【孤独】×FIRE 弐
「そこを見なくてどこを見るってんだ!?」
「もっとあるだろ!」
「大体田中っち、全ての男のロマンって言うけど俺はモデル体型の子のが良いよ。 織田っちとかさ。」
伝太は不思議そうな表情で首を横に振った。
「いやあいつはない──“壁”だし。」
「死ねぇ田中ァ!!」
怒りに満ちた那巳の声と共に、刀の鞘が振り回される。それは田中の後頭部へと強い衝撃を与えた。
「てめえ誰が壁だァおい!」
那巳が伝太の胸ぐらを掴んで振り回す。失神したのか反応は無く、ただ口から泡を吹いてされるがままの状態だ。
いつの間にか甘実と未来の二人も教室に入っており、その様子を傍観していた。
「みーちゃんも怒らなくていいの?」
「まあセクシィボディは事実だしぃ、みたいな?」
教室に響く騒々しい声が、三組に一日の始まりを知らせるようにも思えた。
そして静寂が訪れるのもまた突然──開かれた扉の先には仁の姿があった。
「──!」
刀真は目を疑った。
今朝目にした時と彼の見た目が違う。
まるで喧嘩でもしてきたように身体中が傷だらけだった。
仁は向けられた視線を気にせず席へと着いた。
「何あれ──ボロボロじゃん」
「また喧嘩でもしてきたのか、仁っち。」
「どういうこと?」
“また”というワードが引っ掛かった。
刀真の問いかけに陸は気まずそうな表情を浮かべつつ話してくれた。
「二組の友達から聞いた話だけど、仁っち毎日他校の生徒に喧嘩売りまくって暴れてるらしいんだよね。」
「それなら俺もこんな話を聞いたことあるよ。」
今度は大和が彼について話す。
大和の中学では、他校に園柳仁という札付きの悪がいると噂になっていた。
四六時中、喧嘩に明け暮れて──終いには同級生を四階の教室から突き落としたとまで言われていた。
「おっかねえ! 相手はどうなったんだ?」
「さあ──生きてはいるらしいけど。」
重傷は避けられないだろう。
今も植物状態なんて可能性もある。
だがその話にはある疑問が浮かぶ。
それは──口には出来なかった。
そんな問題を起こして、黒霧入学が無事に済むのか。それは自分の過去を通しても同じことが言える。むしろ、こちらの方がたちが悪い。
「どうして彼はそんなことを?」
「さあ“不良”の考えることはわからないなあ。」
“不良”、その一言で片付けてしまうのはどうも納得できなかった。
話をしている内にチャイムが鳴り、朝のホームルームの時間となる。
煙間の姿はまだない。
「先生また遅刻かよ!」
「いーや煙草吸ってるよ絶対。」
刀真はふと仁の事を見た。
机に伏せている。居眠りでもしているのか。
彼が“不良”だから当然に思える姿だとしても、出てくる言葉は“珍しい”だった。
煙間がやって来たのは朝のホームルームの終わり頃。彼はとても機嫌が悪かった。
今日の午前中には剣術の授業がある。
三組の生徒はそれぞれ二人一組のチームを組み、組み手形式で戦う内容だ。
チームは特に決められておらず、各々で決めるルールとなった。
「私と組まない?」
声をかけてきたのは宇佐美だった。
「えっ、月島さん!」
「どうかな?」
彼女と話す時はいつも緊張してしまう。
言葉が出ないまま、刀真はやっとの思いで首を縦に振った。
「全員組んだな。」
煙間が苛々を全開にして確認を取る。
「遅刻した理由──校内で喫煙してるとこ教頭にバレて怒られてたらしいぞ。」
「いやニコチン切れただけだろ。」
生徒達が小声で話す中、仁が手を挙げた。
「俺がまだなんスけど。」
「おかしいな、このクラスは二十人いるから二で割れるはずだが──。」
欠席者がいる、訳なんてなく人数的に仁と組む予定だった者が校庭で大胆にも居眠りをしている。
出席番号十八番──浮夕霊太だ。
彼は普段も寝ている事が多い。
「って起きろ浮夕!」
反応はない。
夢の中を彷徨って幸福の表情を浮かべている。
「駄目だこりゃ。 しゃあねえ、俺と組むか。」
「え?」
少し嫌そうにしながら立ち上がって、煙間の元へと向かった。
「それでは各自準備はいいな?」
全員が模造刀を構えて、頷く。
開始の合図で一斉に剣を振り始める。
仁は両手で模造刀を握り締めて、煙間と対峙した。
「来い。」
煙間が手で招くような仕草をみせ、組み手が始まる。
先ずは出方を伺うべきか迷い、瞬時に判断した。間合いを詰めて、刀を振り下ろす。
煙間が軽く腕を捻るだけで、攻撃が弾かれた。
勢い反発して今度は左から振り切るも、弾かれる。
この場合は一度引くべきだ。
仁は宙を一回転し、距離を取る。
地面に足が着くと同時に踏み込み、斬り上げて煙間の刀を弾いた。
「──!」
僅かな隙を感じ取って、もう一度刀を振り下ろす──が今度は彼の刀が宙を舞い遠くと飛ばされていた。
「何の真似だ。」
煙間が険しい表情で問い詰める。
その理由が仁には解っていた。
「何が?」
「とぼけんな! お前手を抜いてるな。」
仁にそんなつもりはない。
だが──煙間は彼の剣術に違和感を感じていた。
その剣は黒霧においてまるで、“素人レベル”だ。




