プロローグ2 ~こんにちは妖精さん~
プロローグ続きます。
プロローグ2 ~こんにちは妖精さん~
カーテンから差し込む柔らかい日の光。
まどろみの中で聞く鳥のさえずりと・・・
「おっはようございます!!朝ですよ我が主!!!」
元気すぎる妖精の声。
寝不足の目覚めの悪さを感じながら目を開けると、声の主は私の頭上をふよふよと浮遊していた。
握りこぶし大の人型に薄い透明の羽を生やしたその生物と出会ったのは昨日の夜。
あの謎のオッサンが朝露の如く消えたその5分後だった。
私は意地になって目を覚まそうとしていた。
(夢だ。夢ったら夢だっ。覚めるまで目を開けるか・・・っ)
目を閉じてじっとしているというのは結構な苦行だということに気がつく。
気がつけば無駄に力んでいたせいか正座で目を閉じている。
座禅なんてしたことなかったけど、辛いんだな。
いやいや、何もここでそんなことに気付く必要はなかった。
無心とは程遠い心で座禅状態のまま夢からの覚醒を待つ私。
が、足のしびれにより私の意地は5分間でもろくも崩れ去った。
(駄目だ・・・。目覚めない。夢じゃないならきっと疲れて変な幻覚を見たんだ。そうに違いな・・・・・・)
心の声は途中で途切れた。
ぱたぱたぱた。
「あ!主!お目覚めですか?」
鼻先に変な生き物がいる。
「この世界の人は不思議な格好で眠るんですねぇ。私驚きました!」
彼女(性別があるのか分からないが)がニコニコしながら首を傾げるとキラキラした粉がふわっと舞った。淡い青色の髪が揺れる。青い花びらをドレスにした握りこぶし大の生き物。
(こ、これは・・・これはぁ・・・・・・っ)
御伽話の世界ではあらゆる国と地域に分布するその生き物。
私は搾り出すような声で確認する。
「よ、妖精さん・・・・・・?」
ぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱたぱた。
羽の動きが加速した。喜ぶと犬がしっぽを振るのと同じ原理なのだろうか。彼女は至極嬉しそうに頷く。
「はいぃ!私、ヴィンキュラムの妖精です!主が大事にお花を育ててくれたおかげで生まれることができました!」
「・・・・・・・・・・。」
私の中で何かが突き抜けた。ある種の無我の境地だ。頭が真っ白とも言う。
ぱたぱたぱたぱた。
虚ろな私の目にキラキラ光の粉が舞う。
「主?あ、る、じーーーーーーー?あれ?もしかして目を開けたまま寝てしまわれたのですか?!」
「・・・・・・起きてます」
人間の順応力というやつはすごいなと思う。
謎の国王が出現したインパクトを学んだおかげか、この有り得ない状況に対する免疫が付いたらしい。
驚きすぎて何がなにやら、おかしな言い方だが驚くことに慣れてきた。
脳が再起動した私は、目の前の妖精さんを見つめる。
「えーと、妖精さん」
「あ、名前はアインです!!!」
元気一杯だ。うん。何にしても元気なことはいいことだ。
だがしかし、気が付けば壁がけの時計は深夜1時を過ぎている。
ちょっと静かにしたい時間帯だ。一人暮らしのアパート。家賃はそう高くなければ部屋を隔てる壁も薄い。
「アインちゃん。もうちょっと声のトーンを落とそう。夜も更けてるしご近所迷惑だから」
「あ、はいぃー・・・」
素直に声のトーンを落とすアインちゃん。素直でかわいい。
気分は小さい子の相手をする保母さんのようだ。
親近感が沸いてくる。
「で、君は何の妖精ですって?」
「ヴィンキュラムです。ほら、主が育てたお花です。ヴィンキュラムの花が咲くと一人妖精が生まれるんですよ。私は主が育てたヴィンキュラムの花の妖精、アインです!」
そういえばあのオッサン・・・。いや国王様は別れ際に王子の世話はヴィンキュラムの花が請け負うとか言っていた。それはヴィンキュラムの花から生まれる妖精のことを指していたのだ。
「王子のお世話だけでなく、分からないことがあればじゃんじゃん聞いてください!困ったことがあれば私めが微力ながら魔法でお助けします!」
どーんと小さい手で小さい胸を叩くアイン。かわいい。何をしてもミニマムサイズなので愛らしいことこの上ない。
もうこれが夢だろうとそうでなかろうとどうでもいい気がしてきた。
王子が来るんだか何だか知らないが、彼女はとってもいい子でこんなに健気なことを言っている。
あの謎のオッサ・・・国王様ならまだしも、彼女を夢の住人だと言って拒絶する気にはなれなかった。
私は人差し指を伸ばして彼女の頭をちょんとつついてみる。
「?」
妖精は愛らしく首をかしげた。
指には夢とは思えないリアルな柔らかい髪の感触が残る。
「花梨」
「?」
妖精は再び小首を傾げた。
「私の名前。花梨っていうの。主じゃなくて名前で呼んで」
ぱああぁとアインの周りが光り輝く。揶揄ではなく本当に。
この光の粉のようなものは嬉しさに比例して舞うらしい。
「はいぃ!!!花梨様!!!!」
彼女の髪と同じ淡い青色の花弁が植木鉢の中で小さく揺れた。
次でようやくザイ王子・・・。




