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おっさんは聖女になりて異世界を憂う  作者: とくみつ ろゆき
人間の国編・妖精の誘いと聖女の憂い
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マリッジブルーな女王と一行

朝日が差し込み始めて明るくなったキッチンで朝食を作り、リビングでおっさんはソファに腰掛けてお茶を啜りつつぼんやりと思考していた。そろそろ誰か起き出してくるころかな?と思っていると。


「あ、旦那様、だよね?」

「そうですよ、女帝はどうでしたか?あの方も私ですけど、ちょっと変わり種なので・・・」

「うん、すっごく優しくしてもらったよボク」

「そうですか、それはなによりです。」


一体今回はどうしてしまったのか?女帝に問い合わせたいが、毎度のことながら眠ったように反応が無い。

ルシエの分のお茶を準備して再びソファに座ると、おずおずとティーカップを持ったまま黙っている。


「何か、聞きたいことが有るんじゃないですか?」

「わかるん・・だね、実はボク気が付いた事が有って、聞いておきたかったんだ。」

「答えられることは何でも答えますよ。」


おっさんは微笑んで答える、俯きがちになっているルシエを安心させるように無理には話させずタイミングを相手に任せ、聞く構えだけを持って真摯に対応していく。


「旦那様とセシルは異世界から来たんだよね?」

「はい、そうです」

「来たって事は・・その・・戻る予定があるんだよ・・ね?」

「はい、戻る予定です。時期は全く未定ですが、この体そのものが仮初の姿とも言えますし。」

「そうだよね、やっぱり、そうなんだよね。」


恐れと、残念な気持ちで一杯になった心を押し隠すようにルシエは言葉を選んでいる。おっさんは嘘をついたり胡麻化したりしてもいずれわかる事であるので、答えられて良かったとも考えている。


「ルシエさんは置いていかれることが心配ですか?それともその事を事前に言われなかったことが不安ですか?私は最初からその事を伝えてしまっていたら、今の様な関係にはなれていなかったと思っています。」

「多分、置いていかれることが怖い。不安は不思議と無いんだ、なんでだろうね。」


無理して笑っているルシエを見ておっさんは立ち上がり、窓際に歩いて行き、ルシエの方へ振り向き明るく言葉を紡ぐ。


「まだこの世界に来てからそんなに時間が経っている訳ではありませんが、私もセシルもこの世界の様々な種族の方々、色々な景色などに触れてとても気に入っています。私たちの来た世界には無いものも多く、興味深い事もあり、なにより愛しい仲間もできました。」


おっさんはてくてくと踵からゆっくりと大股で手を後ろで組んでルシエの前まで歩み居る、ルシエが硬くなって膝の前で両拳を硬く握りしめている手を包み込むように取り、その手を開かせながら。


「絶対に無責任な事はしないと約束します。形がどうなるかは今はまだわかりません、それだけが申し訳ない部分なのですが、聞いてくれますか?」

「聞くよ、ボクは旦那様とセシルを信じているもの!」

「わかりました、では・・そこに隠れている二人も席に着いて下さい。」

「うぇ・・バレてるよぉ・・」

「完全に隠密状態でしたよ・・・」


嫁と蝶華が階段の隅っこからリビングが見える位置で密かに途中から見ている事をおっさんは気が付いていた。単純に主寝室の扉に警備用に結界を張っておいたので反応が有ったことで確認できただけなのだが・・


「まず、これを見てください。」


おっさんはアイテムボックスから【羽衣】をおもむろに取り出し肩に装備して見せる。


「あれって、土石流の時に装備していた・・」

「見たことない装備だねぇ~」

「それって神威に満ちている装備だね・・・」


おっさんは答えずに静かに頷き、両手を水をすくう様に形作ると、祈る様に口を開き。


『我が祈りを聞き届け、彼方より此方へ、運べよ運べ流る水が如く、望む奇跡を顕現せよ』


手の平がふわっと光を放ち、瞬きの間にそこに無かったものが現われる。


「アナタ!それって・・キャラメル?」


四角くて黄色い、日本人なら誰でも見たことが有るようなキャラメルの箱が手の平にはあった。


「そう、女神から授かった神威魔法っていうものなんだけれど、人の願い、思い、祈り、それらを糧にして奇跡を体現するっていうものなんだ。」


「魔法というよりは神の力そのもの・・ではないでしょうか?」

「神器、だね・・ボクは初めて見たよ。」


おっさんはキャラメルの箱をスライドさせて一人一個ずつ配ると、嫁は手早く包装を取って口にほうりこんでいた。それを見た二人も続いて口に入れていく。


「私の願い、祈りだと、今はこれが精一杯。でも、元の世界に戻るまでには必ずルシエと蝶華が幸せになる形を作って見せる。これは私自身の強い願いだから。」

「同じく、私の祈りでもあるよぉ♪」


被せて乗っかって来た嫁はドヤ顔である。ほっぺのキャラメルが凸ってて格好がついていない、一斉に皆で吹き出してしまった。笑いあったことで今まで支えていたものが解けていく。


「わかったよ、ボク信じて待つよ。」

「私もです。」


二人の言葉に心底安堵した。


「話し出すのが遅くなってしまって申し訳ないんだけど、この神器は唯一神スィーリズでは無く、私たちの元居た世界の女神フィーリズ様からの借りものなんだ。女神スィーリズにバレちゃうと色々面倒でね。」

「それで結界内のこのコテジなんだねぇ。」


納得した一同を見て羽衣をアイテムボックスに収納してからおっさんもソファに座る。


「ふぅ、流石にルシエには嫌われちゃうかと思ったよ。」

「やっと呼び捨てにしてくれるんだね、ボク嬉しいかも。」

「私もです、感激です!」


やっと座ってまったりしようと構えた所に二人が左右からぎゅっと腕にしがみつく様にくっついてきた。狭くて姦しくて、面倒だなと思う時も有る、それでもこの二人は愛おしい者の一つになっていて、悪い気はしない。嫁といる時の感覚に近い感情におっさん自体も驚いていた。


それから朝食を取り、エルフの里へと戻る。


「おはようございます、昨夜はお楽しみでしたね!」

「っつ!?オハヨウゴザイマス、戻りました。」


出迎えてくれた厨房女エルフの言葉に思わず突っ込みを入れてしまいそうになったが・・・なったが、耐えた。


「夫婦になるんだよ?当たり前だよ。」

「です!」


距離感がさらに縮まったルシエと蝶華は人目を厭わずにおっさんに抱き着く、こういう場合嫁の方に抱き着くのが妥当ではないのか?と思いつつも半ば諦めた表情で、おっさんは本日の予定を皆に伝える。


「結婚式前日の今日に急いですることも無いし、久々に自由行動とします!」

「自由行動ですか?何をすれば・・・・」

「それ決めて貰ったら自由行動じゃ無いしぃ~♪」

「ボクは里の皆の顔を見て回ろうかな。」


思い思いに行動を決めて動くことも大事であろうと思い提案したのだが、蝶華は里に知り合いがいるわけでも無し結局嫁と私の3人でゆっくりすることとなった。

嫁の剣が傷んでいたことを思い出して、鍛冶の工房は何処に有るのかを厨房女エルフに聞いてみる。


「エルフの里でも鉄自体は加工していますが、矢じりやナイフ程度のものだけで剣の手入れをする程の施設はございません。」

「そうですか、何処か専門で鍛冶が出来るような街や国が有るのですか?」

「ここ辺りには無いですね、中立商業都市か、ドワーフのいる洞窟街のどちらかだと思われます。」


そう言っておっさんが開いていたマップの2点を順に指さす。


「森を離れ海沿いを進んで、港町から海路で進むと中立商都市です。中立なのでどなたでも入れます。」

「便利ですね、海には行こうと思っていたので、先にそちらに向かおうかな。」

「それが良いかも知れません。ドワーフの住む地へは中立商業都市からさらに海路で大陸を超え、話で聞いた分だとこの辺りにあるという事ですが、詳しくは私は分からないというのが本音です。」

「成程、説明有難うございました。」

「いいえ、参考になられたなら幸いです。」


厨房の女性エルフと別れ、嫁と蝶華と用意された部屋へと向かう。何をするわけでも無くゆっくりと会話いつつ過ごす。


「太郎ちゃんのお手入れはお預けかぁ~」

「コテジに時間が出来たら鍛冶場作ろうか?」

「いいねぇ~カンカンしちゃうよ~♪」

「楽しみです。」

「蝶華も剣の手入れのついでに投擲武器を作ってもらうといいね、今回の様な戦いは無い方がいいんだけれど、何時何時何が起こるかはわからないからね。」

「はい、肝に命じておきます。」



一方のルシエは里の外れにある墓地へと来ていた。


「父さん、母さん、ボク結婚することにしたんだ。旦那様もセシルも蝶華もすごくいい人で暖かい気持ちになれるんだよ、祝福してくれる?してくれると嬉しいな。」


一つの墓標の前でルシエは恥ずかしそうに語っている。


「この里を離れる決意もしたんだよ、ルシリルとルデス叔父さんには迷惑かけちゃうかもだけど二人とも賛成してくれた。行って来いって・・」


寂しいのか、嬉しいのか、恥ずかしいのか感情がぐちゃぐちゃになって笑いながら涙をこぼしているルシエ、後ろからそっと抱きしめられる。


「大丈夫ですよ、姉様は好きになさって下さい。里に残り、里を守る。これは私の意志ですから。」


現れたルシリルも涙していて、墓標の前でふたり静かに暫く向かい合って抱きしめあった。

落ち着きを取り戻してから、墓標の方へ向き直り。


「じゃあ父さん、母さん、また来るよ。次は家族と一緒に必ず来るから、待っててね。」


ルシエはルシリルの手を取り里の方へ歩き出す。

上を向かないとまた涙がこぼれそうだった、空は青く、高く、広い。

見上げた空の向こうに父と母の笑顔が見えたような気がして目を擦ってみるが、やっぱり何もない。


「明日は結婚式です、涙はここまでですよ姉様。」

「わかってる、ありがとうルシリル。」


ゆっくりと手を繋いで家へと帰る二人の背中は小さなエルフ二人のままの様に映っていた。


それを見ているのは里の風と墓標たちだけであった・・







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