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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・妖精の誘いと聖女の憂い
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旅立つ前に

翌日から数日にわたって次の旅に向けての準備が始まった。


「じゃあ蝶華とルシエは首都で仕入れの方宜しくね。」

「はい、閣下にも行き先は伝えておきます。」

「暫く来れないって、魔道具屋さんに伝えておくよ。」


おっさんと嫁が首都に戻ると一瞬で大騒ぎになる可能性があるため今回は自粛した。森での採取とポーション等の調合、料理の作り置きなどを嫁とコテジで進めている。


次の目的地までは細々とした村を4つ経由して海沿いの港町に入り、海路で中立商業都市を目指すという道程なのだが大きな町は港に着くまでは無いために食材や水などの補給と、そこまで長期ではないにしても連絡が取れる状態では無いことの伝達を含めて準備を進める事となった。


コテジ(ここ)を改装した事を、シスターとヴァイスプレさんあたりが利用することは少ないだろうけれど一応連絡しておいてもらおう。」

「だね、連絡つかなくても置き手紙一枚あるだけでも違うしねぇ」


おっさん達は馬車の中からでも魔方陣を書き込んでコテジには移動できる。だが、世界を見て回るという観点からしてみると毎回コテジに戻って宿泊というのも旅では無い感じなので却下し、出来る限り多くの村や町等を巡りつつゆっくりと海を目指す事となった。


煮込み料理が一段落したのでおっさんはお茶にしようと思い、紅茶の缶に手を伸ばす。慣れた手つきでティースプーンで茶葉を掬い温めてあるポットへ投入、適量の湯を注ぎ、暫し待つ・・・茶葉が少し大きいので3分半くらいかなと、ジャンピングする茶葉を見つめつつおっさんは茶漉しを握りしめて待っている。


一方の嫁は庭に建設予定の鍛冶場の図面を書き起こして、ああでもないこうでもないと独り言を言いながら広さや設備などの設定をしている最中だった。


お茶を回し入れておっさんは嫁に声をかける。


「一息入れよう!お菓子も作ったんだよ。」

「はいな♪食べるぅ~」


お手製のラングドシャをお皿に盛りテーブルの上に並べるとすぐに嫁は手を伸ばして一枚口に運ぶ。


「やっぱアナタ、パティシエにでもなった方がいいわ。」

「結婚してから自分の料理の才能が開花するとは露にも思ってなかったからね・・まぁこの旅の間は専属コックと思ってくれても構わないかな、こんなに料理の時間が取れる事なんて無かったし。」


苦笑いで冗談を言う嫁に答えていると、魔方陣が帰還石が光りルシエが戻ってくる。


「ただいま~あ、何か食べてる。ボクも欲しいよ。」


3人目の嫁化が着実に進んでいるな・・と、おっさんは危機感を覚えつつもテキパキお茶の準備をしていく。


「サクサク、美味しいねコレ」


ラングドシャはフランス料理である、日本だと間にチョコレートを挟んで〇の恋人とかってお菓子もあるが、今回はシンプルに薄焼きである。ザラメを少し用いて表面を滑らかでパリッと仕上げている。


「それで、首都はどんな感じだったのぉ?」

「えとね、何だか皆忙しそうにしてて前に行った時より活気があった。物価も少し下がって、税も安くなったって聞いたよ。」

「ふむふむ、税が安くなって、消費が少し上がって、仕入れが増えて、物価が下がる。いい傾向だね。」


全ていい方向かどうかは分からないが出会った人々の反応を見て来たルシエの話しぶりからすると、暮らしやすい状態で推移している模様なので、おっさんはひとまず胸を撫でおろす。

全ての人が100%満足する社会などあり得ない、であるからこそ皆が笑って暮らせる程度をいかにキープするかが大事であり、その状態である場所にテコ入れする必要性は無い。


あっという間に皿に盛ったラングドシャは消え去り、おっさんはいそいそと皿を片付け洗い場へ向かう。


置かれていた鍛冶場の図面を覗き込んだルシエは思いついたように声をあげる。


「ボクも魔道具の開発工房を庭に作ろうかな、匂いがきつい素材もあるし・・」

「いいんじゃないかな、ドクも喜びそうだし。」


おっさんは即決でゴーサインを出す。庭は前までのコテジに比べると5倍以上の広さがあり、ちょっとしたものなら建設しても何ら問題ない広さが備わっている。


嬉々として嫁と並んで図面の書き起こしを始めたルシエ、それぞれが良い所を出し合って作る物は洗練され高め合う傾向が強いため、おっさんは声はかけずに穏やかに微笑みながらみつめていた。



日が傾き始めている、夕飯は何にしようかと思案し始めたころ。


「戻りました。」


蝶華も戻ってきたようで、何やら荷物を沢山持っている。


「その大袋は?」

「これはですね・・・」


袋から取り出されたのは大きな白い獣、ぱっと見大きなウサギだった。


「高山ウサギの大物です。煮ても、焼いても、揚げても、美味しいですよ。」

「ウサギかぁ、捌いた事は無いけれど鶏肉に近い触感ともっちりした歯ごたえがあるくらいしかわからないけれど、今夜の晩御飯に使っても良いのかな?」

「勿論です、血抜きとモツは取ってありますから、皮を剥いで捌けばすぐにお料理で使えますよ。」

「じゃあ、蝶華もお料理の練習がてら手伝ってくれるかな?」

「はい、喜んで!」


という事でラパンシチューとフライを作ることにしたおっさん達、皮を剥ぐのと捌くのは蝶華が得意なので任せて、フライ用の衣の準備をおっさんは進める。

匂いの少ないのがウサギ肉ではあるが、ジビエであることに変わりは無いので、香辛料をパン粉に合わせて香りづけしておく、捌いた肉をワインに付け込んで柔らかくし、塩コショウで下味もつけておく。


シチューはシンプルに芋、人参、ブロッコリー、玉ねぎ、それぞれこの世界の野菜で味も見た目も似たようなものをチョイスしてある。切って、少量のオイルをひいたフライパンで炒めてから寸胴へ、ウサギ肉はアクが出るので少し多めの水量で素材を入れて火にかける。月桂樹の葉のような香りの香草を一枚一緒に煮込みつつ弱火でじっくりアク取りしつつ火を通していく。

ホワイトソースはグラタンの時とほぼ同様であるが、量が少し多めである。具に火が通ったところで加えてまた煮込む。

最後に少量のすりおろしにんにくと味噌、醤油、バターを隠し味として入れ、塩コショウで味を調えて、完成である。不慣れな人が足すととんでもない事になるので味噌醤油は使用量には要注意。


「ふむふむ・・要注意!っと」


メモを取りつつ蝶華はレシピをまとめている。揚げ物は下味さえきちんと入っていれば失敗することは無いので説明は簡単にする。


「今回は香草をパン粉に混ぜてあるから少し焦げやすいので、低温からじっくりと。浮き上がってひっくり返して衣の色味が揃ったら一度休ませて、今度は強火で一気に揚げます。」


あぶらのパチパチと奏でる音と香草の香りに釣られて、先程お菓子を食べていた二人が覗いている。


「おいしそぉ」

「だね」


本当に約一名は女王なのかな?と一瞬悩んでしまうおっさんだったが、揚げたては美味しいのでまな板の上で4等分にカットして爪楊枝を差し、味見をしていく。


「あ~油が来て、塩気が来て、衣がサクッとして、ふわっと香草の香りが後を引く、美味しい~♪」

「大物の割りにすごく柔らかい、若い個体なのかな?」

「高山ウサギは栄養価の高い木の実を主食としてますから、この大きさでも生後8か月程度かと」

「蝶華は素材にも詳しいんだね、ボクのおつかいも手伝ってよ。」

「ええ、構いませんよ。」


そんなことを話しつつ、蝶華も揚げ物を練習して、揚げ終わると同時に食べ始められるようにテーブルを皆でセッティングしていく。フォークとナイフとスプーンと箸、定番となって来たカトラリー達を並べて。今日はシチューなのでパンをチョイスし、バスケットに盛る。

支度が終わり全員が席に着いて、手を合わせて。


「頂きます。」


ワイワイと話しながら4人で食事をしていると、聖女とか使命感とかそういうのは結構どうでも良く思えてしまうおっさんだった。のんびり世界を回り、手の届く範囲にちょっとした幸せを配って回ろう。と、再確認しつつ皆で食べる夕食は進み、夜は更けていく。


「私のついだ酒が飲めねぇ~ってか?」

「誰?蝶華ちゃんの飲み物にワイン入れたのは!」


嫁が舌を出して、てへぺろ状態である。蝶華はお酒がとても弱いために果実水やお茶で夕食を済ませていたのだが、悪戯好きの嫁に甘いワインを盛られてしまった。

おっさんは力が入らなくなってテーブルに突っ伏した蝶華を肩にかけ、階段を上がっていく。彼女の部屋に入り【浄化】をかけてあげてベッドに横にさせて布団をかける。


「ん~うぁ~旦那様ぁ~しゅき~。」


ガバっと起きて抱き着かれ布団に引きずり込まれるおっさん、何するわけでも無くスヤスヤ寝息を再びたてる蝶華にがっちりホールドされて離脱は現状不可能と考えた。


『嫁、蝶華ちゃんに大好きホールドされちゃってて身動き取れないから、洗い物して片付けしたら先にお風呂入って休んでね。』

『あは、私も酔っぱらえば許して貰えるのかなぁ?』

『嫁が酔っても潰れないのは知ってるし、もぉ無理だと思うよ。』

『残念~、了解したよ、良い夢を。』


次の日目覚めると蝶華は既に起きていて、床で土下座している。


「どうしたの?」

「昨晩はその、酔っていたとは言え、失礼しました。」


手鏡を渡されて、自分の顔を見ると痣みたいになっている部分が結構な数ある。


「以外に甘えん坊さんなんだね蝶華は、びっくりしたよ。顔を上げて、ほら立って」


【ヒール】で痣を消し去りつつおっさんは蝶華を立たせて、おでこにキスをする。


「お返しです。」


真っ赤になってフリーズした蝶華を放置しておっさんは蝶華の部屋を出る。


明日には全準備が整い馬車を回収して出発なので、最終確認もしなければならない、自分の部屋に戻るとおっさんは自室の椅子に腰掛け一息つく。

もぞもぞとベッドの中に蠢く物があった・・・


「何してるの?嫁と・・ルシエもいるのかな?」

「あはは、ばれちゃった」


何だか落ち着かないから布団に入っていたらそのまま二人で寝ちゃったらしい。健全なんだか不健全なんだかよく分からなくなるが、おっさんはお腹を抱えて笑ってしまう。


「女性同士の部屋を心配して落ち着かないって・・・」

「でもぉ」

「ボクも何だかモヤモヤしちゃって・・」


布団の上で座り込んでいる二人のおでこにおっさんはキスをする。


「ありがとね、心配してくれて」


窓の外は良い天気で、草原に朝の風が吹く。高地特有の乾燥した風だが寒くはない、窓を開けると頬を心地よく掠めていく風に目を閉じる。

たまにはこんな朝が有ってもいいものだな・・とおっさんは窓の外に微笑みかける。



明日以降はどんな景色が待っているのだろうと、それぞれが踊る心を少し抑えて準備に動き出す一行だった。



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