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痛みの発見

溢れ出した生き血から、紅蓮の炎が噴出した。

焼き尽くす業火が視界を埋めていく。

見るもの全てを盲目にせんばかりの光の渦がうねり、空間そのものが焼け焦げたかの様な匂いが漂って、悠自身の鼻をついた。


…無意識に、左手を真正面に掲げる。

端から肉が裂け、骨が砕かれた左手を。

悠は残された右手で、自分の胴を支えるかの様に抱き締めた。


…苦痛が、全身の細胞を溶かして液状化して、そして流れ出す一滴一滴が剥き出しの神経をなぞり、次から次へと、失神する程の痛みを心臓の一拍ごとになすりつけて、末端からこぼれ落ちる。

そう感じた。

理性の力で均衡を保っていた怒りと恐怖が、心の中でバランスを崩して溶け合い、また同時に反発し合って、その不調和と不均衡がもたらす捉えようもない動揺によって苦しみと痛みがない混ぜになって、悠の胸の中はグチャグチャになった。

彼女は孤独と不安のただ中で、一人叫ぶ。


「うわぁぁぁぁぁっ!」


“それ”を目撃して、悠は叫んだ。


母親が、燃えている。


血液を沸騰させられて、皮膚を焼き剥がされて、苦しみ藻掻いている。

業火を噴き出す髪の毛が、滅茶苦茶に振り回された。

気も狂わんばかりの悲痛な気持ちが、はらわたの奥底から湧き上がって悲嘆の叫びとなり、悠の喉の奥からほとばしった。


「ーーーーーっ!!」


…同時刻、カフェ“金枝篇”で…


「ねぇ、蔵岡さん。天気予報、見た?」


「え?」


光沢のある漆黒の色をしたテーブルの前。

剣呑な目付きで自らの愛銃を弄くっていた瑞羽は、意外そうにそう呟いて、カウンターの向こう側にいるクイナの方を向く。


「何ですって?」


「いや、だから天気予報。」


クイナはカウンターの隅から出て来つつ続ける。


「…今日はすんごい晴れてる。秋雨前線、どこ行ったんだろうね?」


「……。」


一瞬沈黙した後、拳銃を置き、瑞羽は若干強張った声で尋ねる。


「確かに予報では今日は雨だったわね。それで?私達の敵達の事と何の関係があるの?」


「コーヒー、飲んでみなよ。」


クイナは言う。

黙って瑞羽はテーブルに置かれたカップを手に取り、深い色合いをしたコーヒーを一口啜った。

…味がしない。

夢の中で何かを飲み食いしたかの如く、一切の風味がない無の味だった。

一瞬でコーヒーを噴いて吐き出した。

震える手でコーヒーカップを置き、銃を手に取り、彼女はゆっくりと立ち上がる。


「…一体、いつから…?」


クイナと瑞羽は立ったまま、二人で顔を見合わせる。

…そして互いにハッとして、周りを見回す。


全てが、作り物じみていた。

時代遅れのコマ送りアニメーションの様に、それらは現実らしいテクスチャーを欠いていた。

店内に置かれた人形や絵も、何処となく現実感のない、低解像度のコピー画像を思わせる粗さに満ちていた。


「畜生!」


瑞羽に向かってクイナは叫んだ。


「二人があぶねぇぞ!」


瑞羽は愛銃のグリップを握る自分の手のひらが、汗ばんでいくのを感じた。


「悠…!」

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