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14 王太子の正体・終

2/22 2回目の更新です。

血が出ますのでお気を付けください。

 戦闘の邪魔にならないように後ろに下がりたいが、現実はそういう余裕など無かった。

 初めて見る魔獣の容貌に、頭は真っ白、足はガクブル。

 やっぱり経験が無いことには、体が動かないわー。 

 モブ令嬢のスペック普通すぎて草生える……とか考えて気を紛らわすしかない。

 私は邪魔にならないように……とよろよろと後ずさると、灰黒色の狼が、地面を蹴った。

 私は思わず声を上げてしまった。


「わっ!」

「リオネルは、セシルを守って」

「はっ」


 名を呼ばれたリオネルは、速くしなやかにセシルの前にやってきた。

 明るい栗色の短髪に快活な琥珀の瞳を持つ若手騎士だ。

 日焼けした肌と引き締まった体つき、剣を構えた姿は控えめに言ってもかっこいい。


 魔獣が走るたびに、砂礫が爆ぜる。

 肋骨が浮き出た痩せた身体とは思えない速度で、一直線にレオンハルトへ飛びかかってくる。

 護衛騎士の副官格、アルヴィンの剣が閃き、金属音と共に火花が散る。

 濃い銀灰の髪をきっちりと後ろで束ね、切れ長の瞳は氷のように冷たい。

 長身痩躯で無駄のない体躯は、眼福である。


 狼の牙がアルヴィンの剣に食い込み、甲高い音を立てた。

 え、魔獣、めっちゃ強いじゃないですか……。


「殿下! まだ!」


 あれ、私はレオンハルトの心配をしている。

 背中に棘のある二匹目が横から滑り込んだ。

 砂利を右に左に飛び、踏み砕きながら、体当たりのように突進してくる。

 黒に近い濃紺の髪を無造作に後ろへ流した護衛騎士のガレスが半歩ずれて攻撃をいなし、レオンハルトも軽やかに後退する。

 二人の動きは無駄がなく、風のように静かだった。

 ガレスの広い肩幅と厚い胸板、無言で立っているだけで圧がある。

 オジサマ推しにはたまらんオーラ。

 ガレスは魔獣をレオンハルトから引き離すように、攻撃していた。


「殿下……」


 レオンハルトは剣を持っていない。

 魔法を使おうともしていない。

 一人の護衛騎士は私を守ってくれている。

 他二人の護衛騎士は、魔獣を自分に引き寄せ応戦中。

 一人にすべきではない要人が、がら空きだ。

 自分で自分を守れるから? それとも私のせい?


「殿下、まだ一匹、おります!」

「ごめんね、巻き込んで」


 なんかちょっと心配になって話しかけたけれど、レオンハルトに謝られた。

 いや、そういうんじゃなくて。まだ、三匹目がいるわけで。

 その三匹目は低く身を伏せていたそれだけが動かない。

 じっと、こちらを見ている。

 嫌な予感がした瞬間、そいつの口元がわずかに開く。

 吐き出されたのは、針。

 無数の黒い針が、空気を裂いて飛ぶ。


「針が、たくさん!」


 魔獣が口から針を出すことも、その数も予想外だったのだろう。

 護衛騎士が明らかに焦ったのがわかった。

 まっすぐに、レオンハルトに向かっている。


「危ない!」


 私が叫んでいた。

 レオンハルトの横顔が脳をよぎった。

 諦めながら、笑んでいる表情。

 でも、私と喋る時は、会話を楽しんでいる。

 私が表情を曇らせたり、明るくしたりするのを、もっと見たがっているような。


 ――人との会話に飢えているような。


 ちくりと、胸が痛んだ。

 王太子殿下を、守らないと。

 孤独な十歳の男の子を、守らないと。

 三十歳の私が、強く願った。


「これは……」


 河原の湿った土が、ぶわりと持ち上がる。

 粘土だ、と思った。

 空気中で瞬時に固まり、分厚い壁となって王太子の前に立ちはだかった。

 ぱしん、ぱしん、と乾いた音。


「セシル! 駄目だ!」


 レオンハルトが叫ぶ間も、針が次々と壁に突き刺さっていく。


「っ……!」


 三匹目が顎がないのではと思うくらいに口を開けた。

 数百本もの針がさらに勢いよく吐き出され、すべて粘土の壁に刺さっていく。

 粘土の壁が! ハリネズミに!

 ということは……。


 ――助ける、ことができている?


 ちょっと、嬉しい。

 だが、針を吐き出していた三匹目がこちらへ飛び跳ねながら走ってきた。

 速い。

 牙が迫る。


「セシル様!」


 リオネルがその三匹目の首を切って捨てた。首がごろごろと私の前に転がる。

 魔獣の身体が、地面に体が叩きつけられる。

 他の魔獣は……とレオンハルトの方を見た。


「殿下……?」


 右目を金色に、左目を紫色に染めたレオンハルトが両手を上げていた。

 右手には光を、左手には闇を。

 なんだ、あれは。

 一匹の魔獣は光に霧散し、もう一匹は闇に四散していく。

 影も形もなく、消えていく。

 とても、静かだ。


「な……」


 とんでもない光景を目にして、衝撃が、頭の奥まで響いた。

 何の魔法? そういえば、王太子の魔法って、何?


「セシル様、今のことはご他言無用に願います」


 リオネルが膝をつき、深々と頭を下げてきた。

 私、秘密って知りたくない。だって、リスクだから。

 誰も、知らない王太子の魔法を知った。

 光と、闇。


 視界が白く弾ける。

 鼻の奥が熱い。

 ぽたり。

 赤い雫が、河原の白い砂礫に落ちた。

 ぽた、ぽた。


「……え」

「セシル様!」


 自分の血だと理解するのに、少し時間がかかった。

 魔力の問題か。

 でも、あの粘土の壁は、自分が出したかわからない。

 なんていうか、制御が荒い。

 頭がじんじんする。


「セシル!」


 焦った、年相応の少年の声。


「気をしっかり持って。アルヴィン、魔力回復のポーションを」


 鼻の下がぬるぬるしていて、視界が揺れる。

 いつの間にか、目の前にレオンハルトがいて、見上げている。

 あぁ、倒れているのかと思った。

 レオンハルトが、泣きそうな顔をしている。

 なんだ、人間らしい顔をできるじゃないか。


「……殿下、女性には正論より、ちょっと優しい言葉のほうが効きます」

「あぁ」

「女性を追い詰めると、かみ砕かれますよ」

「僕は、僕をかみ砕くくらいの女性がいいんだ」


 ドMすぎます。

 口に瓶の口が当てられた。

 まずい、超まずい。

 そんな生臭い水が口に流れ込んでくる。

 こんなの飲みたくない。

 私は飲むのを拒否した。


「セシル、良い子だから飲むんだ」


 誰が良い子だ! こっちはもう三十だ! という私と

 怖い、寒い、辛い、優しくして。 そんな風に泣いている五歳の私がいる。


 思った。

 なんだこれ。だるい。

 ああ、めんどくさい。

 超、めんどくさい。

 もういいかな。

 どうせゲームの世界だし。

 土魔法も、国家の基幹も、王太子も、魔獣も。

 いろいろと、重いし。

 ハピエンないし。

 瞼が落ちる。


「……セシル、献上された米と醤油を持ってきたんだ。貴方が、興味をもっていたから」

「米……?」


 良いなぁ。米。

 でも、足りない。


「……魔獣も、食べたい……」


 自分でも何を言っているのかわからない。

 けれど、悔しい。

 まだ味見していない。


「わかった、この魔獣は食べれるように解体するから」


 土鍋、米、炊き立て。

 卵、醤油。

 魔獣の、肉。ジビエ丼?


 暗闇が広がる。

 夢の中で、白い湯気が立つ。

 土鍋だ。

 ぐつぐつと何かが煮えている。


 ――もう少しだけ。


 もう少しだけ、がんばってみようか。

 がんばる理由なんて、たいてい、ささやかなのだ。

 生臭い水を、飲む。


「まっず……!」


 私の意識が完全に途切れた。

次から第二章です。

誤字脱字その他もろもろは、見つけ次第速やかに修正しております。

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