、はは。ほんとですね・・・」


「・・・・・・。」

「・・・・・・。」


部屋の酸素が足りてない気がしてきた。

いや、そんなことはないはずだ。落ち着け私。


チーーーンッ


「?!何の音だ?!」

「と、トーストが焼けた音です!」


本当にこの世界は何て音が多いんだ。



私はこんがり焼けた食パンをザクザクと4分の1に切り分ける。

さらにその4分の1枚をさらに4分の1にする。ようやくそれで彼が食べられるサイズだ。

食事に関してはこうなる予定ではなかったのだとアインは言う。普通のサイズの食事を魔法で小さくして出すつもりだったらしい。それをやめさせたのはザイだった。いわく。

「バカか。食費がかかんねぇのがミニマム化して唯一の利点だろうが。利用しなくてどうすんだ」

私と言えば感動で言葉も出なかった。なんて所帯じみた素敵な王子だろうか。いや断じて愚弄などしていない。所帯じみているというのは私にとって敬愛すべき世の中の節約家たちに向けた最高の賛辞だ。・・・確かに王子には愚弄かもしれないが。

正直言って食費が2倍かかるのは泣きたいくらい困る。だからその時は喜んで彼の考えを支持した。

その時はそう。そう思っていた。

けれど。

私がぼんやりザイを見ていると、ザイは食べるのを中断した。

「このとーすとっていう食い物は面白いな。外側はカリカリしているくせに中はモチモチしてる。向こうの国にこういうのはねぇよ」

私は何故か少し泣きたい気持ちになった。

たった二日のことだけれどザイという王子を見てわかったことは、とにかく彼は正直だということ。

感情先行型。思ったら顔にも態度にもダダ漏れ。とてもわかりやすい。

でもそれだけじゃない。自分がそれだけわかりやすいせいなのか、他人の感情にも敏感なところがある。たとえば今、私が与えた食事に対して彼がどう思っているか気になって。

それでも聞きたくても聞けないでいることを。何も気負わず答えてくれる。

だから私は少し泣きたくて。

お客である彼に与えるパンくずのような食事を。

自分のトースト1枚の朝食を初めて恥ずかしいと思った。

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