罪と罰
「悠、考えても見なさい。どうしてこういう事態になったのか?どうして貴方は自分の母親を、子供思いな良い母親を、大事な大事な自分の家族を、殺さなければならなかったのか。」
「瑞羽さん…」
…いつの間にか傍らに寄り添っていた彼女の方を見て、悠は深く息を吐いた。
壁に寄りかかり、そのまま床にずり落ちていく。
…自宅の室内は凄まじい荒れ具合だった。
痛みと感情とが最高潮に達した瞬間、彼女は集中を止めた。
まさにその瞬間、紅蓮の業火がかき消えた。
蝋燭の火を吹き消した様に、呆気なく。
そして焼け焦げたキッチンの中に、それは残された。
醜くも焼けただれ、生々しく肉の色を露出させた、彼女自身の母親の死体が。
眼窩を裏側から押し上げる様に、涙があふれて来る。
もっぱら人々により、悲しみと呼ばれる感情が悠の心の奥底から湧き上がって、そして後悔の滝となって流れ出した。
「どう、して…」
「そんなの、決まっているじゃない。」
瑞羽はにっこり笑って、悠の左手を取った。
皮ばかりで繋がる小指の根元から、血が今も尚、流れ出している。
「“意思”を持ったからよ。」
「“意思”…?」
「そう。闘う意志を持った。それを察知して、彼らはあなたの家族を襲った。」
「……!」
悠はハッとした。
そして、壮絶な悲鳴を上げた。
瑞羽の手を振り払い、小指の傷口がうずくのも構わず、焦げ付いた床に突っ伏して慟哭した。
「さて、今はどんな気分かな?」
上から“声”が告げる。
「何をしなければいけないと思う?」
「……。」
悠は無言で頭を上げた。目の前に破片が落ちている。
素焼きの陶片。
長く尖った形に割れていた。
盲目的に、彼女は這い寄ってそれを手にした。
膝を折って座ったまま、漆黒のゴシック・ロリータ衣装の左手の袖をまくった。
「……。」
冷たい陶製の欠片を、自身の左手首にあてがう。
鋭い先が白く細い、柔肌の表面に食い込んで、痺れるような電気的な刺激を悠自身に与えた。
真っ直ぐに彼女は欠片を引いた。
びすっ!
…予想以上の痛みが全身を貫いた。
「!!」
彼女は叫んだ。
そして両目から涙を流しつつ、再び陶器の欠片を、既に痛々しく開いている傷跡の、すぐ隣にあてがった。
「……。」
泣きじゃくり、それでもまだ自傷行為への衝動に突き動かされる彼女を見下ろし、そのおぞましき触手と、点々と広がる肉腫の集合体は怪しげな黒い笑いを、その内部に封じ込めた…
「そこまでよ!」
悠は顔を上げた。
凛とした一声と共に、美しい少女がポニーテールの髪を翻して、部屋に突入して来た。




